乳由来「βラクトペプチド」を用いた臨床試験で、メンタルヘルスや精神的活力を改善することを世界で初めて確認
PR TIMES / 2022年7月21日 21時40分
キリンホールディングス株式会社(社長 磯崎功典)のキリン中央研究所(所長 矢島宏昭)は、乳由来の「βラクトペプチド※1の1つであるGTWYペプチド※2(以下、βラクトペプチド)」を用いた臨床試験で、日常的にストレスを感じている人のメンタルヘルスや精神的活力を改善することを、世界で初めて確認しました。
当社はこの研究成果を、2022年7月14日(木)~15日(金)に、日本うつ病学会が主催した「第19回日本うつ病学会総会」で発表しました。この研究と関連した成果は、6月17日(金)に行われた「第22回日本抗加齢医学会総会」においても発表し、「最優秀発表賞」に選出されました。
※1 乳タンパク質に由来し、トリプトファンーチロシン(WY)のアミノ酸配列を含み認知機能改善作用を有するペプチドの総称。
※2 βラクトペプチドの主要な成分で、グリシン‐トレオニン‐トリプトファン‐チロシンの配列を持つペプチドの総称。
●研究背景
超高齢社会や新型コロナウイルス感染拡大に伴う社会環境変化により、うつ病などの気分障害の患者が増えており、メンタルヘルスは大きな社会課題となっています。メンタルヘルスは日常生活を通じたケアが重要であり、食を通じた対策にも注目が集まっています。また、近年の疫学調査より、乳製品の摂取が気分状態の維持改善と関連することが報告されています。
当社は東京大学や協和キリン株式会社(社長 宮本昌志)と連携した長年の脳科学研究の成果として、カマンベールチーズなどの発酵乳製品に多く含まれる「乳由来のβラクトペプチド」を発見し、ヒトの認知機能を改善することを報告しています※3。また、βラクトペプチドは脳に届いて、脳内のドーパミンを増やすこと、うつ病との関わりが知られる脳内炎症を抑制すること、抗うつ作用を示すことが非臨床試験で確認されています※4が、気分状態に関するヒトへの効果は不明でした。
※3 Ano Y, Nakayama H, et al., Neurobiology of Aging, 2018, 72: 23-31
※4 Ano Y, et al., Journal of Nutritional Science and Vitaminology, 2019, 65.5: 430-434
●研究概要
「日常的にいらいらを感じている」など気分状態に問題を感じている45歳~64歳の健常な中高年齢者層の60名を対象に、ランダム化二重盲検比較試験を実施し、βラクトペプチドを含むサプリメントの摂取が気分状態や精神的活力に及ぼす効果を臨床試験で検証しました。6週間の摂取前後に質問紙によって気分状態を評価し、生体指標として唾液中のストレスマーカーを測定しました。その結果、日常の不安感、ストレス知覚度および精神的活力のスコアが、βラクトペプチドを摂取した群ではプラセボ群と比較して有意に改善しました。また、ストレス状態を評価する指標である免疫グロブリンA(IgA)もβラクトペプチドを摂取した群では同様に改善しました。以上の結果より、βラクトペプチドは「日常的にいらいらを感じている」などの気分状態を改善し、精神的活力が向上することが初めて確認されました(図)。
今回の試験では、認知機能改善効果と同じ摂取量で効果を確認しており、βラクトペプチドが脳と心の健康の両方に役立つ可能性が期待されます。
[画像1: https://prtimes.jp/i/73077/442/resize/d73077-442-f80384df27d8ba3c06ce-0.png ]
図 βラクトペプチドによる気分状態、精神的活力の改善
●「キリン脳研究」について
[画像2: https://prtimes.jp/i/73077/442/resize/d73077-442-23e15bf0604c05245363-1.jpg ]
日本は4人に1人が高齢者※5の「超高齢社会」となっており、2025年には高齢者のうち5人に1人が認知症になる※6と推計されています。また、昨今の急激な社会環境変化もあり、脳や心の健康増進は大きな社会課題となっています。キリングループでは、脳科学研究を通じて「脳や心の健康」を守り、新たなよろこびを生み出す「キリン脳研究」を進めています。
「キリン脳研究」は、キリンならではの発想と技術で脳の健康を守ることを通じ、社会課題の解決に向けて貢献するとともに、一人ひとりが社会の中で、自信や希望、そして気持ちのゆとりを感じながら暮らせるこころ豊かな社会の実現を目指していきます。
※5 内閣府 令和2年版高齢社会白書
※6 厚生労働科学研究費補助金 厚生労働科学特別研究事業. 日本における認知症の高齢者人口の将来推計に関する研究. 平成26年度総括・分担研究報告書. 2015.
キリングループは長期経営構想「キリングループ・ビジョン2027」を策定し、「食から医にわたる領域で価値を創造し、世界のCSV※7先進企業になる」ことを目指しています。
その実現に向けて、既存事業の「食領域」(酒類・飲料事業)と「医領域」(医薬事業)に加え、キリングループが長年培ってきた高度な「発酵・バイオ」の技術をベースにして、人々の健康に貢献していく「ヘルスサイエンス領域」(ヘルスサイエンス事業)を立ち上げ、育成を進めています。ヘルスサイエンス領域では、「免疫」および「脳機能」などを重点領域に定め、さまざまな研究開発を行っています。今後は、大学や自治体などと連携しながら「脳の健康」サポートが可能な社会の実現に向けた取り組みを進めます。
※7 Creating Shared Valueの略。お客様や社会と共有できる価値の創造。
キリングループは、自然と人を見つめるものづくりで、「食と健康」の新たなよろこびを広げ、こころ豊かな社会の実現に貢献します。
-記-
1. 発表演題名 乳由来βラクトリンは不安感およびストレス状態を改善する
~抑うつ度の高い健常者対象のランダム化二重盲検比較試験~
2. 学会名 第19回日本うつ病学会総会
3. 発表日 2022年7月14日(木)・ 15日(金)
4. 発表者 キリンホールディングス株式会社R&D本部キリン中央研究所
綾部達宏、喜多真弘、阿野泰久
慶應義塾大学文学部心理学研究室 梅田聡
東京都長寿医療研究センター 鳥羽研二
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