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地球に優しいキラルカルベン発生法を開発 安定なベンゼンの不斉脱芳香族化を実現!

PR TIMES / 2021年1月5日 11時45分

 千葉大学大学院薬学研究院 根本哲宏 教授及び原田慎吾 講師の研究グループは、独自の触媒技術と理論解析法を利活用したキラル銀カルベン発生法を確立しました。それらを用いて活性化されていないベンゼン類の不斉脱芳香族化反応の開発に世界で初めて成功しました。これにより原油から容易に誘導できる原料より、医薬候補分子が迅速に合成できます。本手法はこれまで合成に必要としていた毒性の高いジアゾ化合物を用いず、合成プロセスの簡略化によるコスト削減もできることから、環境に優しい有機合成化学の草分け的研究となることが期待されます(図1)。
 本研究成果は2020年12月31日に米国化学会誌Journal of the American Chemical Societyオンライン版に速報誌として公開されました。



[画像1: https://prtimes.jp/i/15177/450/resize/d15177-450-773314-5.png ]



研究背景


[画像2: https://prtimes.jp/i/15177/450/resize/d15177-450-668932-1.png ]

 私たちの身の周りでは様々な化学物質が利用され、その過程で直接的または間接的に環境負荷が生じています。持続可能な社会を目指す上で、新しい物質を創出する学問である合成化学の役割は大きく、社会的要請の高い研究分野です。近年、物質生産における環境調和型の技術革新に向け、欲しいものをより短工程でかつ高効率で合成する技術開発が求められています。
 本研究グループでは、芳香族化合物の脱芳香族化反応(注1)および金属カルベン(注2)というユニークな反応特性を有する高活性種を有機合成に応用する研究を推進しています。金属カルベンは、現在、世界中で活発に研究がなされており、本化学種を用いた医薬品(抗腫瘍剤のエグアレンナトリウム等)の合成例も多数あります。キラルカルベンを発生させることができると、キラル化合物を直接的に合成することが可能となり、医薬分子の迅速合成、製造コストの削減が可能となります。
 しかし従来から用いられている金属カルベン発生法には、次の2つの課題がありました(図2)。
1)金属カルベンを発生させるために、潜在的な爆発性・毒性を有するジアゾ化合物を用いる必要があること。
2)ジアゾ基を基質に導入する工程が必要となることから、物質生産コストが上がること。
 これらの理由により、ジアゾ化合物を用いずに金属カルベンを発生させる、“ジアゾフリー“な金属カルベン発生法が注目を集めています。
[画像3: https://prtimes.jp/i/15177/450/resize/d15177-450-429671-2.png ]

 “ジアゾフリー“な金属カルベン発生法の中でもイナミドと呼ばれる官能基から金属カルベンを発生させる手法は、イナミド化合物の高い安定性と安全性、容易な基質調製、穏和で簡便な反応条件といった理由から、近年多くの研究がなされています。しかしこの手法では、キラルなカルベン種を発生できず、不斉反応への応用が達成されていない、利用可能な金属が限定的であるといった研究課題が残されています(図3)。


 本研究グループはこれまでに、金属カルベン反応を用いたフェノール類の脱芳香族化反応を開発していました(関連ニュースリリース参照)。その研究過程で得た脱芳香族化反応に関する知見およびエナンチオ選択性制御技術(特定の不斉分子を選択的に合成する技術)を生かすことで、上記の未達成な課題を一挙に解決し、革新的で環境調和型の合成法が確立できると期待し考えました。


研究成果


[画像4: https://prtimes.jp/i/15177/450/resize/d15177-450-177737-3.png ]

 研究グループは、天然より安価で大量に入手可能なベンゼン類の脱芳香族化反応をモデルとして検討を行いました。その結果、イナミド化合物にキラル銀触媒と酸化剤を作用させることで、銀カルベンが発生し、通常は非常に厳しい条件でのみ進行する不活性ベンゼンの脱芳香族化が進行することを観測しました(図4、図5)。

[画像5: https://prtimes.jp/i/15177/450/resize/d15177-450-327488-4.png ]

さらに反応条件を精査して、様々な置換様式の基質へと適用したところ、総じて高い収率及びエナンチオ選択性が発現しました。また、反応系中で生成するノルカラジエンに注目し、系中でペリ環状反応カスケードを進行させることで、医薬品類縁体へと変換可能な5連続不斉中心を有する縮環化合物を一挙に構築することができました(図51.)。さらに、活性化されていないベンゼン環を、”仮想上のシクロへプタトリエン”のように変換できることを示しました(図52.)。
 また、理論計算による反応メカニズム解析を行い、金属カルベン種が発生する経路と脱芳香族化反応および環化付加反応の過程と必要な活性化エネルギーを算出することに成功しました。これにより、化学選択性・エナンチオ選択性を合理化することができ、新たな反応デザインに向けた重要な知見を得ることができました。

研究者のコメント(千葉大学大学院薬学研究院・根本哲宏)

 本研究で開発した分子変換法により、未達成であった活性化されていないベンゼン環の不斉脱芳香族化反応が実現可能になりました。ジアゾフリーな反応条件を確立したことから、広く適用可能なポテンシャルを秘めた合成技術であると言えます。今後は、イナミドを用いた銀カルベン発生法に基づくさらなる応用展開を模索する予定です。この研究成果が環境調和型の安定分子変換法の先駆けとなることを期待します。


研究プロジェクトについて

 本研究は、東レ科学振興会、双葉電子記念財団、千葉大学グローバルプロミネント研究基幹、武田科学振興財団、内藤記念科学振興財団、科学研究費助成事業( JP18H02550, 18K05098, 20J11421)の支援により遂行されました。また量子化学計算は、千葉大学統合情報センターの高速演算サーバ SR24000を用いて行われました。


用語説明

(注1)脱芳香族化反応:ベンゼンに代表される平面的な芳香族化合物を、三次元構造をもつ脂環式化合物へと変換する反応です。 無尽蔵に存在する芳香族供給材料から世界に存在しなかった分子群(未開拓ケミカルスペース)を占有する医薬分子等)を迅速に合成できることから反応のひとつとして脚光を浴びています。
(注2)金属カルベン:炭素原子は四配位の状態(手が4本)がで安定であするのに対して、不安定な中性二配位のカルベンと金属原子が形式的に二重結合を形成した高活性な化学種が金属カルベンです。高すぎる反応性をどのように制御するか、様々なアプローチが世界各地で研究されています。

関連ニュースリリース

・世界初!エナンチオ選択的な銀カルベノイド反応を開発(平成29年7月25日配信)
https://www.chiba-u.ac.jp/general/publicity/press/files/2017/20170725yakukagaku.pdf

論文情報

・論文タイトル:Asymmetric Intramolecular Dearomatization of Nonactivated Arenes with Ynamides for Rapid Assembly of Fused Ring System under Silver Catalysis
・雑誌名:Journal of the American Chemical Society
・DOI:10.1021/jacs.0c10682

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