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世界初の技術で大気境界層のオゾンとその前駆気体を同時にリモートセンシング 国内の大気汚染対策に新たな観測事実

PR TIMES / 2021年5月13日 18時15分

 千葉大学環境リモートセンシング研究センターの入江仁士 准教授らは、世界に先駆けて地上リモートセンシングにより大気境界層(PBL:注1)中のオゾン(O3)とそれが生成される前段階となる気体(前駆気体)の濃度を同時に観測する技術を開発しました。これを用いて、千葉市とつくば市において2013年より7年に及ぶ長期連続観測を実施し、年々の濃度変動傾向を定量的に調べました。すると、千葉市においてO3の前駆気体の濃度は年率6~10%の速度で急激に減少していましたが、O3の濃度には有意な減少は認められないことが明らかになり、より一層の国内の大気汚染対策が必要なことが示唆されました。本手法による観測結果に基づき大気汚染対策を進めることで、脱炭素化も同時に進み、温暖化対策に貢献できるものと期待されます。
 本研究成果は、2021年5月6日に日本地球惑星科学連合(JpGU)の英文電子ジャーナルProgress in Earth and Planetary Science (PEPS)に掲載されました。




研究の背景

 地球温暖化対策として、主要な温室効果ガスである二酸化炭素(CO2)の削減が不可欠ですが、CO2と大気汚染物質の発生源を考えると、共通して化石燃料の燃焼等の産業活動に由来するものが多くあります。そのため、大気汚染対策を進めれば温暖化対策になるという相乗効果(コベネフィット)に注目して対策を進めることが重要です。
 このような認識の下、短寿命気候汚染物質(short-lived climate pollutants; SLCPs)(注2)のひとつである対流圏(PBLを含む)中のオゾン(O3)濃度の減少が求められてきました。O3は化石燃料の燃焼等の産業活動に由来する前駆気体である窒素酸化物(NOx = NO + NO2)や揮発性有機化合物(VOCs)から生成し、光化学オキシダントとして人体や植物に悪影響を及ぼします。そのため、NOxとVOCsの排出規制が進められてきましたが、それらの濃度低下が示されつつも、O3の濃度は有意に減少しないという矛盾が報告されてきました。その要因として、中国大陸からの越境汚染の影響が特に数値モデルを用いた解析から強調されてきました。

研究の成果


[画像1: https://prtimes.jp/i/15177/491/resize/d15177-491-867017-0.png ]

 研究グループはまず、人工衛星搭載センサーOMI(注3)による観測データを解析したところ、2013年~2019年の7年間に中国を含む東アジアの対流圏中のNO2量が急激に減少していたことを明らかにしました(図1)。これは、アジア大陸から日本への越境汚染の影響が、抑制されていた、或いは、ほとんど変化しなかったことを示唆します。


 この特異な期間に、千葉市とつくば市において、独自の技術である多軸差分吸収分光法(MAX-DOAS法:注4)を用いた地上リモートセンシング(図2)により、PBL中のO3、二酸化窒素(NO2)、ホルムアルデヒド(HCHO)濃度の連続観測を実施しました。NO2とHCHOはそれぞれNOxとVOCsの濃度変化の指標とみなすことができます。その結果、千葉市においてはNO2とHCHO濃度が年率6~10%の急激な減少を示しましたが、O3濃度は有意な減少を示しませんでした(図3)。

[画像2: https://prtimes.jp/i/15177/491/resize/d15177-491-471669-1.jpg ]



 この新しい観測事実は、千葉市ではO3の生成速度がVOCs濃度で律速されている一方で、NOx濃度の減少がNOによるタイトレーション効果(注5)を抑制するメカニズムが顕著に起きていることを示します。越境汚染の影響ではなく、このメカニズムが、前駆気体の減少によるO3の減少量を打ち消したと考えられます。また、MAX-DOAS法によるPBL観測は、VOCs律速領域において、HCHOとNO2の濃度比がどの月においても1以下の値を示すことも分かり、大気汚染対策に役立つ指標となることを提案しました。これらの結果から、MAX-DOAS法は、大気汚染対策に役立つ指標としてのHCHOとNO2の濃度比とともに、PBL内のO3の変動を解析するためのユニークな観測手法であることが分かりました。

[画像3: https://prtimes.jp/i/15177/491/resize/d15177-491-361620-2.png ]




今後の展望

 本研究の結果から、O3濃度の減少にはさらなる前駆気体の濃度の減少が不可欠であり、一層の国内の大気汚染対策が必要であることが示されました。大気汚染対策を進めることは脱炭素化を促進し、温暖化対策に貢献するといったコベネフィットが期待されます。また、大気汚染対策を進めるために役立つ指標 (HCHOとNO2の濃度比)が提案されました。この指標の妥当性を、新型コロナウイルスの影響で濃度変動が大きかった2020年などの新しく蓄積されているデータからも評価することにより、より効果的な環境対策への貢献を目指します。


用語解説

(注1)大気境界層(PBL):対流圏のうち、流体としての大気が地表面の影響を受ける高度0-1 kmの層をいう。地表面の影響をほとんど受けない自由対流圏と区別される。大気境界層内では自由対流圏に比べ人間活動などの地表の影響が顕在化する。
(注2)短寿命気候汚染物質(short-lived climate pollutants; SLCPs):大気への放出後、気候に対する影響が数日から10年程度の物質(短寿命気候強制因子(short-lived climate forcers; SLCFs))のうち、放射強制力が正(温暖化を誘因)である物質のこと(国連環境計画の下で活動している「気候と大気浄化の国際パートナーシップ(Climate and Clean Air Coalition; CCAC)」による定義)。具体的には、対流圏オゾン、メタン、ブラックカーボンなどがある。
(注3) 人工衛星搭載センサーOMI:Ozone Monitoring Instrumentの略。2004年に打ち上げられた米国NASAの衛星Auraに搭載されているセンサー。オランダ、フィンランド、米国によって運用。地表や大気で散乱される太陽光の可視領域を分光することで、NO2等の大気汚染物質の大気中カラム濃度を測定出来る。空間分解能は、13 km × 24km(直下視の場合)。
(注4) MAX-DOAS法:Multi-Axis Differential Optical Absorption Spectroscopyの略。NO2等の大気汚染物質の大気中カラム濃度と鉛直分布データを得るための地上設置型のリモートセンシング装置またはその技術。
(注5)NOによるタイトレーション効果:NO+O3 → NO2+O2の化学反応によってO3濃度が減少する効果のこと。


研究プロジェクトについて

 本研究は、環境再生保全機構の環境研究総合推進費、日本学術振興会の科学研究費助成事業、宇宙航空研究開発機構の地球観測研究公募の支援を受けて遂行されました。


論文情報

・論文タイトル:Continuous multi-component MAX-DOAS observations for the planetary boundary layer ozone variation analysis at Chiba and Tsukuba, Japan, from 2013 to 2019
・掲載誌:Progress in Earth and Planetary Science (PEPS)
・著者:Hitoshi Irie, Daichi Yonekawa, Alessandro Damiani, Hossain Mohammed Syedul Hoque,
Kengo Sudo, and Syuichi Itahashi
・DOI:https://doi.org/10.1186/s40645-021-00424-9

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