新型コロナ医薬品の知財保護免除案 米通商代表部も支持表明――反対国は今後の協議に向けて譲歩を
PR TIMES / 2021年4月22日 15時15分
世界貿易機関(WTO)は4月22日、新型コロナウイルス感染症の世界的大流行(パンデミック)が続く間は関連医薬品の知的財産権保護を一部免除するという提案を巡る討議を行う。昨年インドと南アフリカ共和国が発議したこの画期的な提案について、WTOの新事務局長、ンゴジ・オコンジョ・イウェアラ氏は先ごろの声明で、各国政府が交渉を進めるよう要請した。国境なき医師団(MSF)は、この要請を高く評価するとともに、すべての国の政府が、この提案を団結して支持し、少なくとも阻むことのないよう求める。
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「著しい不公平は、全く受け入れられない」
米通商代表部(USTR)のキャサリン・タイ氏は先週、「ワクチンへのアクセスにおいて、先進国と途上国の間に見られる著しい不公平は、全く受け入れられない」と声明を発表し、HIV/エイズまん延の際に「無用の死と苦しみ」をもたらした過ちを繰り返してはならないと強調した。 米国政府が知財保護免除の提案に反対する立場を変えたか否かはまだ明らかでないものの、同声明は、この危機的状況に対する打開策の検討に向けた、WTOの規定見直しの必要性を認めており、貿易ルールの現状維持を擁護する欧州委員会の声明とは対照的となった。
MSFインターナショナルの国際医療主事、マリア・ゲバラ医師は次のように述べる。「コロナ禍で私たちが改めて直面している医薬品の欠乏という問題には、関連の知的財産権を一時的に放棄し、多様な製造・供給者を参入させることで対処できます。 MSFは米国や欧州連合(EU)など、本提案に反対するすべての国が歴史の正しい側に立ち、賛成する国々と力を合わせるよう求めます。大切なのは命を救うことであって、既存の体制の維持ではありません」
日本を含む少数国の抵抗続く
この画期的な「TRIPS協定の義務免除」の提案は、まず2020年10月にインドと南アフリカが発議。現在、59カ国の政府の公式な共同提案に後押しされ、合計約100カ国の支持を得ている。しかし、それから半年、賛成する各国政府が何十回にもわたって本提案の緊急性と重要性を強調する声明を発表してきたにも関わらず、日本を含む少数の国の政府による抵抗が続いている。
一方、ブラジルやインドといった国々は新型コロナの急速な感染拡大に見舞われ、治療を必要とする感染者の増加が医療機関や既存の医薬品の供給を著しく圧迫している。このパンデミックに対峙するすべての国が、既存の、また新規の新型コロナ関連医薬品を不足も遅れもなく速やかに入手できるようにすることが喫緊に必要だ。
世界中の人を守るため、あらゆる手段を
現在、新型コロナの予防と治療に有望な複数の医薬品が臨床試験の段階にある。その有効性が証明されれば、世界的なワクチン普及に遅れと偏りがあり、ウイルスの変異株が出現するという現状において、決定的な役割を担うことになる。しかし、このパンデミックの下でも、製薬企業はいまだ知的財産権を堅く保持し、従来の商習慣通りの対応を維持している。過去1年の間にも、開発中の複数の新型コロナ治療薬について製薬企業の特許申請があったことを、MSFは調査によって明らかにしている。
今回の知財保護免除の提案がWTOで採択されれば、加盟各国は、新型コロナ関連医薬品の生産・供給を妨げる法的不確実性や障害に対し事前の対処が可能となり、新たな選択肢を得られる。壁にぶつかって初めて対応に奔走するといったことを避けられるはずだ。
MSFアクセス・キャンペーン感染症顧問マルシオ・ダ・フォンセカ医師は、「命を救う治療法の普及を阻む知財の壁を解消するために、これまでは国ごと、製品ごとで対処せざるをえませんでした。しかし、そうした従来の方法はコロナ危機を乗り越えるには不十分であり、迅速な解決策にはなりえません。既に300万人を超える命が失われており、パンデミックが続く中で世界中の全ての人を守ることができるよう、今回の知財権免除への協力を含め、あらゆる手段を講じることを各国に求めます」と話す。
MSFは先ごろ、200余りの市民社会団体と連名でWTO事務局長および加盟国に公開書簡を送り、製薬企業による自発的なライセンスの供与や既存のWTO貿易ルールの限界を指摘し、知財権停止案の採択が急務であると強調した。
ゲバラは「今こそ、各国政府に、パンデミックに対処し、国民を守るための最善の機会となりうる政策的選択肢を可能な限り提供し、その対応を後押しすべき時だ」と訴える。
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