パナマ:危険なダリエン地峡を通る移民への援助を開始
PR TIMES / 2021年6月14日 17時45分
コロンビアから危険な「ダリエン地峡」を通りパナマに向かう移民の増加と医療ニーズの拡大を受け、国境なき医師団(MSF)は、移民を対象にした心理ケアを含む医療援助活動をパナマで開始した。ダリエン地峡はコロンビアとパナマの国境にまたがる直線距離にして100キロほどの密林地帯。米大陸を南北に貫く幹線道路「パン・アメリカン・ハイウェー」が唯一途切れる空白地帯で、マラリア、デング熱といった感染症、野生動物、麻薬の密売や武装組織の存在など、通過にはさまざまな危険が伴う。MSFは、コロンビアとパナマの行政当局に、人びとが安全に移動できるルートを設定し、人命を守るよう強く訴えている。
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増加する移民 アフリカや中東からも
2021年5月、MSFはパナマに渡った移民が到着する最初の町バホ・チキートと、サン・ビセンテ移民受入センターおよびラハス・ブランカス移民受入センターで活動を開始した。医師、看護師、心理療法士、ロジスティシャン(物資調達、施設・機材・車両管理など幅広い業務を担当)で構成されたチームが、心理ケアを含む医療を提供するとともに、地元の保健医療インフラの改善にも携わっている。
パナマは過去数カ月間、コロンビアからダリエン地峡経由で到着する移民の増加を報告。2021年1月から5月にかけて、約1万5000人がこのルートを通過したとしている。パナマ移民局によると、5月だけで、5303人が入国手続きをした。ハイチとキューバの出身者が大半を占めるが、アフリカのフランス語圏諸国、パキスタン、イエメンの出身者もいる。大半は成人で、子連れの家族や妊娠中の女性も多い。MSFは5月に合計3390件の診療に加え、1日平均5回の個人・グループに対する心理相談を行った。
暴力、強盗、性的暴行の危険があるダリエン地峡
MSFプロジェクト・コーディネーターのラウル・ロペスは、「ダリエン地峡は地形の面でも、移動の長さの面でも、本当に過酷な道のりです。雨期か乾期かにもよりますが、徒歩だと5日から10日かかることもあります。途中で暴力や強盗にあったり、食料や水が不足したりという話をよく聞きます。極度の疲労で動けなくなったり、増水した川で溺れたりする人を目にした人もいます。特に多い疾患は、皮膚感染症、切り傷、脱水症、下痢に関するものです。また多くの子どもが発熱、下痢、栄養失調に苦しんでいます。さらに衝撃的で気がかりなのは、女性患者の多くが移動の途中で性暴力被害に遭っていることです」と指摘する。
MSFはバホ・チキートでの医療援助開始から15日間で、過去3日以内に性暴力被害を受けた女性12人を治療した。プロジェクトを開始した初日だけでも性暴力被害者5人を診療した。ロペスによると、メキシコ国内の移民ルートで長年の経験があるMSFでも、1日でこれほどの人数を診たのは初めてだという。
メキシコの移民保護施設で活動しているMSFが集めた証言からも、ダリエン地峡を通る人びとの凄惨な体験がうかがえる。キューバ出身のアナさん(45歳・仮名、6月3日にメキシコ南部の施設で取材)は、南米を2年間渡り歩いたのち、コロンビア・パナマ国境を越えた。
「同行者と一緒に狭い抜け道を行くと、突然銃を持った連中に出くわしました。彼らはまず男性を調べ、靴やお金や携帯電話などすべて取り上げて、丘の上に登って行きました。丘の上には、やはり銃を持った別のグループがいました。その後、今度は女性が調べられました。一部の女性は丘の上に連れていかれ、そこでレイプされました。人びとの目の前でレイプされた人もいます。私たちにはなす術がありませんでした。私も……私も被害に遭ったんです。いろいろとひどいことをされて、話すのもつらいです……彼らは罪もない人も殺しました。目の前で、血を流して死んでいくのに、何もできず、助けられませんでした」
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コロンビア・パナマ両国に安全なルートの設定を要請
MSFはコロンビア・パナマ両国の行政当局に対し、脆弱な立場にある移動中の人びとの保護拡大を求めている。ロペスは、「MSFは長年、移動を強いられる人びとを対象に援助活動してきました。そして人びとが国境や防壁や行政手続きの負担に阻まれ、人身売買組織に搾取され、脅かされる様子を目の当たりにしてきました。移動を望む人びとは、自身や大切な人の命の危険にさらすことなく移動することが認められるべきです。移住しようとしただけで、私たちの患者さんのような目に遭うことなどあってはなりません。移住は罪ではないのです」と訴える。
MSFは中南米では2012年からメキシコ国内の移民を対象に医療援助活動を続け、現在はホンジュラス、グアテマラ、ベネズエラ、コロンビアでも活動、パナマでは各公共機関、保健省、国際団体とも連携している。また、地中海、ギリシャ、リビア、エチオピアなどを経由する人びとを対象とした活動も展開している。
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