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先端半導体技術の最新技術動向と将来展望:スタートアップ企業と研究開発資金動向の分析と予測

PR TIMES / 2024年8月23日 13時40分



[画像1: https://prcdn.freetls.fastly.net/release_image/7141/557/7141-557-7e1e34142d642d6b8c30e9d5d555bec2-2560x1600.jpg?width=536&quality=85%2C75&format=jpeg&auto=webp&fit=bounds&bg-color=fff ]


アスタミューゼ株式会社(本社:東京都千代田区、代表取締役社長 永井歩)は、先端半導体に関する技術領域において、弊社の所有するイノベーションデータベース(論文・特許・スタートアップ・グラントなどのイノベーション・研究開発情報)を網羅的に分析し、動向をレポートとしてまとめました。
はじめに:先端半導体技術とは
AIやIoT技術開発が日進月歩で進んでいく中、これらの技術の根幹を支える半導体は、現代社会において不可欠な存在となっています。スマートフォンから自動運転車、次世代のデータセンターに至るまで、先端技術の進化はすべて、半導体技術の進展と密接に結びついています。そのため、半導体の確保や技術開発を自国で行うことの重要性が、経済安全保障の観点からもますます高まっており、この動きは世界的なトレンドとなっています(注1)。

注1:https://www.meti.go.jp/press/2021/06/20210604008/20210603008-4.pdf

こうした背景の中、日本においても半導体生産体制の強化が急務とされ、政府や産業界が一体となって取り組みを進めています。例えば、熊本にはTSMC(Taiwan Semiconductor Manufacturing Company)の子会社であるJASM(Japan Advanced Semiconductor Manufacturing)が新たに設立され、国内での半導体生産能力の増強が図られています。また、最先端のロジック半導体の製造・開発を担うRapidus株式会社が設立されるなど、次世代半導体の生産体制の強化に向けた取り組みが進められています。

こうした動向の中、「先端半導体」という言葉が世の中で取り上げられるようになってきました。しかしながら、先端半導体という言葉に明確な定義はなく、多様な文脈で語られており、技術的な中身が不透明になっていると見受けられます。

先端半導体技術を技術領域ごとに整理すると、次のように分類されます。
- 新規材料開発:シリコンカーバイド(SiC)やワイドバンドギャップ半導体材料など
- 製造プロセス:3nm、5nmといった微細製造プロセスや、極端紫外線リソグラフィ(EUV)技術など
- 先端半導体素子:FinFETやGAAFET(Gate-All-Around FET)など
- 回路設計・統合技術:システムオンチップ(SoC)やチップレットなど
- パッケージング技術:FOWLP(Fan-Out Wafer-Level Packaging)など

この中でも特に、先端ロジック回路の開発を手掛けるRapidus株式会社設立の背景から、製造プロセスや回路設計に関する技術が、今後の半導体産業の鍵を握る重要な領域として世の中の注目を集めています。しかし、半導体産業は一工程の技術開発だけで成立するものではなく、材料開発から製品実装までの上流から下流までを把握しなければ、技術本来の価値を見定めることはできません。技術開発競争が激しい領域であるからこそ、より包括的に分析する必要があり、社会実装と研究開発のそれぞれの観点から分析することで、各技術領域での最先端とそのつながりを見出すことで本来の技術の価値を判断することができます。

本レポートでは先端半導体に含まれる各種技術の現在の取り組みについて、アスタミューゼ独自のデータベースを活用し、スタートアップと研究プロジェクトから対象技術の分析を実施し、その結果をご紹介します。
先端半導体技術に関連するスタートアップ企業の動向
スタートアップ企業のデータベースから、会社概要(description)に先端半導体に関連する技術が明記されている企業を抽出しました。スタートアップ企業は、新しい技術で社会や既存プレイヤーにインパクトを与えそうな企業であり、その資金調達額は社会の期待値を反映しているとみなすことができます。

弊社では、データベースの文献に含まれる、特徴的なキーワードの年次推移を抽出することで近年伸びている技術要素を特定する「未来推定」という推定を行っており、萌芽的な分野の予測を実施しています。特徴的なキーワードの変遷をたどることで、すでにブームが去っている技術やこれから脚光を浴びると推測される要素技術を可視化することができ、黎明・萌芽・成長・実装といった技術ステータスの分析が可能となります。この分析により、技術の社会実装の時期やこれから発展する技術の予想ができます。

図1に2012年から2022年までのスタートアップ企業の会社概要に含まれているキーワードの年次推移を示します。
[画像2: https://prcdn.freetls.fastly.net/release_image/7141/557/7141-557-34d8f10dca18db5cdeaa71ef1b3717cb-951x372.png?width=536&quality=85%2C75&format=jpeg&auto=webp&fit=bounds&bg-color=fff ]
図1:2012年から2022年における先端半導体に関するスタートアップ企業の概要に含まれる特徴的なキーワードの年次推移

ここでの成長率(Growth)は各年の文献内における出現回数と、直近5年間での出現回数の割合で表しており、数値が1に近いほど直近で出現している頻度が高いとみなせます。

スタートアップ企業のキーワードでは「photomask」や「chiplet」などの半導体回路設計やパッケージングに関連する用語が比較的高い頻度で使用されており、チップ製造に関連したスタートアップ企業が昨今では出てきていると推察されます。

次に、スタートアップ企業の全体数と資金調達額の現状を確認します。図2に各年のスタートアップ企業設立件数と資金調達額の推移を、図3に国別でのスタートアップ企業設立件数を示します。
[画像3: https://prcdn.freetls.fastly.net/release_image/7141/557/7141-557-d2f8595f846e314d0f9c88540aff11db-3900x2749.png?width=536&quality=85%2C75&format=jpeg&auto=webp&fit=bounds&bg-color=fff ]
図2:2012年から2023年における先端半導体に関するスタートアップ企業の設立数と資金調達額の推移

[画像4: https://prcdn.freetls.fastly.net/release_image/7141/557/7141-557-e0fcd8591bff36e462a8a8331945c8bd-3573x2049.png?width=536&quality=85%2C75&format=jpeg&auto=webp&fit=bounds&bg-color=fff ]
図3:2012年から2023年における先端半導体に関するスタートアップ季語湯の国別設立数

資金調達額・企業数ともに2021年に急速に上昇しており、その後も高い数値を示しています。国別でのスタートアップ企業の設立数では中国が圧倒的に多く、その次に米国、インドが続く形となっています。

以下に、資金調達額上位のスタートアップ企業の一部を紹介いたします。
- Jiangsu Silicon Integrity Semiconductor Technology
- - https://www.jssisemi.com
- - 所在国/創業年: 中国/2020年
- - 資金調達状況:約820万米ドル
- - 事業概要: 半導体のパッケージングとテストサービスを手掛けており、主にモバイル製品の半導体チップに関連した製品を対象としている。


- Eliyan
- - https://eliyan.com
- - 所在国/創業年: 米国/2021年
- - 資金調達状況:約1000万米ドル
- - 事業概要: エンタープライズクラスとサーバークラスの大規模な半導体チップのアーキテクチャの設計を担い、インターコネクト技術に長けており、チップレットシステムの構築を手掛ける。


- Advent Diamond
- - http://adventdiamond.com/
- - 所在国/創業年: 米国/2018年
- - 資金調達状況:約12万米ドル
- - 事業概要: 半導体ダイヤモンド部品の設計技術を保有、通信・量子・センサー関連に応用可能な次世代半導体材料とコンポーネントの開発を手掛ける

先端半導体技術に関する研究プロジェクトの動向

続いて、グラント(科研費など競争的研究資金)の動向を見ていきます。グラントのデータは、まだ論文での発表がなされていない問題や課題にむけた、新しいアプローチ手法や研究事例が記されている情報とみなすことができます。

図4に2012年から2022年までのグラントの概要に含まれているキーワードの年次推移を示します。
[画像5: https://prcdn.freetls.fastly.net/release_image/7141/557/7141-557-60ebd47a73696f8be2239bd2eca00a03-980x475.png?width=536&quality=85%2C75&format=jpeg&auto=webp&fit=bounds&bg-color=fff ]
図4:2012年から2022年における先端半導体に関するグラント文献に含まれる特徴的なキーワードの年次推移

「chiplet」や「fanout」といった回路関連のキーワードに加え、「CrSBr」や「(In,Fe)As」などの固有の材料名や「uwbg(Ultra-wide band gap)」といった材料に関連したキーワードの使用率が上位あります。スタートアップ企業の分析では回路設計、パッケージング関連技術が主でしたが、研究の方では回路設計技術に加えて、材料開発も進められていることが確認でき、次世代半導体のための新規材料の研究開発が進められていることが読み取れます。

次に、各国におけるグラントの件数と配賦金額の年次推移を分析します。図5に、2012年以降のグラント件数上位5か国の年次推移を、図6にプロジェクトの国別配賦額の動向を示します。ただし、中国はグラントデータを非公開としており、実態を反映しない可能性が高いことから本レポートでは対象から除外しています。
[画像6: https://prcdn.freetls.fastly.net/release_image/7141/557/7141-557-f3be846379f6795b97624c09060b8df1-3900x2826.png?width=536&quality=85%2C75&format=jpeg&auto=webp&fit=bounds&bg-color=fff ]
図5:2012年から2023年における先端半導体に関わるグラント(競争的研究資金)のプロジェクト件数推移(上位5か国)

[画像7: https://prcdn.freetls.fastly.net/release_image/7141/557/7141-557-0055709d6b102af3bc9d4029a35dc4fe-3900x2798.png?width=536&quality=85%2C75&format=jpeg&auto=webp&fit=bounds&bg-color=fff ]
図6:2012年から2023年における先端半導体に関わるグラント(競争的研究資金)の配賦額の推移(上位5か国)

件数としては日本がトップですが、研究配賦額はEUに続き2位であり、大型のプロジェクトが少ないことに起因していると考えられます。一方、EUの方では件数が少ないにもかかわらず、配賦額ではトップであることから、大型プロジェクトが走っていることが要因であることが読み取れます。

実際に、EUでは2030年までに次世代半導体の欧州域内生産の世界シェア20%以上を目指す「デジタル・コンパス2030」や、半導体の域内生産拡大や研究開発強化を図る「欧州半導体法案」などの種々の政策が発表されています。これら政府の後押しによる研究への大型投資が背景としてあり、グラントの配賦金額に表れていると推測できます(注2)。

注2:https://www.meti.go.jp/policy/mono_info_service/joho/conference/semiconductors_and_digital.pdf

また、日本のグラント件数は2020年から減少しています。2020年に世界的な半導体不足や米国による中国への輸出規制の強化という背景があり、この対応のために日本政府は、国内の半導体産業の再構築を掲げ、大規模な産業支援政策を開始しました。この時点での政策は、研究開発よりも既存の生産基盤の強化に重点が置かれていたため、研究投資に回せる資金がなく、それによりグラント件数が減少した可能性が考えられます。

以下にグラント事例の一部を紹介いたします。

- Integration of processes and moDules for the 2 nm node meeting Power Performance Area and Cost requirements
- - 機関/企業:ICOS VISION SYSTEMS NV
- - グラント名/国:CORDIS/ EU
- - プロジェクト期間:2021年~2024年
- - 資金配賦額:約293万米ドル
- - 概要:2nmノードの最先端ロジック回路の製造技術とチップモジュールへの統合技術の開発を目指す。極端紫外線リソグラフィー(EUV)を駆使した2nmノード向けのシングルプリントの大量生産への応用が期待。


- Light emitting synthesizer : aiming to create the ultimate lighting devices
- - 機関/企業:京都大学
- - グラント名/国:KAKEN/日本
- - プロジェクト期間:2020年~2025年
- - 資金配賦額:約52万米ドル
- - 概要:半導体3次元構造による発光波長の合成、分極制御・プラズモニクス効果を活用した、任意の波長の光を高効率で発光させる新機能素子の開発し、深紫外多波長光源の実現を目指す。光源の多波長・高速スイッチングによる光空間無線通信を実証し、次世代通信システム基盤の確立を目標としている。


- Properties of Electronic Materials
- - 機関/企業:Rensselaer Polytechnic Institute
- - グラント名/国:DOE/米国
- - プロジェクト期間:2021年~2024年
- - 資金配賦額:約43万米ドル
- - 概要:電子材料の欠陥およびバルク特性に焦点を当て、特に低次元システムにおける新たな特性の探索を手掛ける。極性材料や2D材料における欠陥状態やイオン化、伝導率に関連する強い相互作用の物理を中心に研究し、欠陥が2Dエレクトロニクスに与える影響を調査し、理論構築を目指す。

まとめ:先端半導体技術の現状と展望
本分析では、スタートアップとグラントのデータベースを用いて、技術変遷の推定と各国における技術分析を行いました。

スタートアップのキーワード分析からはチップ製造に関連する用語が多く抽出され、チップ製造に関連する企業が多く存在するという傾向が見られました。スタートアップ企業数と調達金額は2021年から急速に増加しており、特に中国での企業数がトップでした。個別事例ではキーワード分析から読み取れるように、チップレットを代表としたチップ製造技術やパッケージングを手掛ける企業が確認されました。

グラントは、未来推定の分析により、チップ製造関連技術だけでなく次世代半導体のための新規材料に関連する用語が確認され、材料開発がメインで研究されている傾向がみられました。

グラントの国別動向分析ではEUのグラント件数が少ないにも関わらず、配賦金額がトップであり、政策による背景により大型プロジェクトへの研究投資が進んだ結果によるものだと考えられます。一方、日本ではグラント件数はトップでしたが、2020年以降は減少しており、配賦金額も小さいことが分析結果から確認されました。この背景として、社会実装面への投資が積極的に行われ、研究開発に重点が置かれていなかったことが要因として考えられます。研究開発に回すための予算が無かったことがグラントの件数減少に現れていると推測されます。

スタートアップ企業では回路設計・統合技術やパッケージング技術が主ですが、これらの技術は既存の半導体プロセスや材料に併せて調整されたものがほとんどを占めます。グラント分析で回路・統合技術以外にも、新規材料開発が進められていることから、今後は研究開発された新規材料を実装するために、新たな半導体プロセス技術や回路設計の技術開発に移行することが考えられます。それらに応じたスタートアップ企業も今後出てくることでしょう。

これらの結果を踏まえると、次世代半導体技術の発展は、材料開発とそれに対応する製造プロセスや回路設計技術のという各技術領域で並列に発展していくことが重要であるといえます。今後の技術開発および企業の動向を注視し、各種最新技術のつながりを把握していくことで先端半導体の本来の技術動向を見出すことができると考えられます。

著者:アスタミューゼ株式会社 琴岡 匠 博士(工学)
さらなる分析は……
アスタミューゼでは「先端半導体」に関する技術に限らず、様々な先端技術/先進領域における分析を日々おこない、さまざまな企業や投資家にご提供しております。

本レポートでは分析結果の一部を公表しました。分析にもちいるデータソースとしては、最新の政府動向から先端的な研究動向を掴むための各国の研究開発グラントデータをはじめ、最新のビジネスモデルを把握するためのスタートアップ/ベンチャーデータ、そういった最新トレンドを裏付けるための特許/論文データなどがあります。

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- コーポレートサイト:https://www.astamuse.co.jp/
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