心房性機能性僧帽弁逆流症に対する僧帽弁手術の臨床転帰
PR TIMES / 2024年8月16日 14時45分
― REVEAL-AFMR多施設共同研究による検討 ―
順天堂大学医学部内科学教室・循環器内科学講座の鍵山暢之 特任准教授、金子智洋 助教、南野徹 教授、大学院医学研究科心臓血管外科の田端実 教授らの研究グループは、国内26施設と心房性機能性僧帽弁逆流症(*1)の実態に関する共同研究を行いました。僧帽弁逆流症(*2)は近年注目されている心臓弁膜症の中でも手術の原因として最も多いものの一つであり、その中でも心房性機能性僧帽弁逆流症は最近新しく発見された種類です。この疾患は高齢者に多く、また近年増加している心房細動(*3)という不整脈に合併するため、注目を集めていますが、どれくらいの患者数がおり、どのような治療法が効果的なのかは明らかでありませんでした。今回の研究では心房性機能性僧帽弁逆流症の頻度が想定されていたよりも多く、僧帽弁逆流症の11.4%(9人に1人)に及ぶこと、また外科手術を受けた患者の死亡や心不全による入院率が少ないことを明らかにしました。心房性機能性僧帽弁逆流症は僧帽弁自体には問題がないものの、心房が極端に大きくなることで僧帽弁の合わさりが悪くなり、血液が逆流することで心不全を引き起こします。その頻度や外科手術の治療効果については明らかになっていませんでした。多くの施設の治療内容やその後の経過に関するデータを収集することで得られた本成果は、治療戦略を考える上でその意思決定の礎となるものです。本論文はJAMA Network Open誌のオンライン版に2024年8月15日付で公開されました。
本研究成果のポイント
● 心房性機能性僧帽弁逆流症に関する大規模な調査を実施した
● 心房性機能性僧帽弁逆流症患者の平均年齢は78歳と高齢で、頻度は僧帽弁逆流症の11.4%を占めていた
● 僧帽弁の外科手術を受けた患者は死亡や心不全による入院が少ないことが明らかになった
背景
僧帽弁は心臓の左心房と左心室の間にあり、心臓の動きに合わせて開いたり閉じたりすることで、心臓の中で血液が逆流しないようにする役割を担っています。僧帽弁逆流症は僧帽弁が閉じ切らず、血液が逆流することで心不全を引き起こします。機能性僧帽弁逆流症は僧帽弁自体に問題はないものの、弁を支えている心室や心房に問題が生じることで僧帽弁が閉じられなくなり逆流が起きる病気です。近年、不整脈などが長く続くことにより心房が極端に大きくなることで僧帽弁の合わさりが悪くなり、逆流を生じる心房性機能性僧帽弁逆流症という病気が知られるようになりました。これは比較的新しい概念であり、大きな疫学調査がなされておらず、この病気の特徴や治療方法についてはあまりわかっていませんでした。本研究は、国内の26施設の共同研究(REVEAL-AFMR研究)(*4)を行い、心房性機能性僧帽弁逆流症の特徴や治療成績を明らかにすることを目的としました。
内容
本研究では、国内の26施設で2019年に実施されたすべての心臓超音波検査のうち、中等症以上の心房性機能性僧帽弁逆流症の患者を登録しました。心臓超音波検査を受けた177,235人のうち、8,867人(5%)が中等症以上の僧帽弁逆流症であり、1,007人(中等度以上の僧帽弁逆流症のうち11.4%)が心房性機能性僧帽弁逆流症と診断されました。その中で113人が僧帽弁の手術を受け(手術群)、手術群(平均年齢74歳)は、薬物治療(平均年齢78歳)を継続した患者よりも若く、逆流の程度(58.0%対9.4%)や心不全症状が強い(26.5%対9.3%)患者が多い結果でした。手術群はより重篤な病気の程度であったにも関わらず、3年間の追跡期間中に死亡や心不全入院率が良好でした(18.3%対33.3%)。
[画像: https://prcdn.freetls.fastly.net/release_image/21495/671/21495-671-99542c0d58e4333bc1959b0e661a7d4d-1376x591.png?width=536&quality=85%2C75&format=jpeg&auto=webp&fit=bounds&bg-color=fff ]
図1:心房性機能性僧帽弁逆流症の特徴と転帰 (予後調査グラフ…縦軸;死亡もしくは心不全の発生率、横軸;時間(日)、緑線;手術群、赤線;薬物治療群)
日本の26施設の共同研究であるREVEAL-AFMR研究では1,007例の心房性機能性僧帽弁逆流症の調査を行いました。僧帽弁逆流症の11.4%を占め、平均年齢は78歳と高齢で78.9%に心房細動を、26.9%に心不全を合併していました。僧帽弁手術を受けた患者は受けなかった患者と比較し、死亡及び心不全入院率が低く、僧帽弁手術を受けた患者では僧帽弁逆流や心不全症状、有害事象が少ない結果でした。
今後の展開
本研究では、心房性機能性僧帽弁逆流症の実際の有病率と特徴を外科手術の結果とともに明らかにしました。ただし、今回の結果は観察研究ですので、手術を受ける患者の方が元々状態が良かったという可能性も否定はできません。因果関係として、手術が患者の転機を改善するのかということを明らかにするため、今後の介入試験が検討されています。
用語解説
*1 心房性機能性僧帽弁逆流症:僧帽弁逆流の中でも、左心房が大きく拡大してしまったことから、僧帽弁が届かなくなってしっかり閉じられなくなった状態。この10年ほどで疾患のメカニズムがわかってきた、比較的新しい疾患概念。
*2 僧帽弁逆流症:僧帽弁は左心室と左心房の間についている弁であり、左心室から左心房へ血液が逆流することを防いでいます。何かの原因で僧帽弁がしっかり閉じずに血液が逆流する状態のことを僧帽弁逆流症と呼びます。僧帽弁閉鎖不全症と呼ばれることもあります。
*3 心房細動:心房から発生する不整脈であり、心房性機能性僧帽弁逆流症の主な原因であり、心不全の引き金にもなります。
*4 REVEAL-AFMR研究:REal-world obserVational study for invEstigAting the prevaLence and therapeutic options for Atrial Functional Mitral Regurgitationと銘打たれた全国26施設からなる後ろ向き多施設共同研究。2019年に26の施設で心エコー検査を行った患者のうち、心房性機能性僧帽弁逆流生症の患者が何例くらいおり、どのような特徴と転機を示したかを調査した。
原著論文
本研究はJAMA Network Open誌のオンライン版に2024年8月15日付で公開されました。
タイトル: Clinical outcomes of mitral valve surgery in atrial functional mitral regurgitation: the REVEAL-AFMR registry
タイトル(日本語訳): 心房性機能性僧帽弁逆流症に対する僧帽弁手術の臨床転帰: REVEAL-AFMR多施設共同研究による検討
著者:Nobuyuki Kagiyama; Tomohiro Kaneko; Masashi Amano; Yukio Sato; Yohei Ohno; Masaru Obokata; Kimi Sato; Taiji Okada; Naoki Hoshino; Kentaro Yamashita; Yuko Katsuta; Yuki Izumi; Mitsuhiko Ota; Yasuhide Mochizuki; Kaoruko Sengoku; Shunsuke Sasaki; Fukuko Nagura; Nanaka Nomura; Ryo Nishikawa; Nahoko Kato; Takahiro Sakamoto; Noriko Eguchi; Maiko Senoo; Mariko Kitano; Yoichi Takaya; Yoshihito Saijo; Hidekazu Tanaka; Kotaro Nochioka; Nami Omori; Minoru Tabata; Tohru Minamino; Naoki Hirose; Kojiro Morita; Tomoko Machino-Ohtsuka; Victoria Delgado; Yukio Abe
著者(日本語表記):鍵山暢之1); 金子智洋1); 天野雅史2); 佐藤如雄3); 大野洋平4); 小保方優5); 佐藤希美6); 岡田大司7); 星野直樹8); 山下健太郎9); 勝田祐子10); 泉佑樹11); 太田光彦12); 望月泰秀13); 仙石薫子14); 佐々木俊輔15); 名倉福子16); 野村菜々香17); 西川諒18); 加藤奈穂子19); 坂本考弘20); 江口紀子21); 妹尾麻衣子22); 北野真理子23); 高谷陽一24); 西條良仁25); 田中秀和9); 後岡広太郎10); 大森奈美2); 田端実26); 南野徹1); 廣瀬直紀27); 森田光治郎28); 町野智子6); Victoria Delgado29); 阿部幸雄17)
著者所属:1)順天堂大学循環器内科2) 国立循環器病研究センター心不全・移植部門 心不全科3) 聖マリアンナ医科大学循環器内科4)東海大学循環器内科5)群馬大学循環器内科6)筑波大学循環器内科7)神戸市立医療センター中央市民病院循環器内科8)藤田医科大学循環器内科9)神戸大学循環器内科10)東北大学循環器内科11)榊原記念病院循環器内科12)虎の門病院循環器センター内科13)昭和大学循環器内科14)大阪大学循環器内科15)手稲渓仁会病院循環器内科16)帝京大学循環器内科17)大阪市立総合医療センター循環器内科18) 札幌医科大学附属病院循環器・腎臓・代謝内分泌内科19)東京ベイ・浦安市川医療センター循環器内科20)島根大学循環器・腎臓内科21)千葉大学循環器内科22)弘前大学循環器腎臓内科学講座23)北野病院循環器内科24)岡山大学超音波診断センター25)徳島大学循環器内科26)順天堂大学心臓血管外科27)広島大学Graduate School of Biomedical and Health Sciences 28)東京大学大学院グローバルナーシングリサーチセンター29) Department of Cardiology, Heart Institute, University Hospital Germans Trias i Pujol, Badalona, Spain
DOI: 10.1001/jamanetworkopen.2024.28032
本研究はJSPS科研費22K20895および上原記念生命科学財団研究奨励金の支援を受け多施設との共同研究の基に実施されました。本研究にご協力いただいた皆様には深謝いたします。
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