『「ドキッ!」の瞬間、スローモーションで見える』は正しかった!
PR TIMES / 2023年2月13日 16時15分
~感情が視覚の“時間精度”を上昇させることを改めて確認~
千葉大学大学院融合理工学府博士後期課程3年生の小林美沙氏と大学院人文科学研究院の一川誠教授の研究チームは、さまざまな表情画像の観察で生じる感情反応が視覚の時間精度(短時間に処理できる能力)に及ぼす影響を調べました。その結果、画像を観察することで感情反応が生じた際に物事がスローモーションに見えるという現象が生じることが改めて確認されました。
本研究成果は、知覚研究の国際オンラインジャーナル誌i-Perceptionで2023年2月9日に公開されました。
研究の背景:感情が視覚の時間精度に及ぼす影響
交通事故の瞬間や高いところから落下する瞬間など、突発的に危険な状況に陥った時に、物事がスローモーションのように見えたという報告がしばしばなされます。これまでに研究チームは、様々な強度の感情反応や印象を引き起こす写真のデータベースを使った実験で、危険を感じた際に視覚の時間精度が上昇する結果を世界で初めて得ていました(Kobayashi & Ichikawa 2016 下記参考リリース参照)。しかしながら、この実験で用いたデータベースの画像は風景や動物、事件などに関する写真で、危険を感じさせる画像と安全な状態を示す画像との間で画像の色彩の特性が大きく異なっていました。そのため、画像観察によって喚起された感情ではなく、提示された画像の色彩の特性の違いにより視覚の時間精度が変動した可能性が指摘されていました。色彩の特性が大きく変わらない画像を用いて感情喚起することで前回の研究成果を確認することが求められていました。
研究成果
・顔画像観察を用いた実験
本研究では、感情喚起のために、様々な表情の顔画像を用いました。顔画像は、表情条件間での色彩や輝度の違いは小さいのに、表情によって観察者に多様な感情を喚起できること、怒りの表情画像は危険な画像として感情を喚起することが知られています。また、顔画像には、上下反転すると表情がわかりにくくなる「倒立効果」と呼ばれる特性があります。顔画像を倒立させて表情をわかりにくくすることによって、画像の特性は全く変えずに喚起される感情を弱くすることができます。そのため、条件間の視覚の時間精度の違いが実験参加者の感情反応による効果であるとしたら、倒立した表情画像を用いた場合、表情画像間での時間精度の違いがほとんどなくなることが予想されました。
・表情による視覚の時間精度への影響を調べる実験
[画像1: https://prtimes.jp/i/15177/688/resize/d15177-688-b2c1d7e4e95f41d2dec7-2.png ]
男女それぞれ2名の怒り、恐怖、喜びと無表情の顔画像を用いました。フルカラーの表情条件の顔画像を1秒間提示した後、10~50ミリ秒の範囲で画像の彩度を70%低下させ、彩度変化が見えるのに必要な最短時間を測りました(図1)。その結果、怒り、恐怖だけでなく喜びの条件でも、無表情条件より短い時間で彩度低下が認識されることが示されました(図2)。こうした表情条件間の違いは顔画像を倒立させた場合には見られませんでした(図3)。
[画像2: https://prtimes.jp/i/15177/688/resize/d15177-688-2e936a22089937c75d45-3.png ]
[画像3: https://prtimes.jp/i/15177/688/resize/d15177-688-5d726a199beaaee4e916-1.png ]
・喚起される覚醒度が視覚の時間精度に及ぼす影響を調べる実験
感情反応には、興奮の度合(ドキッと感じる程度)に対応する覚醒度(注1)と、好きー嫌いの度合いに対応する感情価(注2)の2つの次元があります。覚醒度の次元での感情反応の程度が視覚の時間解像度に及ぼす影響を調べるため、引き起こされる覚醒度の反応が大きいと予測される怒り表情、中程度と予想される悲しみ表情、小さいと予想される無表情を提示し、視覚の時間精度を測りました。視覚の時間精度は、覚醒度の水準に対応して高くなることが認められました(図4)。これらの結果は、画像観察によって喚起される覚醒度に対応して、ドキッとするほど視覚の時間精度が高くなり、短い時間間隔の中で生じた出来事を認識しやすくなることを示しています。
[画像4: https://prtimes.jp/i/15177/688/resize/d15177-688-becaa2299b51ad336d93-0.png ]
<まとめ>
これらの結果により、画像の色彩特性ではなく、喚起された感情により、視覚の時間精度が上昇するという前回の研究結果が確認できました。また、時間精度の上昇を引き起こすのはネガティブな強い感情に限定されないこと、特に覚醒度次元の感情が視覚の時間精度を上げる効果が大きいことがわかりました。今回の研究成果により、覚醒度が高まるほど視覚の時間精度が高まることが示され、交通事故のような危険な場面や、スポーツ選手の緊張感の高い試合での「ゾーン」などの際に物事がスローモーションに見える現象について明らかにする一歩となったと考えられます。
用語解説
(注1)覚醒度:交感神経系や内分泌系の活動に伴う、身体の興奮の度合に対応する感情反応の次元。
(注2)感情価:対象についての評価の軸であり、快―不快の度合いに対応する感情反応の次元。
論文情報
・論文タイトル:Emotional response evoked by viewing facial expression pictures leads to
higher temporal resolution
・掲載誌:i-Perception
・DOI: https://doi.org/10.1177/20416695231152144
参考ニュースリリース
『「危ない!」の瞬間,全てがスローモーションで見える』は正しかった! 強い感情が視覚の“時間精度” を上昇させることを世界で初めて確認(2016/5/23)
https://www.chiba-u.ac.jp/general/publicity/press/files/2016/20160523.pdf
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