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氷河で繁殖している藻類に高い感染率でツボカビが寄生していることを発見

PR TIMES / 2023年3月17日 19時45分

~ツボカビの感染が氷河の融解を抑制する~

千葉大学大学院理学研究院の竹内望教授および大学院融合理工学府博士前期課程2年の小林綺乃、横浜国立大学大学院環境情報研究院の鏡味麻衣子教授らの研究グループは、米国アラスカの氷河で繁殖している藻類に、高い感染率でツボカビが寄生していることを発見しました。ツボカビは、様々な生物に寄生する菌類として知られていますが、氷河のような寒冷環境での活動はほとんど情報がありませんでした。近年北極圏の氷河は、雪氷性の藻類の繁殖によって表面が黒くなり、融解が加速している事実が明らかになっています。その藻類に高い感染率でツボカビが寄生していることは、これらの氷河上の微生物の相互作用によって氷河融解が加速または抑制される可能性を示しています。
本研究成果は、2023年3月9日(木・ロンドン時間)に、Scientific Reportsよりオンライン公開されました。




研究の背景

極地や高山に分布する氷河には、光合成微生物である藻類や、その藻類を食べるクマムシやワムシなどの微小動物、トビムシなどの昆虫類、さらに有機物を分解するバクテリアや菌類などの、多種多様な生物が生息していることが近年明らかになっています。氷河には、これらの寒冷環境に適応した特殊な生物で構成される生態系が存在しているのです。
ツボカビは、生活環(生物の成長、生殖による変化が一通り出現する周期の一つ)において、水中を泳ぐことのできる遊走子(注1)を持つ菌類のグループです。ツボカビの一部は寄生性であることが知られており、様々な脊椎動物や無脊椎動物、微生物に寄生し、宿主を死に至らしめることもできます。ツボカビは水環境や陸域環境に広く生息し、宿主の個体数を減らすことで生態系に強い影響力を持ちます。
近年、ツボカビの中に寒冷環境下でも繁殖する種が存在することが明らかになってきました。北極圏の海洋や、高山の積雪下または氷河周辺の土壌、さらに積雪や氷河そのものの上にも存在することが報告されています。さらに環境DNA解析からは、世界各地の寒冷環境のツボカビが、系統的に一つのグループに入ることも示唆され、これらは進化的にも関係の深い特殊なツボカビであることがわかってきました。
近年、北極圏を中心に氷河の後退が進んでいます。その原因は地球温暖化等の気候変動に加え、氷河上で繁殖する藻類が表面を暗色に着色し、日射の吸収を増やすことで融解を促進する効果も大きいことがわかってきました。この藻類に感染するツボカビは、藻類を死に追いやることでこの効果を軽減する力を持っていることになります。しかし、このツボカビが、実際に氷河上に生息する藻類にどのくらいの影響力があるのかについては、ほとんどわかっていませんでした。そこで、本研究では、アラスカの氷河で採取した藻類を分析し、ツボカビの感染実態を明らかにすることを目的にしました。顕微鏡観察から、形態的にどのようなツボカビが、どのくらいの感染率で藻類に寄生しているのか、その感染率は氷河の場所によって異なるのかについて分析しました。
[画像1: https://prtimes.jp/i/15177/697/resize/d15177-697-337ef0419a7e38deda59-0.png ]



研究の成果

米国アラスカのグルカナ氷河(標高750 m、図1)において、融解期の2015年8月に氷河表面で採取された雪氷サンプルの分析を行いました。ツボカビを染色する試薬を用いて蛍光顕微鏡でサンプルを観察した結果、多数の藻類にツボカビが感染していることがわかりました(図2)。この氷河では、藻類の優占種として3種(Ancylonema nordensholdii、Ancylonema Alaskana、Sanguina nivaloides)が知られていますが、これらすべての藻類にツボカビが感染していることがわかりました。観察されたツボカビには、藻類細胞の外側の表面に付着している胞子嚢(胞子をその中に形成する袋状の構造)と、藻類細胞内に延びる仮根(蘚苔類や藻類などに生える根状の組織)、仮根の一部が膨らんだアポフィシス(注2)などの形態的特徴がはっきりとわかりました。これらの形態の特徴から、この氷河のツボカビには、少なくとも3種(Type A、B、C)が含まれていることもわかりました。さらに成長段階の異なるツボカビがみられたことから、このツボカビは、確かに氷河上で藻類に寄生し、繁殖していることがわかりました。

[画像2: https://prtimes.jp/i/15177/697/resize/d15177-697-afbda27147b2f37f3b63-1.png ]

[画像3: https://prtimes.jp/i/15177/697/resize/d15177-697-3c103c5b87bf90496e6a-2.png ]

氷河の表面は、融解水の流れ方や標高による気温の違いなど、環境条件が不均一に分布します。これらの条件がツボカビ感染にどのように影響するかを確かめるため、氷河上の標高の異なる3地点(S2、S3、S4)、およびクリオコナイトホールという融解水がたまった水たまりと氷の表面で、藻類に対するツボカビの感染率を比較しました。その結果。標高による感染率の差はほとんどありませんでしたが、どの標高でも氷表面よりクリオコナイトホールの感染率が4倍から10倍程度高いことがわかりました(図3)。これは、氷河上でも水がたまった環境の方が、ツボカビの感染が進みやすいことを示しています。クリオコナイトホールという水たまりが、ツボカビ感染のホットスポットとなっていることがわかりました。


今後の展望

本研究は、氷河表面で繁殖している藻類に、高い感染率でツボカビが寄生していることをはじめて明らかにしました。このような寒冷環境には多数の未発見の微生物が存在する可能性が高く、そのような生物の研究は生物の進化の理解にも重要です。さらに現在、地球温暖化の影響で世界各地の氷河の縮小とそれによる海水準上昇が懸念されていますが、氷河上の暗色の藻類の繁殖拡大も氷河融解の原因であることが明らかになっています。本研究でその藻類の繁殖量に影響するツボカビを発見したことは、これらの氷河上の微生物の種間相互作用が、氷河の融解にも影響しうることを示唆しています。しかしながら、このような氷河生態系の理解は、まだ始まったばかりです。21世紀には数多くの氷河の消滅が予測される中、このような氷河の生態系の理解が急務です。


用語解説

(注1)遊走子:鞭毛を持った微生物の細胞のことで、水中を遊泳することができる。一部の藻類や菌類にみられる。
(注2)アポフィシス:ツボカビが宿主の細胞に伸ばした仮根で、膨らんだ部分。

研究プロジェクトについて

本研究は、日本学術振興会科学研究費補助金(22H03731、 20K21840、 20H00196、 19H01143)、北極域研究推進プロジェクト(ArCS)若手人材海外派遣プログラム、および北極域研究加速プロジェクト(ArCS II:Arctic Challenge for Sustainability II)の助成を受けて行いました。


論文情報

論文タイトル:High prevalence of parasitic chytrids infection of glacier algae in cryoconite holes in Alaska
著者:Kino Kobayashi, Nozomu Takeuchi, Maiko Kagami
雑誌名:Scientific Reports
DOI:https://doi.org/10.1038/s41598-023-30721-w

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