認知行動療法に基づく新ケアプログラム (ACAT) は自閉症スペクトラム患者の「自閉特性への気づき」を高めメンタルヘルスを改善
PR TIMES / 2023年9月8日 15時45分
児童思春期の自閉スペクトラム症児と保護者向け 新たな認知行動療法の開発
千葉大学子どものこころの発達教育研究センターの大島郁葉教授、土屋垣内晶助教(研究当時)、清水栄司センター長・教授、福島大学の高橋紀子准教授 (研究当時)らの研究チームは、認知行動療法 (Cognitive-behavioural therapy: CBT) 注1)に基づいた、児童思春期の自閉スペクトラム症 (ASD) の子ども向けの新ケアプログラム「ASDに気づいてケアするプログラム (ACAT)」を新たに開発し、その効果を検証した結果、ACATを受けた群は、受けなかった群よりも、自閉特性への気づきやメンタルヘルスが有意に改善したことがわかりました。
これにより、児童思春期のASD患者にACATを行うことで、彼らが自分の自閉特性に気づきやすくなり、その結果として日常生活において自閉特性への対処力が高まり、メンタルヘルスが改善しうることが示されました。今後、ASD患者にACATを実施することで、彼らの社会への適応能力が向上することが期待されます。
本研究成果は、2023年9月8日(日本時間)に、BMC Psychiatry に掲載されました。
研究の背景
自閉スペクトラム症 (ASD) は社会的コミュニケーションの取りづらさと限定的・反復的行動を中核症状とする神経発達症のひとつです。ASDの障害 (disability) は、
他者と同じようなことができなければならないような環境 (例:学校生活・会社での生活など) とASDの機能障害の相互作用によって規定されます。つまりASDの障害は環境と個人の相互作用で発生します。
認知行動療法 (CBT) は、その人を取り巻く「環境」と「反応」の相互作用に着目して、悪循環ではなく、好循環に変えていくことで、うつや不安などのメンタルヘルス改善を狙う心理療法です。
今回、研究チームは、イギリスのASDの心理教育プログラム「PEGASUS」に、個人と環境の相互作用を好循環に変容することが可能なCBTを追加した、ASD患者への自己理解プログラム「ASDに気づいてケアするプログラム (Aware and Care of my Autistic Traits: ACAT)」を開発しました。研究チームはまず、メタ認知やモニタリング、といったCBTの技法を用いることで、ASD患者が自身のASD特性とストレスの関連性を認識することができ、環境に対する調整(合理的配慮)や、自分で行える対処を考案、実行することで、メンタルヘルスの改善が望めると仮定しました (図1参照)。また、児童思春期のASD患者には、保護者も患者のASDの特性を理解し、合理的配慮のサポートをしてもらうことが良いと仮定し、保護者も一緒にプログラムに参加してもらう形をとりました。
[画像1: https://prtimes.jp/i/15177/750/resize/d15177-750-2858942f320c96de21b8-0.png ]
研究の成果
本研究では、福島大学と千葉大学で多施設ランダム化試験を実施しました。10歳から17歳までの49名のASD患者とその保護者を、ACAT+通常の診察を受ける群 (ACAT群) と、通常の診察のみ群に無作為に割り付けました。ACAT群は21名で、1回100分セッションを週6回受け、通常の診察のみ群 (通常診察群) は22名で、ACATを受けませんでした。
この結果、介入前から介入6週間後にかけて、ACAT群のほうが通常診察群に比べ、有意に自閉特性への気づき (Autism Knowledge Quiz-Child: AKQ-C) が向上し、子どものメンタルヘルス全般の問題 (Strength and Difficulties Questionnaire: SDQ) が有意に低下しました (図2)。
また、保護者に実施したAKQ-保護者版 (AKQ-P) も、ACAT群のほうが有意に自閉特性への気づきが向上しました。
[画像2: https://prtimes.jp/i/15177/750/resize/d15177-750-f14c4d00ea434b5d24fc-1.png ]
今後の展望
本研究により、ACATは児童思春期および保護者のASDの特性理解度を増やすことが示されました。合理的配慮の施行などの機能的な対処方略が増強し、メンタルヘルスの問題の減少が見られたということが考えられます。今後は、青年期以降のASD患者にも効果を判定し、多くのASDの特性に関連する問題で悩む人のメンタルヘルス改善のための、エビデンスのあるツールとして提唱したいと考えています。
用語解説
注1)認知行動療法:ものの考え方や行動に働きかけて、環境と自己との相互作用を好循環にしていこうとする構造化した心理療法。うつや不安などにエビデンスのある治療法でもあり、世界中で様々な疾患や心理的問題に幅広く使用されている。
研究プロジェクトについて
・日本心理臨床学会特別課題研究助成「児童思春期の高機能自閉スペクトラム症者および家族に対する認知行動療法を用いた心理教育プログラム「ASD に気づいてケアするプログラム (Aware and Care for my AS Traits;ACAT)」の開発と効果についての検証:ランダム化比較試験」(課題番号2017 S-1)
論文情報
タイトル:Awareness and Care for my autistic traits(ACAT)program for autistic adolescents: a multicenter randomized controlled trial.
著者:Fumiyo Oshima, William Mandy, Mikuko Seto, Minako Hongo, Aki Tsuchiyagaito, Yoshiyuki Hirano, Chihiro Sutoh, Siqing Guan, Yusuke Nitta, Yoshihito Ozawa, Yohei Kawasaki, Toshiyuki Ohtani, Jiro Masuya, Noriko Takahashi, Noriyuki Sato, Shizuka Nakamura, Akiko Nakagawa and Eiji Shimizu
雑誌名:BMC Psychiatry
DOI:https://doi.org/10.1186/s12888-023-05075-2
参考文献
大島郁葉・桑原斉著『ASDに気づいてケアするCBT ACAT実践ガイド』金剛出版 2020.
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