【研究情報】触覚に係る「メルケル細胞」を活性化して「オキシトシン」を増やす成分を発見
PR TIMES / 2021年9月7日 15時15分
株式会社ファンケルは、加齢で鈍化する触覚機能と肌状態の関係に着目し、やさしく触れられた刺激を受容する感覚受容器のメルケル細胞(補足参照)と皮膚老化との関連性について研究を行っています。今回、メルケル細胞は外的ストレスや老化など皮膚環境の変化に応答して機能が低下することを見出し、表皮や真皮の老化に影響を与える可能性を確認しました。さらに、機能性ペプチド「デカペプチド1)」がメルケル細胞を活性化し、細胞老化を防ぐオキシトシン2)量を増やすことを発見しました。
皮膚に備わる“触覚”に焦点を当てることで、新たな視点からアンチエイジングに対するアプローチが可能になることが期待されます。本知見は、連結子会社から10月に発売する新ブランドの化粧品に応用する予定です。
なお、本研究成果は、第39回 日本美容皮膚科学会(2021年7月31日~8月1日 於:京都)にて発表しました。
<研究方法と結果>
【メルケル細胞は酸化ストレスによって機能因子が減少する】
初めに、酸化ストレスが及ぼすメルケル細胞への影響を調べました。希少である生体メルケル細胞の代替としてヒトメルケル細胞癌由来細胞株MCC14/23)(以下、本項目においてはメルケル細胞と表記)を使用し、メルケル細胞の機能を評価するため、触覚刺激の受容に必須であるPIEZO24)(ピエゾ2)と、細胞成長を促すIGF15)の二つの機能因子について発現量を測定しました。その結果、酸化ストレスによりPIEZO2およびIGF1とも発現量が減少し、機能が低下することが示唆されました(図1)。
【メルケル細胞は隣接する表皮角化細胞の老化によって機能因子が減少する】
続いて、メルケル細胞に隣接する表皮角化細胞6)の老化による影響を調べました。若い表皮角化細胞と老化誘導させた表皮角化細胞の培養液をメルケル細胞に添加し、PIEZO2とIGF1の発現量を比較しました。若い細胞と比較すると、老化した細胞の培養液に添加したPIEZO2とIGF1の発現量が減少しました(図2)。
[画像1: https://prtimes.jp/i/17666/821/resize/d17666-821-130fc4c6cf6d2df0f1e6-0.jpg ]
これらの結果から、外的ストレスや隣接する表皮角化細胞の老化によってメルケル細胞の感覚受容や細胞成長などの機能因子が減少し、メルケル細胞の機能低下が引き起こされることが分かりました。また、メルケル細胞の機能低下が、表皮や真皮の老化にも影響を及ぼすことを示唆するデータが得られており、メルケル細胞の機能を維持することが、抗老化に重要な要素である可能性が考えられました。
【デカペプチドがメルケル細胞を活性化することを発見】
そこで、メルケル細胞を活性化する成分を探索した結果、アルギニンやグルタミン酸などで構成される合成ペプチド(以下、デカペプチドと表記)が、メルケル細胞を活性化し、PIEZO2、IGF1の発現量を増加することが分かりました(図3)。発現量が増加することで、メルケル細胞の機能を向上できることが期待できます。
[画像2: https://prtimes.jp/i/17666/821/resize/d17666-821-bb8284535e9415463d6e-1.jpg ]
【デカペプチドによるメルケル細胞の活性化は、オキシトシンを増やす】
最後に、抗老化作用が報告されている オキシトシンについて調べました。デカペプチドの添加によって、メルケル細胞内のオキシトシン量が増加する様子が観察できました(図4)。
以上の結果から、デカペプチドはメルケル細胞を活性化し、オキシトシン量を増すことで、皮膚の抗老化に働く可能性が考えられました。
[画像3: https://prtimes.jp/i/17666/821/resize/d17666-821-3fdae4b5a02911c4ec66-2.jpg ]
<研究背景・目的>
当社ではこれまでに、ヒトメルケル細胞癌由来細胞株(MCC14/2)に生体由来メルケル細胞の特徴が備わっており、メルケル細胞の研究に使用可能であることを確認するとともに、本細胞に細胞老化を防ぐオキシトシンが発現していることを発見してきました7)。
本研究では、メルケル細胞は触覚認知を担うだけでなく、皮膚の恒常性維持に関与しているのではないかと考え、メルケル細胞の機能と皮膚老化の関係を明らかにし、新たなアンチエイジングの手法を提案することを目的としました。
今後さらに研究を進め、“触覚機能と皮膚老化”という新たな視点からアプローチするアンチエイジング化粧品の開発につなげてまいります。
《補足》
【メルケル細胞とは】
1875年に、Dr.Merkelが触細胞として提唱した物理的な刺激や力の受容を担う感覚細胞で、魚類から哺乳類までと幅広く生物に存在している。人では指先や手のひらなど感覚の鋭敏な部分に多く、顔を含む全身の皮膚に見られる。メルケル細胞のPIEZO2が反応することで、軽い接触の感覚を感知して感覚神経終末を伝い、脳へと情報を伝達すると考えられている。
[画像4: https://prtimes.jp/i/17666/821/resize/d17666-821-623f6b921cf5d71f4851-3.jpg ]
【用語説明】
1) デカペプチド
アルギニン、アスパラギン酸、システイン、グルタミン酸、ロイシン、メチオニンおよびチロシンから構成される合成デカペプチド。
2) オキシトシン
脳下垂体後葉で分泌される授乳期などに働く神経ホルモンで、スキンシップなどによる情動との関わりから「幸せホルモン」とも呼ばれる。アトピー性皮膚炎患者の皮膚では少ないという報告もある。
3) ヒトメルケル細胞癌由来細胞株MCC14/2
メルケル細胞癌患者より樹立した細胞(Cell Bank Australia)。
4) PIEZO2
機械刺激感受性イオンチャネル。メルケル細胞が刺激を感知した際に反応し、その情報を細胞内に伝える役割を持つ。触覚の応答に必須。
5) IGF1(Insulin-like growth factor 1)
メルケル細胞を含む種々の細胞増殖を促進する因子。
6) 表皮角化細胞
表皮を構成する細胞。基底層から押し上げられながら分化し、肌のバリア機能に重要な角層を形成する。
7) 参照リリース
皮膚の触覚に係る「メルケル細胞」の研究に着手
https://www.fancl.jp/news/pdf/20210421_merukerusaibou.pdf
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