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タンパク質のようなフォールディングと凝集の両方を引き起こす光応答性超分子ポリマーの開発に成功~メゾ領域へのスケールアップで顕微鏡による直接観察が可能に~

PR TIMES / 2024年8月7日 17時15分



 千葉大学国際高等研究基幹の矢貝史樹 教授を中心とする名古屋大学、自然科学研究機構との共同研究チームは、渦巻き状に折りたたまれた、構成分子が鎖状に連結された鎖(ポリマー主鎖)が、自発的にほどけながら主鎖間で凝集して沈殿する、光応答性の超分子ポリマー(注1)の開発に成功しました。今回観察した現象は、タンパク質のアミロイド線維(注2)の形成や合成高分子の結晶化に酷似していますが、これらの高分子はナノスケールの大きさであったため、直接観察することは不可能でした。本研究では、一桁大きなメゾスケール領域(注3)の分子設計が鍵となり、原子間力顕微鏡(AFM)(注4)を使用してプロセスの中間状態を明瞭に観察することに成功しました。本成果のようにメゾスケールのモデルシステムが構築できれば、顕微鏡を用いた直接観察により対応するナノスケールの現象の深い洞察が得られるようになるため、アルツハイマー病等の治療法における基礎的知見の蓄積や、合成高分子でできた汎用材料・機能性材料の性能向上など、幅広い領域で大きく貢献することが期待されます。
 本成果は、米国化学会誌 Journal of the American Chemical Societyにて2024年7月25日に公開されました。

■研究の背景
 分子間に働く非共有結合により構成分子が鎖状に連結することで形成される超分子ポリマーは、従来の合成高分子にはない刺激応答性や電子的・光学的機能を示すため、次世代高分子材料としての応用が期待されています。最近では合成高分子と同様のアプローチにより重合度(長さ)の精密制御が可能になりつつありますが、超分子ポリマー主鎖の高次構造の制御は未だに容易ではありません。高分子主鎖の高次構造は、生体高分子においては機能を発現するために最も重要な構造ファクターです。例えば、私たちの体を構成しているタンパク質において、それぞれのポリペプチド鎖内で進行するフォールディング(折りたたみ)と複数のポリペプチド鎖の凝集(結晶化)は、タンパク質が正しく機能するか、あるいは生体にとって害のあるものになるか、全く正反対の結果となる高次構造形成過程と言えます。また、合成高分子においても主鎖のフォールディングと凝集は、プラスチックの機械的性質や熱的性質を左右するため、その制御は極めて重要です。このような観点から、超分子ポリマーの主鎖のフォールディングと凝集の制御は、その実用化に向けて重要な研究項目と言えます。

■研究成果
 今回、研究チームは、フォールディングと凝集の両方の過程が競合して起こる光応答性超分子ファイバーの開発に成功し、その過程をAFMにより直接観察しました(図1)。

[画像1: https://prcdn.freetls.fastly.net/release_image/15177/885/15177-885-32274830458322581e1c5b629294c0ed-866x575.png?width=536&quality=85%2C75&format=jpeg&auto=webp&fit=bounds&bg-color=fff ]


 研究チームはこれまで、有機溶媒中で水素結合により機能性分子をディスク状に集合させると、形成された機能性ディスクが自発的に積層することで、湾曲を帯びた多様な超分子繊維を形成することを見出していました(参考文献)。この一連の研究のユニークなポイントは、機能性分子の構造によってディスクの平面性が変化し、平面性が低いとディスクは湾曲を帯びずに直線的に積層する点です。湾曲する繊維は、螺旋や渦巻き等の丸みを帯びた構造を形成するため、一本鎖で折りたたまれた状態を取りますが(フォールディング)、直線的な繊維は、剛直なために異なる繊維同士で集まって析出します(凝集)。また、ディスクの直径は10nm程度と大きいため、形成される繊維の幅は10nm近くにおよび、AFMによって可視化できるという特徴も挙げられます。
 研究チームは、フォールディングと凝集の両方の性質を示す機能性ディスクが開発できれば、AFMによってその過程のスナップショットを撮影できるのではないかと考えました。そこで、機能性分子に、ディスクの平面性を変化させられるような仕掛けを組み込むことを検討しました。
 これまでの研究成果を踏まえ、研究チームは結合回転によりディスクの平面性が変化しうる新たな分子1を合成しました(図2)。さらに、任意のタイミングで平面性を変化させられるように、紫外光で折れ曲がる光応答性分子「アゾベンゼン」を導入しました。有機溶媒中で分子1を自己集合させると、調製直後は渦巻き状に折りたたまれた超分子繊維が形成されました。しかし、この溶液を室温で数日間静置すると、湾曲を失った直線的な繊維の束への構造転移による沈殿形成が観察されました。沈殿が生じ始めた直後のAFM観察から、渦巻き状の主鎖がほどけながら繊維間で凝集していく中間状態が観察されました(図1)。
[画像2: https://prcdn.freetls.fastly.net/release_image/15177/885/15177-885-5cc0a1ca69f651cfabdb230c64fdde8a-865x752.png?width=536&quality=85%2C75&format=jpeg&auto=webp&fit=bounds&bg-color=fff ]


 さらに、調製直後の溶液に紫外光を照射し、主鎖がダイナミックにほどける様子を高速AFM(注5)によりリアルタイムで観察することに成功しました。5分間の紫外光照射の後に照射を止めると主鎖が再びフォールディングした一方で、数時間照射し続けると、主鎖がほどけた状態が維持されるため、繊維の凝集が著しく加速されました。
 このように、研究チームはフォールディングと凝集の両方を引き起こす超分子繊維を初めて開発し、AFMによる中間状態の可視化、および非侵襲性の外部刺激である光を利用した任意のタイミングでの凝集の誘起を実現しました。


■今後の展望
 従来の生体および合成高分子の研究において、フォールディングや凝集などの動的挙動は分光学的な測定やマクロな観察により、系全体の平均的なふるまいとして解析されてきました。一方、本研究では、これらの分子レベル(ナノスケール)で進行する主鎖1本1本のダイナミックな現象を解明するために、多くの分子の自己集合により形成されたメゾスケールの超分子ファイバーが、モデルシステムとして利用できることを示しました。従って、このようなメゾスケールのモデルシステムの構築は、これまで顕微鏡による直接観察が困難であったナノスケールの現象の深い洞察を可能にし、今後の材料科学の発展に大きく貢献すると期待できます。

■用語解説
注1)超分子ポリマー:通常のポリマーとは異なり、分子間で共有結合を持たず、水素結合や静電的相互作用などの弱い非共有結合によって連結したポリマーのこと。この特徴により、特有の性質や機能を示す。
注2)アミロイド線維:通常のタンパク質とは異なり、タンパク質が異常に折りたたまれてできる細長い繊維構造。不溶性で硬い構造なため、体内に蓄積するとアルツハイマー病やプリオン病等の様々な病気を引き起こすことがある。
注3)メゾスケール領域:ナノスケールとマイクロスケールをつなぐ中間領域(数ナノ~マイクロメートル)。
注4)原子間力顕微鏡(Atomic Force Microscope: AFM):探針で試料の表面を走査し、探針と表面との間に働く力を測定して表面構造を原子スケールの高分解能で観察することができる特殊な顕微鏡。
注5)高速AFM:溶液中で動いている物質をナノメートルの空間分解能とサブ秒という時間分解能で観察することができるAFM。

■研究プロジェクトについて
本研究は、以下の支援によって行われました。
・科学研究費助成事業(JP22H00331, JP23H04873, JP23H04874, JP22KJ0486)
・大学共同利用機関法人 高エネルギー加速器研究機構 フォトンファクトリー共同利用実験課題 Proposal No. 2022G537

■論文情報
論文タイトル:Photoresponsive Supramolecular Polymers Capable of Intrachain Folding and Interchain Aggregation
著者:玉木健太*1, Sougata Datta*2, 花山博紀*3, Christian Ganser 4, 内橋貴之4,5, 矢貝史樹*2,3
*1 千葉大学大学院融合理工学府先進理化学専攻
*2 千葉大学国際高等研究基幹
*3 千葉大学大学院工学研究院
*4 自然科学研究機構生命創成探究センター
*5 名古屋大学大学院理学研究科
掲載誌:Journal of the American Chemical Society
DOI:10.1021/jacs.4c07878

■参考文献
論文タイトル:Nanoengineering of Curved Supramolecular Polymers: Toward Single-Chain Mesoscale Materials
著者:Sougata Datta*1, 高橋渉*2, 矢貝史樹*1,3
*1 千葉大学国際高等研究基幹
*2 千葉大学大学院融合理工学府先進理化学専攻
*3 千葉大学大学院工学研究院
掲載誌:Accounts of Materials Research
DOI:10.1021/accountsmr.1c00241

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