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卵は見えぬけれども匂うんだよ―卵の匂いを手がかりにしたダニの托卵―

PR TIMES / 2024年10月7日 11時45分



 動物が他個体の巣に卵を産み、自分の子の世話をしてもらう現象は托卵と呼ばれ、数多くの種で知られています。千葉大学大学院園芸学研究院 長泰行准教授とオランダ・アムステルダム大学 Arne Janssen准教授の研究グループは、体長0.4mmほどの小さなダニの世界で托卵が起こることを昨年報告しました。今回の研究では、目の見えないダニが托卵する相手の0.2mmほどの卵の匂いに反応して、仮親の産卵場所に托卵することを明らかにしました。
 本研究成果は、動物が托卵する相手の卵の匂いを手がかりにして托卵する場所を見つけることを示した、世界で初めての発見です。近年、動物が卵の匂いに反応することを示す実証研究が増えていますが、本研究は卵の匂いが動物間の相互作用に果たす役割の解明につながることが期待されます。
本研究の成果は2024年9月2日に英国の国際学術誌Ecological Entomologyにオンラインにて公開されました。

■研究の背景
 研究グループは、農作物の重要害虫であるアザミウマ類やハダニ類の捕食性天敵であるキイカブリダニとミヤコカブリダニを対象としました。卵を守る習性のないミヤコカブリダニが卵を守る習性のあるキイカブリダニに托卵することで、卵を捕食者から守ってもらうことを先行研究で明らかにしています。(図1)(参考文献1)。
 動物が托卵をするために最初にすべきことは、托卵する相手の巣を発見することです。鳥類では、仮親の巣作りを観察することで托卵する巣を発見することが知られており、視覚が重要な役割を果たします。しかし、ミヤコカブリダニは目が見えないので、他の感覚を使ってキイカブリダニの産卵場所を見つける必要があります。
 キイカブリダニの卵は匂いを放出していることが分かっていました(参考文献2)。そのため研究グループは、ミヤコカブリダニがキイカブリダニの卵の匂いを手がかりにしてその産卵場所を見つけることができるかもしれないと考え、その検証を行いました。また、併せてミヤコカブリダニは、キイカブリダニの産卵場所に卵が何個あれば托卵をするのかについても調べました。

[画像1: https://prcdn.freetls.fastly.net/release_image/15177/904/15177-904-cb881d9edf78784cc047d4175ee86e2c-322x310.jpg?width=536&quality=85%2C75&format=jpeg&auto=webp&fit=bounds&bg-color=fff ]


■研究成果
 ミヤコカブリダニがキイカブリダニの卵の匂いを手がかりに托卵するかを調べるために、図2の装置を使いました。2種のダニは野外では葉の折れ目や葉脈に好んで産卵し、室内ではプラスチック片の下側に産卵するので、これを産卵場所としました。シャーレの上をメッシュで覆い、その上に匂い源としてキイカブリダニの卵が7個ついたプラスチック片と、何もないプラスチック片を置きました。葉片には、何もついていないプラスチック片をメッシュ上のプラスチック片の真下になるよう置きました。
キイカブリダニの卵の匂いは、メッシュの下にあるシャーレに移動することを想定しました。ミヤコカブリダニを放す葉片は湿った脱脂綿上にあり、水を嫌がるダニは葉片から脱出できないため、メッシュの上にあるプラスチック片には触れることができません。このようにして、目の見えないミヤコカブリダニの産卵選好性に影響を及ぼす要因が、メッシュ上にあるプラスチック片についた卵の匂いしかない、という環境で実験を行いました。
[画像2: https://prcdn.freetls.fastly.net/release_image/15177/904/15177-904-2d13a1ac45b35e3a65ee813b0f350ccd-360x315.jpg?width=536&quality=85%2C75&format=jpeg&auto=webp&fit=bounds&bg-color=fff ]


 その結果、ミヤコカブリダニは、キイカブリダニの卵があるプラスチック片の下に好んで産卵することが分かりました(図3)。この結果から、ミヤコカブリダニは、キイカブリダニの卵の匂いを手がかりに托卵すると考えられます。
[画像3: https://prcdn.freetls.fastly.net/release_image/15177/904/15177-904-7bc512934aeeb3d787874f0e49e77387-470x251.jpg?width=536&quality=85%2C75&format=jpeg&auto=webp&fit=bounds&bg-color=fff ]


 またミヤコカブリダニが、キイカブリダニの卵が7個ある場所に托卵することは先行研究で分かっていました(参考文献1)。そこで7個以外の場合の托卵についても検証するため、卵を7個から1個ずつ減らして産卵選好性を調べました。その結果、ミヤコカブリダニは、キイカブリダニの卵が6個以上ないと托卵しないことが分かりました。成熟したキイカブリダニが1日に産む卵は6~8個です。さらに、キイカブリダニは産卵場所に卵が1個ある場合よりも7個ある場合のほうが卵を守る時間が長いことも分かりました。これらの結果から、ミヤコカブリダニはキイカブリダニが卵を守る効果が大きいと思われる場所を卵の匂いを手がかりにして発見し、托卵するということが明らかになりました。

■今後の展望
 卵から放出される匂いを動物が利用することは他の種でも知られていますが、本研究はキイカブリダニの卵の匂いが同種に加え他種、つまり複数種の動物が利用することを示したものです。肉眼では分からないほど小さな卵が動物たちの関係において重要な役割を果たしているのかもしれません。今後は、「卵の匂いはどのくらい遠くから利用できるのか」、「卵の匂いはどんな化学成分なのか」、「他の動物も卵の匂いを利用するのか」といった疑問についても検証したいと思っています。2種のカブリダニが餌として捕食するアザミウマ類は作物の害虫であり、キイカブリダニの卵の匂いがアザミウマに及ぼす影響を明らかにすることで、その防除につながることが期待されます。

■掲載論文
論文タイトル:Host egg volatiles are involved in brood parasitism in predatory mites
著者:Choh Y, Janssen A
掲載誌:Ecological Entomology
DOI:doi.org/10.1111/een.13376

■参考文献
1. Choh, Y. & Janssen, A. A tiny cuckoo: risk-dependent interspecific brood parasitism in a predatory mite. Functional Ecology 37, 1594-1603 (2023).
2. Saitoh, F., Janssen, A. & Choh, Y. The use of volatile cues in recognition of kin eggs by predatory mites. Ecol. Entomol. 45, 1220-1223 (2020).

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