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光のホプフィオンが持つ3次元渦構造の可視化に成功!-光を用いて物質中に3次元渦構造を創成する物質光操作の第一歩-

PR TIMES / 2024年12月4日 15時15分



 千葉大学分子キラリティー研究センターの尾松孝茂教授、同センター(国際高等研究基幹兼任)のSrinivasa Rao Allam特任講師、同大学大学院融合理工学府博士後期課程3年の田村理人氏、デューク大学のNatalia M. Litchinitser教授らの共同研究グループは、光ホプフィオン(注1)を集光照射し、その偏光の渦構造をアゾポリマー(注2)に転写することにより、光ホプフィオンの3次元渦構造を可視化することに成功しました。転写されたアゾポリマーの表面には、光ホプフィオンの偏光の入れ子構造を反映した半月状の凹凸構造が形成され、光ホプフィオンの位相変化に対応した偏光の結び目構造がレリーフとして可視化されています(図1)。
 この成果は、光によってホプフィオンのような3次元準粒子を、液晶などさまざまな物質に生成できる可能性を示唆し、物理学や材料科学における新たな知見をもたらします。
 本研究成果は、2024年11月9日(現地時間)に学術誌ACS photonicsにてオンライン掲載されました。 

■ 研究の背景
 近年、不揮発性メモリのキャリアとしてホプフィオンが注目されています。ホプフィオンは、3次元空間においてスピンが複雑に絡み合い、結び目状の3次元スピン渦構造を形成するため、その安定性と準粒子としての特性により、物性物理学や情報科学の分野で注目を集めています(参考文献1)。
 光学分野においても、波面や偏光を空間的に制御した光渦(注3)や偏光渦(注4)を超える、新たな光の準粒子として光ホプフィオンが実証されています(参考文献2)。光ホプフィオンは、偏光構造とその時間位相の4次元構造を3次元空間に投影したもので、その偏光の位相変化を示す輪(ホップファイバー)が結び目を形成します。したがって、外部の乱れや干渉に対して比較的強い安定性があり、自由空間通信やデータストレージ、マイクロ/ナノスケールでの光操作において革新的な応用が期待されています。また、その特異な偏光渦構造を持つ光ホプフィオンは、新たな物質操作を可能にすると考えられています。本研究チームは以前、光感受性の高いアゾポリマーに光スキルミオンの偏光の渦構造を物質に直接転写することに成功しました(参考文献3)。
 そこで本研究では、アゾポリマーをモデル材料として用い、光ホプフィオンの3次元偏光を物質に転写することで、光ホプフィオンによる新たな物質操作の可能性を探求しました。
[画像1: https://prcdn.freetls.fastly.net/release_image/15177/923/15177-923-fb031a9fc8766ec7071b40a5e1a87c20-1291x615.png?width=536&quality=85%2C75&format=jpeg&auto=webp&fit=bounds&bg-color=fff ]
図1 光ホプフィオンと物質の相互作用 3次元偏光を持つ光ホプフィオンを光感受性材料(アゾポリマー)に照射することで、その3次元の偏光分布と物質の相互作用により表面レリーフが形成される。

■ 研究の成果
 光ホプフィオンは右回り円偏光を持つガウシアンビーム(注5)および動径ラゲールガウスビーム(注6)と、左回り円偏光を持つ光渦を空間的に重ね合わせることで生成されます。本研究では、波長532ナノメートルの連続波レーザーと液晶空間光変調器(SLM)、および1/4波長板を用いることで、光ホプフィオンを生成しました。
 生成した光ホプフィオンを対物レンズによって集光し、ガラス基板上に成膜したアゾポリマー膜を焦点から前方へ軸上移動させ、それぞれの位置で光ホプフィオンをアゾポリマー膜に照射(2.5マイクロワット、30秒間、ビーム直径5マイクロメートル)しました。その結果、焦点で形成されたアゾポリマー膜の表面には、偏光の渦構造を反映した半月状の凹凸構造(高さ約400ナノメートル)を持つ表面レリーフが形成されました。さらに、焦点から離れた位置では、半径の異なる入れ子のような半月状のレリーフ構造が内外に現れるとともに、それらが互いに重なり合うことが確認できました(図2)。これは、位相の結び目(ホップファイバー)をアゾポリマーの表面レリーフとして可視化できたことを示しています。本研究により、複雑に変化する光のパターンを、光の焦点より離れたところでも、映し取ることができる特殊な光の生成が可能であることが示されました。この実験は、光ホプフィオンを用いた新しい物質操作の基礎となる第一歩として位置づけられます。
[画像2: https://prcdn.freetls.fastly.net/release_image/15177/923/15177-923-d366ef86eb3037a815f29298de3b85e7-953x720.png?width=536&quality=85%2C75&format=jpeg&auto=webp&fit=bounds&bg-color=fff ]
図2 ビーム伝搬に伴う光ホプフィオンの偏光分布と、形成された表面レリーフ構造の原子間力顕微鏡(AFM)の3次元投影 光ホプフィオンの偏光状態はデータの値を可視化するため色で表現する配色スキーム「ジェットカラーマップ(注7)」で示されている(上)。赤と青はそれぞれ右回りと左回りの円偏光を表す。レリーフ画像の白い線は 1 マイクロメートルのスケールバーを示し、ZRは、ビームの焦点から、ビームの断面積が2倍になるまでの距離「レイリー長(注8)」を示す。

■ 今後の展望
 本研究の成果は、光ホプフィオンの3次元の偏光渦構造を物質に直接転写できることを初めて実証したものであり、光ホプフィオンを用いて物質中のホプフィオンの渦構造を生成できる可能性を示唆しています。今回の研究では、強い偏光感受性を示すアゾポリマーを用いましたが、同様の実験は液晶などの物質でも可能であると考えられます。
 さらに、本研究で形成された表面レリーフは、3次元の偏光による新たな自由度を活用し、超高密度で書き換え可能な光データストレージへの応用の可能性も秘めています。

■用語解説
注1)光ホプフィオン:光の位相と偏光構造が3次元的に絡み合ったねじれた渦構造を持つ光。ビームの伝搬において、位相の変化が結ばれることで、位相の結び目(ホップファイバー)を有する。
注2)アゾポリマー:アゾベンゼン分子を含む高分子。可視光を照射すると光異性化反応を起こし、光の輻射力(光のエネルギーの流れに沿って物質に働く力)によって質量移動を起こす。その結果、照射光の偏光や波面を反映したユニークな表面構造(表面レリーフ)が形成できる。
注3)光渦:螺旋状の波面(螺旋波面)を持つ光。光渦の波面中央部には位相の決まらない特異点(暗点)が存在し、円環状の強度分布を示す。
注4)偏光渦:レーザービームの断面内で偏光が光軸に対して半径方向または周回方向に軸対称に偏光した光。
注5)ガウシアンビーム:レーザーの基本的な横モードで、ヘルムホルツ方程式の近軸近似解として得られる。ガウス分布状の強度分布を持つ。
注6)動径ラゲールガウスビーム:ビームの中央部と外側で位相がπだけずれた波面を持つ光。中心に明点を持ち、その周囲に円環状の強度分布を示す。
注7)ジェットカラーマップ:数値が高いほど赤、低いほど青で情報を直感的に伝えるもの。これにより、複雑なデータのパターンや傾向を簡単に視覚的に理解することができる。
注8)レイリー長:光が集光点から広がり始める範囲を示し、ビームの強度や位相が安定している範囲を示す指標。ビームの断面積が集光点における断面積の2倍になる位置と集光点の間の距離を指す。

■ 論文情報
論文タイトル:Three-dimensional projection of optical hopfion textures in a ma-terial
著者:Rihito Tamura, Srinivasa Rao Allam, Natalia Litchinitser, Takashige Omatsu
雑誌名:ACS Photonics
DOI:10.1021/acsphotonics.4c01547

■ 参考文献1)
論文タイトル:Static Hopf Solitons and Knotted Emergent Fields in Solid-State Noncentrosymmetric Magnetic Nanostructures
雑誌名:Physical Review Letters
DOI: 10.1103/PhysRevLett.121.187201
■ 参考文献2)
論文タイトル:Particle-like topologies in light
雑誌名:Nature Communications
DOI:10.1038/s41467-021-26171-5
■ 参考文献3)
論文タイトル:Direct imprint of optical skyrmions in azopolymers as photoinduced relief structures
雑誌名:APL Photonics
DOI:10.1063/5.0192239

■ 研究プロジェクトについて
本研究は、科学研究費補助金基盤研究A、科学研究費補助金学術変革領域研究A「光の螺旋性が拓くキラル物質科学の変革」および科学技術振興機構 戦略的創造研究推進事業(CREST)の一環として行われました。また、千葉大学分子キラリティー研究センター内における共同研究の成果です。

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