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廃棄物を生じずにハロゲンと窒素を導入 高付加価値化合物の環境調和型開発に期待

PR TIMES / 2024年12月25日 14時45分



■研究の概要:
 千葉大学大学院理学研究院の荒井孝義教授(千葉ヨウ素資源イノベーションセンター(CIRIC)長)らの研究チームは、N-ハロゲン化スクシンイミドを用い、アルケン基質のハロゲン化と窒素を導入するイミド化(注1)の両方を同時に行う触媒の開発に成功しました(図1)。本研究成果は、環境に配慮した医薬品や農薬、機能性分子の開発に役立つことが期待されます。
本研究成果は、学術誌Organic Letters誌にて2024年12月3日に公開されました。


[画像1: https://prcdn.freetls.fastly.net/release_image/15177/929/15177-929-ad6abc46b41e93acb85bfbaa20a37f14-210x289.png?width=536&quality=85%2C75&format=jpeg&auto=webp&fit=bounds&bg-color=fff ]


[画像2: https://prcdn.freetls.fastly.net/release_image/15177/929/15177-929-452ccdaa2bbf08cb0f226cb851b193b8-498x279.png?width=536&quality=85%2C75&format=jpeg&auto=webp&fit=bounds&bg-color=fff ]
 図1.研究概要

■研究の背景:
 ハロゲン(halogen)とは、周期表で第17族に位置する非金属元素でフッ素(F)、塩素(Cl)、臭素(Br)、ヨウ素(I)、アスタチン (At) の5元素を指し、様々な金属と塩を作ります。海に囲まれた日本は塩の宝庫であり、ヨウ素の世界生産の約3割を日本が占めるなど、ハロゲンは日本の誇る貴重な天然資源です。また、炭素(C)、水素(H)、窒素(N)、酸素(O)等を主な構成元素とする私たちの体内や動植物の世界で、電気陰性度の大きなハロゲンが含まれる有機化合物は、特異な生物活性を発現すると期待され、医農薬の開発に多彩に用いられてきました。そのため、ハロゲンの新しい機能を基礎研究から見出し、付加価値の高いハロゲン製品の開発に繋げていくことは、大変重要です。
 これまで、ハロゲンを有機分子に導入する方法として、特殊なハロゲン化試薬(例:N-ハロゲン化スクシンイミド)をアルケン基質に作用させ、外部から他の基質(R3-H)を導入させる手法が用いられてきました。しかしこの方法では、スクシンイミドなどの、ハロゲン化試薬由来の廃棄物が生じてしまう問題がありました(図2)。
[画像3: https://prcdn.freetls.fastly.net/release_image/15177/929/15177-929-d630faef7bbf9f882adf13258d37d360-491x182.png?width=536&quality=85%2C75&format=jpeg&auto=webp&fit=bounds&bg-color=fff ]
図2 従来のハロゲン化反応:ハロゲン化試薬由来の廃棄物が生成

■研究の成果:
 研究チームでは、反応性の異なるアルケン基質を種々検討したところ、独自に開発したビス(イミダゾリジン)ピリジン(PyBidine)配位子-銅触媒が、ベンジリデンマロノニトリル(図1中、青色で示した化合物)とN-ハロゲン化スクシンイミドとの反応において、ハロゲン化とスクシンイミドによる窒素化を同時に進行させることを見出しました。さらに、配位子のイミダゾリジン環窒素上の置換基にアントラセン環を導入することで、極めて高い立体選択性で光学活性なハロイミド化合物を合成することに成功しました。本反応の基質一般性は広く、塩素と窒素を同時に導入するクロロイミド化、臭素と窒素を同時に導入するブロモイミド化の双方に適用することができます(図1)。
 配位子に導入したアントラセン環の役割を解明すべくX線結晶構造解析を行いました。研究室で最初に開発したベンジル基を窒素上の置換基とする錯体(図3-左下:Arがベンゼン環)の場合は、緑色で示したフェニル基(Ph基)の対称性が悪く、第3と第4象限に位置するために十分な不斉環境を構築できていませんでした。一方、今回新たに開発しましたアントラセン環を有する錯体(図3-右下:Arがアントラセン環)の場合は、緑色で示しPh基が第1象限と第3象限を綺麗に塞ぐことで、高い不斉環境を構築していることがわかりました。あたかもアントラセン環が銅(Cu)を含む平面的な配位構造に垂直に噛んだ「ギア」のように見えることから、”Gearing Effect”として、発表しています。
[画像4: https://prcdn.freetls.fastly.net/release_image/15177/929/15177-929-96a0a8ff0a0eac5900d96b5991764514-707x494.png?width=536&quality=85%2C75&format=jpeg&auto=webp&fit=bounds&bg-color=fff ]
図3 アントラセンのGearing Effect

 今回の研究の特徴は、ハロゲン化試薬を構成していたスクシンイミドが反応して生成物に取り込まれることにあります。反応中間体の検出、解析などにより、今回の触媒反応では、スクシンイミドのアニオンが銅に結合した図4の中間体Aが生成していることが示唆されています。この中間体Aに、ベンジリデンマロノニトリルが取り込まれ、Bになります。更にN-ブロモスクシンイミドと反応することでCを経て、生成物が生じます。この触媒サイクルにおいて、廃棄物は生じません。Bにおける、スクシンイミドアニオンとベンジリデンマロノニトリルとの反応が、立体選択性を制御している段階ですので、詳細に計算科学によって解析したところ、ベンジリデンマロノニトリルのニトリル基が配位子のイミダゾリジン環が有するN-Hプロトンならびに配位子上のC-Hプロトンと4点の水素結合を形成して、所望の立体を与える遷移状態を安定化していることがわかりました(図4)。
[画像5: https://prcdn.freetls.fastly.net/release_image/15177/929/15177-929-dccffbd5cbdc2258ed9066c12396e88b-496x375.png?width=536&quality=85%2C75&format=jpeg&auto=webp&fit=bounds&bg-color=fff ]
図4 反応機構(右上は遷移状態:黄色がベンジリデンマロノニトリル、水色がイミドアニオン)

 このように、従来は困難でありましたハロゲン化試薬をハロゲン化と窒素化の双方に用いる高立体選択的な触媒反応の開発に成功しました。緻密な触媒設計と反応解析に基づいた学術研究に加え、廃棄物の少ない有機化学の実践として、現代の環境問題の解決にも貢献する研究であります。

■今後の展望
 今回のハロイミド化反応で得られる生成物からは、以下の反応式に見られるように、炭素骨格の伸長やシアノ基から生体適合性の高いアミド基への変換反応が可能です。このため、医農薬、機能性分子などの開発に役立つと期待されます。
[画像6: https://prcdn.freetls.fastly.net/release_image/15177/929/15177-929-2ad4bf7de30cfcfecb9373e04467ee5b-579x253.png?width=536&quality=85%2C75&format=jpeg&auto=webp&fit=bounds&bg-color=fff ]


■用語解説
注1)イミド化:イミドとは、2つの炭素-酸素二重結合(カルボニル基)に挟まれた窒素化合物を示します。今回の研究では、この窒素上で反応が進行して、イミドが生成物に取り込まれることになりました。

■研究プロジェクトについて
本研究は、以下の研究課題の支援を受けて行われました。
・ 科学研究費補助金 基盤研究(B) 19H02709
「ハロゲン結合の動的構造制御に基づく高活性精密反応場の構築」
・ 千葉大学国際高等研究基幹学際的先端研究支援プログラム
「千葉ハロゲン科学:ハロゲンで繋ぐ分子機能」

■論文情報
タイトル:Gearing Effects on N-9-Anth-PyBidine-Cu(OAc)2-Catalyzed Asymmetric Direct Haloimidation Reactions of Alkylidenemalononitriles
著者:Yuri Takagi, Takaaki Saito, Natsuki Mizuno, Takayoshi Arai*
雑誌名:Organic Letters
DOI:10.1021/acs.orglett.4c03405

[画像7: https://prcdn.freetls.fastly.net/release_image/15177/929/15177-929-ed00dcda160e74cfaf7002af1f5c3543-484x99.png?width=536&quality=85%2C75&format=jpeg&auto=webp&fit=bounds&bg-color=fff ]


【千葉ヨウ素資源イノベーションセンター(センター長:荒井 孝義)】
千葉が生産するヨウ素の高機能化を目指し、平成28年度文部科学省 地域科学技術実証拠点整備事業に採択されました。600MHz NMRやXPSなど最先端分析機器を整備し、産学官共同研究を推進する拠点として、平成30年春に西千葉キャンパスに竣工しました。

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