65億光年先にまたたく単独の星を40個以上発見!ジェームズウェッブ宇宙望遠鏡によって単独の星の観測記録を大幅更新
PR TIMES / 2025年1月7日 11時45分
千葉大学先進科学センターの札本佳伸特任助教、大栗真宗教授、阿部克哉特任研究員 (当時)、同大学融合理工学府の河合宏紀特別研究学生らを中心とする国際共同研究チームは、重力レンズ(注1)と呼ばれる自然の集光現象を利用することで、65億光年離れた遠方の銀河内の単独の星40個以上を発見しました。これらの星は、重力レンズによる個々の星の見かけの明るさの変動を、2022年12月と2023年12月に得られたジェームズウェッブ宇宙望遠鏡(注2)の観測画像を比較して捉えることで発見されました。この成果は、これまでの遠方銀河内の単独の星の発見数の記録を大幅に更新するとともに、宇宙が生まれてから現在までの銀河の進化についての研究や、宇宙を満たす謎の物質ダークマター(注3)の正体に迫る研究に新しい道を切り開く研究成果です。
本研究成果は英学術誌Nature Astronomy電子版に1月6日に掲載されました。
[画像: https://prcdn.freetls.fastly.net/release_image/15177/932/15177-932-7214eee584e633b7417b7fc435071abe-618x394.png?width=536&quality=85%2C75&format=jpeg&auto=webp&fit=bounds&bg-color=fff ]
(上図) ジェームズウェッブ宇宙望遠鏡により撮影された「ドラゴン」。銀河団アーベル370により引き起こされる重力レンズ効果によりその見た目が非常に長く引き伸ばされている。(下図) 「ドラゴン」の左側の領域で、1年おきの2回の観測の比較を行った拡大図。2022年に映っていた星が2023年の観測では見えなくなっており、また反対に新たに現れる星も存在しており、それぞれが個々の星のまたたきを捉えている。実線の半十字および破線の半十字が2022年および2023年のみにみられる点光源を示している。画像の変化を比較することによって、重力レンズ効果の時間変化による星のまたたきを捉えることができた。
■ 研究の背景
我々が住む天の川銀河を含む全ての銀河は、多数の星から構成されています。天の川銀河や私たちの近くのアンドロメダ銀河の観測では、銀河を構成する個々の星を分離して観測することができますが、地球から何億光年も離れた遠方銀河においては、内部の星を個別に1つ1つ検出することはできません。これは、地球からの距離が遠くなるにつれて、星が見かけ上極めて暗くなり、また銀河内に密集した星々がひとつの光の集まりとしてしか観測できなくなるためです。遠方銀河の個々の星を分離して観測することができれば、銀河が初期宇宙から現在までどのように進化してきたのかについて大きな手がかりが得られます。
近年、遠方銀河内部の個々の星を観測する手法として、重力レンズを用いた手法が開発され、さまざまな観測を通して大きな進展が得られつつあります。銀河団と呼ばれる多数の銀河が集まった天体により引き起こされる重力レンズによって、その背景の銀河からの光に極めて強い集光効果が働くことで、遠方の星からやってくる光が何百から何千倍も明るくなることを利用して達成されます。この手法を用いた観測により、通常では観測できない遠方銀河内部の個々の星の検出が2018年に初めて報告され、その後もいくつか報告が行われてきました。しかしながら、これまでの観測では遠方の銀河それぞれに対して1個ないし数個程度の検出にとどまっていたため、遠方銀河内部の星の種族(注4)を統計的に研究するうえで、より多くの星の検出が望まれていました。
■ 研究の成果
研究チームは、くじら座方向にある地球から約40億光年離れた銀河団アーベル370の背景に位置する、65億光年離れた銀河に着目しました。この遠方銀河は、銀河団の強力な重力レンズ効果によりその見た目が引き伸ばされたように見え、その特徴的な形状から「ドラゴン」の愛称でも知られています(図上部)。
研究チームは、ジェームズウェッブ宇宙望遠鏡により、2022年と2023年の1年間隔で撮影された画像を慎重に解析し、この「ドラゴン」内部の44個の星に対して、見かけの明るさの大幅な変動を捉えることに成功しました(図下部)。これらの星は重力レンズ効果によって数百から数千倍程度明るくなっており、重力レンズ効果の時間変動によって見かけの明るさも時間変化しているため、今回の解析によって捉えることができました。これらの星は、重力レンズ効果により遠方銀河内で特定の時間の間だけ見かけ上明るくなっている状況で、その星の光がまたたく瞬間を、ジェームズウェッブ宇宙望遠鏡による高感度かつ高分解能観測により捉えたことになります。この40を超える新たな星の発見は、遠方銀河内の個々の星を捉えた観測としては過去の記録を大幅に塗り替えるともに、遠方銀河内の星を大量に観測し統計的な研究が行えることを実証しました。
また研究チームは、今回発見された星の色(注5)も詳しく解析し、そのいくつかはベテルギウスに代表される、星が寿命を迎える段階にある赤色超巨星であることを突き止めました。これまで重力レンズで発見された遠方銀河内の個々の星の多くはリゲルに代表される青色超巨星であり、その点でも新しい発見です。波長の長い光を効率よく捉えることができるジェームズウェッブ宇宙望遠鏡の観測だからこそ、比較的温度が低い大量の赤色超巨星を発見することができたのです。
■ 今後の展望
研究チームは、銀河団アーベル370と「ドラゴン」のジェームズウェッブ宇宙望遠鏡観測結果のさらなる解析を計画しています。今回の発見の元となった画像は、それぞれ異なる研究チームが行った観測計画から得られており、同じ対象の観測を複数回行うことは当初は全く意図しておらず、この研究成果は偶然得られたものでした。今後は綿密な計画の上で、何百という個々の星の詳細な観測を行う計画を立てています。また、重力レンズによりまたたく星がどのように分布しているかを詳しく解析することで、ダークマターの正体に迫ることができる可能性もあります。研究チームは、これらの応用に向けた詳細な解析を引き続き進めていきます。
■ 用語解説
注1)重力レンズ:アインシュタインの一般相対性理論で予言され観測されている、重力場による光の経路の曲がり。遠方天体の見かけの形状を歪めるのみならず、遠方天体からの光を虫眼鏡のように集めることで、遠方天体の見かけの明るさを増光する効果も生じる。
注2)ジェームズウェッブ宇宙望遠鏡:米国NASAが2021年12月25日に打ち上げた、主鏡口径6.5mの巨大な宇宙望遠鏡。わずか3年の間に初期宇宙の銀河の観測で革新的な成果を数多く挙げている。
注3)ダークマター:宇宙の物質のうち、約20%は恒星、銀河、原子、生命を含む通常の物質、すなわち「バリオン」物質で、残りの約80%は重力のみ作用し、光学的には直接観測できない「ダークマター」(「暗黒物質」とも呼ばれる)でできていると考えられている。ダークマターの素粒子としての正体はよくわかっておらず、基礎物理学の重要な未解決問題のひとつである。
注4)星の種族:星は主としてその質量により性質が大きく異なり、質量が大きい星ほど寿命が短い一方で、質量が小さい星ほど長い寿命を持つ。これらの特徴から、銀河における異なる質量の星の個数の分布を調べることで銀河の生まれた時期やこれまでの歴史を調べることが可能となる。
注5)星の色:星の色はその質量や年齢により典型的に異なる色の光を放つ特徴があり、質量が大きく若い星ほど青く、質量が小さいまたは年をとった星ほどより赤い光を強く放つ。
■参考資料
研究チームによる過去の遠方銀河内の個々の星の発見の報告については、以下のプレスリリースをご覧ください。
・『これまでで最も遠方の単独の星の観測』(東京大学/2018年4月)
https://www.ipmu.jp/ja/20180403-Icarus
・『NASAハッブル宇宙望遠鏡、地球から129億光年離れた星を発見』 (千葉大学/2022年3月)
https://www.chiba-u.jp/news/research-collab/rnasa12940.html
■ 研究プロジェクトについて
本研究はJSPS科研費JP22K21349, JP23K13149, JP20H05856, JP22H01260, JP22J21440, JP17H06130, JP22H04939, JP23K20035, JP24H00004の支援を受けています。
■ 論文情報
タイトル:Identification of >40 gravitationally magnified stars in a galaxy at redshift of 0.725
著者:Yoshinobu Fudamoto, Fengwu Sun, Jose M. Diego, Liang Dai, Masamune Oguri, Adi Zitrin, Erik Zackrisson, Mathilde Jauzac, David J. Lagattuta, Eiichi Egami, Edoardo Iani, Rogier A. Windhorst, Katsuya T. Abe, Franz Erik Bauer, Fuyan Bian, Rachana Bhatawdekar, Thomas J. Broadhurst, Zheng Cai, Chian-Chou Chen, Wenlei Chen, Seth H. Cohen, Christopher J. Conselice, Daniel Espada, Nicholas Foo, Brenda L. Frye, Seiji Fujimoto, Lukas J. Furtak, Miriam Golubchik, Tiger Yu-Yang Hsiao, Jean-Baptiste Jolly, Hiroki Kawai, Patrick L. Kelly, Anton M. Koekemoer, Kotaro Kohno, Vasily Kokorev, Mingyu Li, Zihao Li, Xiaojing Lin, Georgios E. Magdis, Ashish K. Meena, Anna Niemiec, Armin Nabizadeh, Johan Richard, Charles L. Steinhardt, Yunjing Wu, Yongda Zhu, Siwei Zou
掲載誌:Nature Astronomy
DOI:10.1038/s41550-024-02432-3
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