肺炎球菌ワクチンでリスクの高い高齢者を守る
QLife / 2023年9月5日 18時30分
肺炎による死亡者の97.9%は65歳以上
肺炎のリスクは加齢とともに高まり、死亡率は65歳以上で急激に上昇していくことがわかっています1)。そこで、MSD株式会社は2023年8月28日に都内で「肺炎予防啓発」のためのメディアセミナーを開催し、永井英明先生(国立病院機構東京病院感染症科)が講演を行いました。
高齢者の場合、症状が急変するケースも呼吸器の感染症には、さまざまな種類があります。空気が入っていく気道のうち、鼻・口、咽頭、喉頭までの上部で起こる炎症が上気道炎や風邪で、それより下部、気管から終末細気管支までで起こる炎症が気管支炎です。さらに奥にある肺胞系(二酸化炭素と酸素といったガス交換の場)で起こるのが肺炎です。
永井英明先生(MSD株式会社提供)
永井先生は「抗菌薬などの薬の進歩と医療技術の向上により、かなりよく治療できるようになりましたが、高齢者にとって肺炎は、いまだ怖い病気であることには変わりありません」と話します。
理由としてあげられるのが、加齢に伴い増える心臓や腎臓などの基礎疾患の存在。「がんなどの併存疾患があると、肺炎などの感染症にかかりやすくなり、症状も重くなる傾向があります。また高齢者の場合、一般的な肺炎の症状(発熱、咳、痰)が表出せずに、微熱で食欲がない程度という場合もあり、発見が遅れてしまい、急に症状が進んで呼吸不全になって病院に搬送されてくることもあります。ですから医療従事者はご高齢の方については、健康状態について常に注意深くみていくことが大切です」
肺炎の主な原因「肺炎球菌」肺炎の原因には放射線や化学物質、ウイルスなどもありますが、圧倒的に多いのが細菌、特に菌種が多い肺炎球菌による感染症です。ですので、感染から、どうやって身を守るかが重要になります。
多くの小児は肺炎球菌を無症状で鼻咽頭に保菌し、しばしば中耳炎や肺炎を発症することがあります。そこを供給源とする、咳やくしゃみ(飛沫感染)によって菌が高齢者へという感染経路がわかっています。
永井先生は「なかでも危険なのが、血液内に菌が侵入する侵襲性肺炎球菌感染症(IPD)です。 IPDには髄膜炎、菌血症を伴う肺炎や敗血症などがあり、死亡してしまうケースや重篤な後遺症などリスクが高くなります」と解説しました。
リスクを軽減する「肺炎球菌ワクチン」我が国の予防接種施策の基本的な理念として「予防接種・ワクチンで防げる疾病は予防すること2)」があります。科学的根拠を基にワクチン接種のリスクとベネフィットのバランスを考慮します。特に高齢者に推奨されているのが、インフルエンザワクチン、帯状疱疹ワクチン、新型コロナワクチン、そして肺炎球菌ワクチン※1の4つです。積極的なワクチン接種を行うことで、高齢者の医療機関への受診や入院、死亡リスクを減らすことは、医療機関の負荷軽減や、国の医療費削減にもつながっていきます。
「令和3年度の肺炎球菌ワクチン実施率は 14.0 %3)と、新型コロナワクチン、インフルエンザワクチンと比べ、非常に低い接種率です。肺炎球菌をターゲットにする肺炎球菌ワクチンの存在を多くの方にぜひ知っていただきたい。『自分は元気だから、打たなくてもよい』と考える方も多くいます。しかしながら、肺炎球菌は肺炎、特にIPDという重篤な疾患を引き起こすリスクがあり、高齢者にとっては大敵です。医療従事者の方は、患者さんにワクチン接種を勧めていただきたい」と永井先生は肺炎球菌ワクチン接種のさらなる普及の重要性を強調しました。
ワクチン以外にも飛沫感染など細菌やウイルスが体に入り込まないようにするための「マスク、うがい、手洗い、口腔ケア」、免疫力を高めるための「規則正しい生活、禁煙、既存病の治療」なども大切な予防策です。
肺炎は高齢者にとって命に関わる疾患です。超高齢社会の日本において肺炎球菌ワクチンの接種率を高めることは、高齢者の健康寿命延伸につながり、そして増え続ける医療費の削減という大きな課題を解決する糸口となるでしょう。(QLife編集部)
※1 PPSV23(23価肺炎球菌ワクチン) 1)総務省統計局 令和 3 年人口動態調査 性・年齢別にみた死因簡単分類別死亡率 2)厚生労働省 予防接種に関する基本的な計画(2014 年 4 月) 3)厚生労働省 定期の予防接種実施者数 平成6年法律改正後(実施率の推移)https://www.mhlw.go.jp/topics/bcg/other/5.html(2023年8月23日検索)
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