CIDPの新たな自己抗体を発見、感覚神経障害のバイオマーカーになる可能性
QLife / 2024年1月12日 16時50分
CIDPの病態を反映する有用なバイオマーカーが求められている
名古屋大学は2024年1月10日、慢性炎症性脱髄性多発神経炎(CIDP)患者さんの血清とマウスの神経組織を反応させて免疫沈降法と質量分析を組み合わせた手法により、ジヒドロリポアミドS-アセチルトランスフェラーゼ(DLAT)に対する自己抗体を同定したと発表しました。
CIDPは、緩徐進行性あるいは再発性の経過で四肢の筋力低下や感覚障害を引き起こす免疫介在性の末梢神経障害です。その病因や病態は不明ですが、末梢神経成分への自己免疫異常による脱髄によって引き起こされると考えられています。診断には神経伝導検査で複数の部位における脱髄を示す電気生理学的証拠が必要ですが大変難しく、非典型的な変異型が存在するため誤診も多く、病態を反映した有用なバイオマーカーの探索が喫緊の課題です。バイオマーカーが同定されれば、臨床的特徴・発症機序・治療反応性が類似している患者さんの層別化に役立つ可能性があります。
研究グループはこれまでに有用なバイオマーカーとして、血清中のニューロフィラメント軽鎖がCIDPの疾患活動性と関連し、電気生理学的および病理学的に神経軸索変性と関連することを明らかにしてきました。今回の研究では、さらなるバイオマーカーの探索としてCIDP患者さん血清中の疾患に関連する自己抗体を検証し、その臨床的特徴を調べました。
CIDP患者さんの血液から「DLAT」に対する自己抗体を新たに発見研究グループは、CIDP患者さん78人と健常な人5人の血清サンプルを用いて、新たな自己抗体について詳しく調べました。
その結果、調べたCIDP患者さんの10%に当たる8人で、血清中に「ジヒドロリポアミドS-アセチルトランスフェラーゼ(DLAT)」に対する自己抗体が存在することがわかりました。
抗DLAT抗体をCIDP患者さん18%、感覚性ニューロパチー患者さん10%に確認そこで、多数の検体を用いて大規模スクリーニングを行いました。その結果、CIDP患者さん160人中29人(18%)、免疫介在性感覚性ニューロパチー患者さん58人中6人(10%)で抗DLAT抗体の存在が確認されました。一方、多発性硬化症、ギラン・バレー症候群、その他の神経疾患および健常人血清を含む対照群で検出されたのは140例中2例のみ(1%)だったということです。
さらに、剖検で調べた後根神経節(感覚神経細胞の集まり)の細胞ではDLATの高発現が観察され、患者血清とマウス後根神経節細胞との反応性が確認されました。また、DLATを過剰発現させたヒトの培養細胞やマウス後根神経節を用いた検討においても、患者血清との反応性が確認されました。
しかし、マウスから後根神経節細胞を取り出して培養し、自己抗体の細胞毒性を調べた実験では明らかな細胞障害を示さず、T細胞介在性の機序または他の要因が背景にある可能性が考えられました。
抗DLAT抗体陽性者では「感覚性運動失調・脳神経障害・悪性腫瘍」合併が多い抗DLAT抗体陽性CIDP29例の臨床的特徴として、抗体陰性CIDP131例と比較したところ、感覚性運動失調(69%対37%)、脳神経障害(24%対9%)、悪性腫瘍(20%対5%)を合併する患者さんの割合が高いことがわかりました。
抗DLAT抗体を有する患者さんの臨床的特徴の解明が重要今回、CIDPの中でも感覚障害が主体のタイプの患者さんの血清中に、抗DLAT抗体が検出されました。また、CIDP以外の感覚障害主体のニューロパチーの患者さんでもこの抗体がしばしばみられることがわかりました。さらに、DLATは感覚神経細胞の集まりである後根神経節細胞に高発現していることから、感覚優位の免疫介在性末梢神経障害のバイオマーカーとして有用な可能性が示唆されました。
「抗DLAT抗体を有する患者さんの臨床的特徴に焦点を当てたさらなる研究が、同疾患の定義をより明確にすることに役立つと考えられる。また、自己抗体の細胞毒性が示されなかったことから、病態への直接的関与はT細胞介在性など他の要因が背景にある可能性が考えられ、さらなる検証が必要であると考えられる」と、研究グループは述べています。(QLife編集部)
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