不妊治療のスペシャリスト「胚培養士」とは?
QLife / 2024年7月12日 14時0分
技術格差の縮小が課題
不妊治療は2022年に保険適用となったことで、妊娠を望むカップルにとって身近な存在となっています。日本産科婦人科学会と厚生労働省の統計1)2)によれば、2021年に体外受精や顕微授精などの生殖補助医療で誕生した赤ちゃんの数は6万9,797 人。これは全出生児(81万1,622 人)の8.6%にあたり、約11.6人に1人は生殖補助医療で生まれているといえます。
生殖補助医療分野で活用する顕微鏡の開発などを手がけるニコンは2024年7月4日にセミナーを開催し、日本臨床エンブリオロジスト学会理事長で胚培養士の家田祥子さん(みなとみらい夢クリニック培養室長)が登壇しました。
家田さんの職業である胚培養士とは、卵子と精子を受精させ、胚を子宮に移すまでの生殖補助医療などに携わる専門職です。
家田祥子さん(ニコン提供)
セミナーで家田さんは胚培養士の質について、「胚培養士が誰でも同じレベルの技術を患者に提供できることがベストだが、個人や施設によって技術格差があるのが現状だ」と問題視しました。その上で、技術格差が生まれている原因の一つとして、「胚培養士が国家資格として認められていない」と指摘。胚培養士は日本臨床エンブリオロジスト学会と日本卵子学会による認定資格がありますが、学会認定資格の取得は胚培養士としての勤務の必須条件ではないことから「(胚培養士の質を担保するために)国家資格化が必要だ」と強調しました。
家田さんはまた、「胚培養士は東京や大阪などの都心に集中しており、地方では不足している」と課題をあげ、国家資格化などにより不妊治療を行う医療機関で胚培養士の配置が必須要件になれば、地域格差の是正にもつながるとの考えを示しました。
顕微鏡で観察しながら精子を直接卵子に注入する顕微授精では、顕微鏡の操作が複雑なために、特に経験の少ない胚培養士では負担になっていることがあるといいます。家田さんは、胚培養士の国家資格化には時間がかかることを踏まえ、「使いやすく簡便に操作できる顕微鏡を使用することが必ずしも胚培養士の技術格差縮小や顕微授精成績の安定につながるわけではない」としつつ、「高機能な顕微鏡が胚培養士の技術をカバーする面もある」と発言。顕微鏡による顕微授精成績への貢献に期待を寄せました。
どこに住んでいても、どの施設でも、同じレベルの治療が受けられることはどんな医療分野でもとても大切なことですよね。質の高い医療専門職の育成や医療機器などの発展によって、妊娠を希望するより多くのカップルの選択肢が広がることが望まれます。(QLife編集部)
1)日本産科婦人科学会:ARTデータブック (2021年) 2)厚生労働省:令和3年 (2021)人口動態統計 (確定数)の概況(2024年7月11日閲覧) [https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/jinkou/kakutei21/dl/15_all.pdf]
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