保険適用から5年、CAR-T細胞療法の課題とこれから
QLife / 2025年1月7日 17時0分
患者視点での課題は「実施施設の少なさ」と「価格」
白血病や悪性リンパ腫、多発性骨髄腫など血液のがんに対して、「治療が困難」「根治しづらい病気」といったイメージを持っている方もいるのではないでしょうか。実際には、抗がん剤による化学療法や造血幹細胞移植のほか、がん細胞が発現しているたんぱくを特異的に抑える分子標的薬、免疫を活性化してがんを抑え込む免疫療法など、治療薬・治療法の進歩により、治療成績も改善してきています。
なかでも免疫療法の一種であるCAR-T細胞療法は、2019年5月に再発・難治性の急性リンパ性白血病に対して保険適用が承認された比較的新しい治療法です。保険適用から5年が経過したことを受け、製薬企業のブリストル・マイヤーズ スクイブは2024年12月16日にメディアラウンドテーブルを開催。このなかで講演を行った全国がん患者団体連合会理事長の天野慎介さんは、「CAR-T細胞療法は新たな革新的治療。やっとこの日が来たかという思いだった」と承認当時を振り返りました。
CAR-T細胞療法は免疫療法の一種で、患者自身のリンパ球を取り出し、遺伝子導入技術を用いてCAR-T細胞を製造・調整し、患者の体内に戻す治療法です。患者のT細胞を改変し、腫瘍細胞の表面に存在するタンパク質を認識して結合できるようにすることで、腫瘍細胞を攻撃できるようになるほか、CAR-T細胞は患者の体内で増殖し、効果を発揮するとされています。
天野さんは自身が会長を務める患者会に所属している患者の例を紹介しながら、「他の治療法が効かず余命宣告を受けた患者さんがCAR-T細胞療法の治験に参加し、8年再発していない例もある。治療法が劇的な進化を遂げていると感じており、患者会のなかでも関心、期待が高い」と述べました。
天野慎介さん(ブリストル・マイヤーズ スクイブ提供)
一方で、課題も残っていると天野さんは指摘します。1つ目は治療を行える施設が限られていることです。「最初の頃に比べればだいぶ増えている印象だが、住んでいる都道府県にCAR-T細胞療法の実施施設がなく、遠くの医療機関を受診しなければならないケースはまだまだある。医療機関同士の連携によってより多くの患者さんが治療を受けられるようになってきてはいるものの、現状では、限られた施設で行う治療と言える」と強調しました。2つ目の課題は、価格です。食事療養費や差額ベッド代を除いた平均的な医療費は2泊3日で44万円とされています1)。天野さんは「算定薬価3000万円を超える治療がこの価格で受けられるのは国民皆保険の日本ならではであり、ありがたい」としつつ、「今後、適用が広がる、あるいは技術が進歩することにより、多くの患者さんが利用できる価格になることを患者の1人として期待している」と話しました。
5年間で大幅に進んだ副作用対策メディアラウンドテーブルでは、豊嶋崇徳先生(北海道大学大学院血液内科)も登壇し、CAR-T細胞療法における5年間の大きな変化として、副作用への対応を挙げました。「最初の頃は常にICUのスタンバイが必要なくらい、強い副作用が出ていた」と豊嶋先生は言います。しかし、医療者が経験を積むなかで副作用の種類や出るタイミングを熟知したことで事前に対応ができるようになったとし、「今はICUでの治療が必要な患者さんはほとんどおらず、治療が一般化してきた」と強調しました。
豊嶋崇徳先生(ブリストル・マイヤーズ スクイブ提供)
一方、依然として残っている課題として「すべての人にCAR-T細胞療法が効くわけではない」ことを指摘。ただし、これについても「以前は、最後の手段としてCAR-T細胞療法が用いられていたが、それより前の段階で使用することで治療成績が良くなることが分かってきている。また、合成生物学は日進月歩で、技術革新が進んでいる。より早い段階での実施、合成生物学の進歩の2つにより、治療成績は高まると考えられる」と期待を寄せました。(QLife編集部)
1)日本造血・免疫細胞療法学会:6-2.実際にかかる平均的な費用と概要.(2024年12月24日閲覧)https://www.jstct.or.jp/modules/cart_t/index.php?content_id=35
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