天皇は日本の最高神官                        外交評論家  加瀬英明

クオリティ埼玉 / 2014年6月14日 1時20分

 エリザベス女王はイギリス国教会であり、イギリスの国教であるアングリカン・チャーチの法王の地位にある。
 だが、エリザベス女王は宗教行事が行われるときには、ウエストミンスター大寺院に臨席しても、カンタベリー大僧正が祭壇で祭祀を行い、他の信徒と一緒に祭壇へ向かって額づいている。自身で神事を執り行わない。
 日本の皇帝との大きな違いは、日本では天皇が親しく神事を行うことである。天皇はそれをしなければ、天皇ではないということが二つある。日本の最高神官として、祭祀を司ることと、歌の伝統を継ぐことである。
 国会の開院式に臨席される、国賓を迎える、法律に署名されるようなことは、明治以後に定められたことである。神事と歌の伝統を継いでゆかれるのが、天皇の存在理由である。
 イギリスをはじめヨーロッパでは、王立バレー団とか、王立オーケストラなど、王室が文化事業を支えている。しかし、日本のように、伝統芸術の演者であることはない。
 天皇は年間を通じて10回以上、宮中三殿で親しく祭りを執り行われる。超近代大都市である東京の真ん中に、緑の小島のように皇居が浮かんでいる。
 その中心に、宮中三殿がある。北から三つの神殿が、全国の神々を祭る神殿、天照大御神を祭る賢所、歴代の天皇の御霊を祭る皇霊殿の順で、並んでいる。
 新しい年に改まると、天皇が最初に執り行われる祭りが、「四方拝」である。宮中三殿の境内の新嘉殿の前庭で、野外で行われる。前庭に白い砂が敷かれ、まわりに庭燎が焚かれる。
 天皇は四時過ぎに起床されて、潔斎を済まされると、平安朝から伝わる黄土色の黄櫨染御袍という束帯を召され、御立纓と呼ばれる黒い冠をかぶられて、5時半に神嘉殿の前庭に出御される。
 前庭に真薦(まこも)が北東から南西へ4枚ずつ、2列にならべて敷かれる。カスミグサとも呼ばれるが、沼地に群生する真菰を織ったゴサである。そのうえに、金襴の縁取りがある畳の薄縁が1枚、東北から南西にそって斜めに置かれる。さらにそのうえに、天皇の御拝座となる三尺四万の厚帖と呼ばれる畳が、しつらえられる。御帷となる六面の純白の屏風が二双、薄帖にそって両側に並べられる。
 御帷は伊勢の皇大神官の方向である南西と、天皇が出入りするために、北東があけられる。
 天皇が午前五時半に庭燎に照らされて、神嘉殿から前庭に出御される。御草鞋と呼ばれる御沓を脱がれて、屏風のなかへ進まれ、御拝座にお上がりになる。
 御袍の長い裾を持つ侍従もなかに入り、ずっと平伏している。南西の開いた口の両側にも、天皇に仕える神官である掌典が一人ずつ、もう一方の口には、衣冠束帯の侍従が一人ずつ、終わるまで顔を上げずに平伏している。
 天皇はまず伊勢神宮の方角へ向かって、両段再拝―立って拝礼をされ、座って拝礼をされ、その所作を2回繰り返される。そして右へ廻られて、北西の方角に対して両段再拝され、北東、南東の順で同じことを繰り返される。
 四方拝は日の出前に、終えなければならない。新年に当たって全国の天神地祇に、日本の安寧と世界の平和を祈られる祭祀である。平安時代に催された四方拝の絵が残っているが、壮麗なものだ。
(7章 神事と歌を継ぐ天皇)

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