もうロケッツなんて嫌いなんて、言わないよ絶対【大柴壮平コラム vol.2】
NBA Rakuten / 2019年10月11日 14時47分
10月8日、10日に行なわれた「NBA JAPAN GAMES 2019」。ダブドリ編集長は、どのような視点で16年ぶりのイベントを見ていたのか―ー
勝手に難癖をつけていたハーデンが、練習で見せた意外な姿
私はロケッツが嫌いである。
第一に、応援しているメンフィス・グリズリーズと同じサウスウェスト・ディヴィジョンのライバルという時点で敵視している。第二に、試合を面白いと思ったことがない。いつもジェームズ・ハーデンがトップから何やらゴチャゴチャやっているイメージだからだ。第三に、むやみやたらにスター選手を獲ってくるのも気に食わない。同じ強豪でも、グレッグ・ポポヴィッチのスタイルに合う選手を的確に補強するサンアントニオ・スパーズとは大違いだ。
おまけにエースのハーデンは神経質な印象がある。新しく加入したラッセル・ウェストブルックは子どもっぽい。私は性格面でも勝手に難癖をつけていた。実際、試合に先駆けて公開練習と囲み取材に行ったが、二人の印象は当たらずとも遠からずといったところ。ハーデンは努めて優等生的な回答をしようと試みていたが、「日本で試合できることに興奮している」と言っている時も目が笑っていなかった。ボロを出してはいけないと思っているようだった。ウェストブルックは質問を聞いている間、ずっと天井を見上げながら目を左右に泳がせていた。明らかに集中していなかった。しかし、自分の冗句がウケたときはご満悦で、いつまでも笑っていた。
ただし、練習中のハーデンは予想外だった。ロケッツは新チームになりまだ成熟していないようだったが、ミスが起こる度にハーデンが真っ先に声を出していた。システムに慣れる段階のウェストブルックにもしっかりと指示を飛ばしていた。マイペースなイメージと違い、ちゃんとリーダーとしての自覚を持っている様子だった。私は感心しかけたが、心の中で静かに首を横に振った。あぶないあぶない、なにせ相手は仇敵である。そんなに簡単に見直すわけにはいかない。
2万348人の大歓声が、ウェストブルックの心に火をつけた
迎えたゲームデイ、さいたまスーパーアリーナには2万348人の観衆が詰めかけた。MC MAMUSHIの煽り、三木谷社長の挨拶、選手入場、その全てに割れんばかりの歓声が響く。バスケの試合にこれだけのエネルギーが生まれることがあるのか、と普段は鈍感な私ですら感動で鳥肌が立った。観客席にいたアダム・シルバー・コミッショナーも、さだめしご満悦だったろう。
試合開始前、突然歓声が上がる。よく見たらウェストブルックが客席を煽っていた。スイッチが入ったな、と私は思った。ここ2日間の練習で見たウェストブルックは外見こそ彼そのものなのだが、まるで偽物のように感じられた。練習ですら猛獣のようにアタックし続ける姿を想像していたが、プレシーズンだからかプレイコールを覚えている最中だからか、妙に静かな印象だった。2万348人の大歓声が、そんなウェストブルックの心に火をつけた。あの猛々しく荒々しい魂と全身バネのような体が揃って、初めてウェストブルックである。これは期待できる、と私は思った。
試合はサージ・イバカのターンラウンドシュートで幕を開けた。ロケッツ最初の得点は、ウェストブルックのアシストからハーデンのスリーポイントだった。5人全員を有機的に動かして得点しようとするラプターズに対し、ロケッツはハーデンとウェストブルックの個人技でまずズレを作ろうとする。つまらないバスケだ、と私が忌み嫌っていたバスケである。
ハーデン、ウェストブルック共にボール保持率が高い選手だけに、メディアからは「ボールは1つしかない」と揶揄されていた。しかし、思ったよりハーデンがハンドルする時間が長く、ウェストブルックの時間は短い。ウェストブルックもオンボールのときはドライブしてズレを作るが、以前のようなプルアップシュートを打たずスリーポイントラインに構える選手にキックアウトしている。さらにはハーデンが運んでくる時に大人しくコーナーで待機するシーンまであった。あの頑ななウェストブルックがアジャストしようと努力している。この日はスリーポイントこそ入らなかったが、課題のフリースローは5本中4本決めていた。今後スリーポイントの調子を戻して、ロケッツのシステムに適応したら恐ろしい。
ハーデンのステップバックスリーで、さいたまスーパーアリーナが爆発
問題なのはハーデンである。トップでだらだらドリブルをついていたかと思ったらステップバックスリー。クリント・カペラとのピック&ロールは相手に上手くスペースを潰されているのに針の穴を通すようなパスでアシスト。適当に放り投げたようなフローター気味のシュートも全て入る。おまけにディフェンスの対応がしっかり見えているので、フリーになったコーナーの選手を見逃さずにパスを出せる。
嫌いなはずなのに、気づいたらハーデンから目が離せなくなっていた。
極め付けは第1クオーターの終わりだった。まずはスクリーンを使ってスモールフォワードのパトリック・マコーからパワーフォワードのクリス・ブーシェイにスイッチさせると、ドライブと見せかけてからリトリート。センターサークル寄りのNBAロゴの辺りまで戻っていった。ブーシェイの前でバックビハンドなどのハンドル技術を披露しつつ、残りの時間を削るハーデン。客席が期待感に包まれる中、じりじりと間合いを詰めていく。ショットクロック残り4秒、ハーデンは得意のステップバックスリーを見事に沈めた。さいたまスーパーアリーナが爆発した。
以前、平昌五輪でフィギアスケートを取材した『ウォール・ストリート・ジャーナル』のベン・コーエン記者が、「自分にはフィギアの知識は無いが、どんな素人が見ても羽生結弦が最高のスケーターなのが一目瞭然だった」と言っていた。ジャパンゲームズのジェームズ・ハーデンも同じだった。試合は彼を中心に回っていた。残りの試合、私はまるでロケッツファンかのようにハーデンのプレイに釘付けになっていた。ハーデンがベンチから出てくる度に興奮した。
プレシーズンなので、途中からは両チーム共に主力を下げた。第4クオーター残り5分を切ったところで、とうとう名前を聞いたこともない選手だらけになった。しかし接戦になったことも幸いしたのだろう、大半の観客はそのまま無名の若手に声援を送っていた。試合は134対129でラプターズが勝利した。
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この原稿を書いている時点で、実はまだ第2戦は始まっていない。しかし、すでに16年ぶりのジャパンゲームズは大成功だったと私は確信している。物販の長蛇の列、間延びしてしまったファンナイトなど、もちろん課題は残る。今回はプレシーズンだったが、シーズンの試合を日本で観たいという希望もあるだろう。とは言え、これはジャパンゲームズ復活の一歩目である。コンスタントに開催が続けば、課題はやがて改善されていくだろう。
さいたまスーパーアリーナを埋めたファンの熱狂が、アダム・シルバー・コミッショナーや三木谷社長の心を揺さぶり、来年以降も短いスパンでジャパンゲームズが開催されることを切に願っている。なにせ頑固者の私すらロケッツに、そしてハーデンに熱狂したのだ。生観戦がファンに与えた感動は推して知るべしである。
大柴壮平:ロングインタビュー中心のバスケ本シリーズ『ダブドリ』の編集長。『ダブドリ』にアリーナ周りのディープスポットを探すコラム『ダブドリ探検隊』を連載する他、『スポーツナビ』や『FLY MAGAZINE』でも執筆している。YouTube『Basketball Diner』、ポッドキャスト『Mark Tonight NTR』に出演中。Twitter:@SOHEIOSHIBA
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