NBAプレイヤーとして順調なスタートを切った八村塁【杉浦大介コラム vol.2】
NBA Rakuten / 2019年10月12日 11時0分
八村塁がプレシーズン戦で先発出場を果たした。サマーリーグ、ワールドカップを経て、さらに成長を遂げた日本の至宝は、開幕後もスターターの座をキープできるだろうか
“消えている時間帯”がほとんどなくなる
「僕はいろんなところで活躍できる選手だと思っています。オフェンスでも、ディフェンスでも、リバウンドのところでも、そういう風に活躍できるっていうところを見せられて、よかったんじゃないかなと思います」
10月9日、本拠地キャピタルワン・アリーナで行なわれたプレシーズン2戦目を終え、八村塁(ワシントン・ウィザーズ)の言葉には自信と落ち着きが感じられた。
この日は中国リーグの広州ロングライオンズを相手に前半だけプレイし、11得点、7リバウンド、1ブロック。最初3本のFGを外し、ショット自体は不調に見えたが、それでも慌てずに貢献の術を見つけたことは評価できる。7リバウンド中4本はオフェンシブ・リバウンド。第1クォーター残り約4分20秒のところでは、豪快なティップダンクでハイライトも演出した。
これでプレシーズン初戦だった10月7日のニックス戦に続き、2試合連続で二桁得点をマーク。数字を残しているだけでなく、スクリーン、積極的なブロックのアテンプトなど、数字に残らない貢献を地道に果たしているのも大きい。サマーリーグで目に付いた“消えている時間帯”は、ほとんどなくなった。
「NBAのプレイのペースに慣れてきている。正直、サマーリーグでプレイした時とは違う。FIBAワールドカップも戦い、自分への自信を増している」
アメリカメディアの質問に答えた際のそんな言葉は、正直な思いの吐露だったろう。ワールドカップ、トレーニングキャンプを通じてハイレベルの舞台で経験を積み、さらに逞しくなった。キャンプでの集中した練習のおかげでウィザーズの戦術にも慣れ、今ではより快適にプレイしている印象がある。
再建は外国人ルーキーである八村にとって悪くない状況
すでに散々伝えられていることだが、今季のウィザーズは上位進出が狙えるチームではない。1月にアキレス腱断裂の大ケガを負ったエースのジョン・ウォールは今季中の復帰が絶望的で、オフの大型補強もなかった。八村のドラフト指名以外で目立った動きは、CJ・マイルズ、イシュ・スミス、アイザイア・トーマスといったベテランを獲得したくらい。キャンプ突入時点でスターター確実なのがブラッドリー・ビール、トーマス・ブライアントだけという厳しい状況で、しばらくは我慢の時間を余儀なくされそうだ。
今後、長期的視野で勝てるチームを作るために、“再建の日々”が始まる。今季の目標は八村、トロイ・ブラウンJr.といった有望株の成長を見守り、同時にベテラン、中堅の中からチームのビジョンに適した選手を見極めること。即座に勝利という結果を出さなければいけないというプレッシャーはなく、このような状況は、外国人ルーキーである八村にとってはやり難いものではないはずだ。
「チームの雰囲気もいい感じですね。新しいチームで入ってきたんですけど、みんなだんだん慣れてきたんじゃないかな」
メディアとのやりとりではストイックな返答が多い八村だが、広州戦後、チームの明るさについて聞かれた際にはそう語って思わず相好を崩した。そうは言っても、ひたすらゆるい空気の中でやっているわけではない。前日の練習時、リーダーのビールがチーム全体に奮起を促すシーンがあったという。
「それだけ真剣にやっているということ。チームメイトもスタッフも全員、人生かけてやっている。そういうところで、チームが引き締まってなかったところをブラッド(ビール)が引き締めたという感じじゃないかなと思います」
同じ年代の選手が多いチーム内で切磋琢磨し、少しずつ学んでいくことが許されている。それと同時に、道標になってくれるベテランも周囲に存在する。ドラフト時から言われていたことだが、現在のウィザーズはやはり八村がポテンシャルを開花させるには適した環境に思えてくる。
今後の大きな見どころは、好調なスタートを切った八村がこのまま開幕スターターの座を確保するかだろう。プレシーズン最初の2戦はどちらも先発し、周囲を納得させるだけの結果を出した。9日の試合後、ブルックスHCのこんな言葉を聞いても、八村を早くから重用する方向に傾いているようではある。
「(八村を)今後も先発で使っていくと決断したわけではないが、現時点で彼はプレイ時間を勝ち取っている。プレシーズン戦があと3戦あって、そのすべてでプレイさせるかはわからない。ただ、今の彼はとても良いプレイをしている」
サマーリーグの時点では、地元メディアの論調は“八村にじっくりと経験を積ませるべき”というものが多かった。ここまでのプレイを見て、それが変わってきているような印象もある。このまま結果を出し続ければ、先発でも、ベンチ登場でも、駒不足のチーム内で開幕直後から主力級の扱いを受ける可能性は高いのだろう。
「塁はとても堅実で落ち着いている。(NBAで)長い間、プレイする選手になるだろう。私はみんなが退屈するほど同じことを言い続けているが、彼の練習への姿勢、アプローチ、態度が大好きなんだ。多くの若手選手にはない勝者の気質を持っている」
もはやリップサービスには思えないブルックスHCの絶賛が示す通り、八村がNBAプレイヤーとしてまずは順調なスタートを切ったことは間違いない。そして、開幕まであと2週間弱――。このまま着実に前へ進み、心身のコンディションをキープしていって欲しいところ。それさえできれば、日本が生んだ大器が短期間でもっと伸びやかに成長していくことだって、不可能ではないはずだ。
杉浦大介:ニューヨーク在住のフリーライター。NBA、MLB、ボクシングなどアメリカのスポーツの取材・執筆を行なっている。『DUNK SHOOT』、『SLUGGER』など各種専門誌や『NBA JAPAN』、『日本経済新聞・電子版』といったウェブメディアなどに寄稿している。Twitter:@daisukesugiura
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