NBA版穴馬予想のススメ【大柴壮平コラム vol.5】
NBA Rakuten / 2019年11月1日 19時0分
競馬に見る穴場予想のやり方
私は以前、競馬に熱中していたことがある。「社会人たる者、スポーツ新聞の話ぐらいわからなければダメだ」という先輩のありがたい教えで始めた。最初はG1レースと呼ばれる大きいレースのみに賭けていたが、射幸心をあおられて次第に賭け金と賭けるレースの数が増えていった。私は生来臆病なので生活費を投入するようなことはしなかった。しかし、ギャンブルで身を持ち崩す人がいるというのは理解できるようになった。私は競馬の魅力に敬意を表して、子どもができたのを機にやめた。
競馬で儲けるには、世間の予想の裏をかかねばならない。人気がないのに走る馬、いわゆる穴馬を探すことが重要になってくる。血統、実績、騎手など様々な要素を総合的に検討すると、どうしても人気の馬に行き着く。そこで穴狙いの予想屋は、あえて要素を絞って馬券を考える。例えば「毎年このレースにはこの血統が来るから買うべきだ」と言って不人気馬を勧める。大抵外れるが、たまに当たることもあるから厄介だ。一度恩恵に浴せば、その予想屋のファンになる。かくして穴狙いの予想屋は、年中法螺を吹きながら生計を立てている。
NBAを予想するのも、競馬のそれと大差ない。さまざまな要素を考慮すれば、手堅い予想になる。しかし、穴馬ならぬ穴チームを予想するならば、要素を絞ればいい。あえて偏った見方をするのが肝心である。では、どの要素に重きを置くべきか。問題はそこである。
効率の良いオフェンスをするにはハンドラーが重要
NBAを予想するのに、必要な要素を考えてみる。ヘッドコーチ、軸となるスター、選手層、スリーポイントの数、リバウンド力など、挙げればキリがない。無数にある要素の中で、現代NBAに一番必要なものはなんだろうか。
現在のNBAでは、ほとんどのチームが点数の高いスリーポイントと、確率が高くフリースローをもらいやすい制限エリア内でのシュートを増やすことで得点効率を上げようとしている。手順としては、まずスリーポイントを増やしてフロアを拡げる。それによりインサイドにスペースができるので、ドライブなりダイブしてゴール下を高確率で決める。これがセオリーだ。
これを踏まえて私が今シーズンの穴馬予想に採用したのは、ハンドラーの数である。スリーを打ちたいならシューターを増やせばいい。そんな声も聞こえてきそうだが、話はそんなに単純ではない。いくらシューターを揃えても、シュートを打つにいたらなければ無用の長物である。スリーを打たせたい。それもできるだけオープンで打たせたいとなれば、プレイメイカーが必要になってくる。
ハンドラーの質とせず数としたのには、理由がある。質を求めると際限が無い。ドリブルから確率の高いスリーが打てて、ドライブやピック・アンド・ロールからプレイメイクもできる凄腕のハンドラーはリーグ全体を見ても稀である。仮にそういったレベルの高いハンドラーがいるかどうかでシーズンの勝率が決まるなら、穴馬探しなど無駄だろう。
そこで今回は、ピック・アンド・ロールからプレイメイクできることを最低限の基準とした。ハンドラーが多ければ、試合の流れでボールがどのように動いてもプレイメイクできる。少なくともピック・アンド・ロールはできる。そうすれば自ずとスリーポイントとゴール下が増えるだろう、という算段だ。
猛牛たちが混戦の東をさらにかき回す
穴馬を探すなら、上位陣が堅いウエストより不安定なチームの多いイーストを探す方が賢明だろう。ESPNでは、デトロイト・ピストンズ、アトランタ・ホークス、シカゴ・ブルズ、ワシントン・ウィザーズ、ニューヨーク・ニックス、シャーロット・ホーネッツ、クリーブランド・キャバリアーズが40勝未到達と予想されている。
この中から私が穴馬に指名するのはブルズだ。開幕ベンチ入り13選手のうちガードが7人登録されているが、全員ポイントガードの経験がある。さらに、ローテーションの最後に追いやられているのが最もシューター寄りのデンゼル・バレンタインだから徹底している。
中でも主軸になるのがトーマス・サトランスキー、ザック・ラビーン、クリス・ダン、コービー・ホワイトの4人である。海の物とも山の物ともつかない新人ホワイトを除く3人は、NBAのトップチームでメインハンドラーを任せられるほどの技量は持っていない。サトランスキーはウィザーズ在籍時にで負傷したジョン・ウォールの代わりを務めたが、チームをプレイオフに導くほどの活躍はできなかった。ラビーンはミネスタ・ティンバーウルブズでポイントガードに挑戦していた時が、キャリアで最も苦しんでいた。ダンもウルブズ、ブルズでメインハンドラーを務めたものの、チームを勝たせるには至らなかった。
しかし、彼らは決して悪いプレイヤーではない。サトランスキーはサイズの活かし方を知っている。ラビーンは身体能力とシュート力を併せ持っており、素材ならオールスター級である。ダンはサトランスキーとは逆に自分の活かし方を知らない節はあるが、時折ポテンシャルを感じさせるスケールの大きなプレイをする。一人のメインハンドラーにボールを任せる時代は終わりつつある。彼らのような選手が同時にコートに立つことでお互いの長所を引き出せるとしたら、マルチハンドラー時代の寵児として今シーズンのイーストをかき回すことになるかも知れない。
ちなみにルーキーのホワイトはまだベンチスタートだが、早くも才能の片鱗を見せている。シーズン途中でサトランスキーから先発の座を奪えるぐらいの活躍を期待したい。フロントコートもラウリ・マルカネン、ウェンデル・カーターJr.といった伸び盛りの若手をサディアス・ヤングやオットー・ポーターJr.といったベテランが支える布陣になっており、バランスがいい。激走する準備は整っていると見る。
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穴馬予想には要素を絞る必要があると言った。ハンドラー以外の要素を見れば、ブルズには欠点が多い。とりわけディフェンス面は厳しい。エースとして育てたいマルカネンがディフェンスを苦手としているのは問題である。しかし、ブルズにとっては幸いなことに、世はオフェンス全盛の時代に入った。若き猛牛たちが展開する素晴らしいオフェンスが、百難を隠してしまうかも知れない。当たるも八卦、当たらぬも八卦の競馬方式による予想だが、果たして来年の5月は穴馬の激走を見ながら快哉を叫ぶことができるだろうか。
大柴壮平:ロングインタビュー中心のバスケ本シリーズ『ダブドリ』の編集長。
『ダブドリ』にアリーナ周りのディープスポットを探すコラム『ダブドリ探検隊』を連載する他、『スポーツナビ』や『FLY MAGAZINE』でも執筆している。YouTube『Basketball Diner』、ポッドキャスト『Mark Tonight NTR』に出演中。Twitter:@SOHEIOSHIBA
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