“So far, so good(ここまでは順調)”。早くも結果を出している八村塁【杉浦大介コラム vol.4】
NBA Rakuten / 2019年11月2日 9時0分
ついにホーム開幕戦を迎えたワシントン・ウィザーズの八村塁。人気選手らに勝るとも劣らない声援を浴びる21歳のルーキーには、明るい未来が広がっていそうだ
早くもコート内外で存在感を発揮する八村
現地10月30日、ヒューストン・ロケッツと対戦したホーム開幕戦開始前のこと。ワシントン・ウィザーズの八村塁はマイクを手に取り、日本語でファンに向かって挨拶した。
「みなさん、こんにちは。八村塁です。日本人がいっぱいいるってことが僕も嬉しいです。今シーズンもすごい良くなると思うので、みなさん応援よろしくお願いします!」
いわゆる“ホームホープナー”には、例外なくお祭りの雰囲気が漂うもの。エースのブラッドリー・ビールがスピーチするのは当然として、ルーキーの八村がファンへの挨拶に起用されたことからも、地元ではすでに主役級の期待を集めていることが伝わって来る。
スターター紹介の際にも、八村はビール、アイザイア・トーマスといった人気選手たちに匹敵するほどの歓声を浴びていた。肝心の試合でも、NBAキャリア4戦目にして自己最多の23得点をマーク。大乱戦となったゲームでウィザーズは惜しくも158-159で敗れたが、前戦まですべて外していた3ポイントシュートを3本も決め、5リバウンドも奪った八村のパフォーマンスは上々だった。
これで開幕から4試合連続で二桁得点。ジェームズ・ハーデン、ラッセル・ウェストブルックといったスーパースターたちに対しても物怖じしなかった。21歳の日本人ルーキーが、その存在感を様々な形でアピールしているのは間違いない。
「(地元開幕戦の雰囲気は)良かったですね。今、野球もいい感じで勝っていると思いますけど、こうやってスポーツ全体が盛り上がっている。僕もこれからバスケでDCを盛り上げていきたいです」
この日、MLBではワシントン・ナショナルズがワールドシリーズ第7戦に勝ち、劇的な形で創設51年目にして世界一の座に就いた。昨季にはNHLのキャピタルズが、今年10月にはWNBAのミスティクスが初優勝を遂げたのに続き、ワシントンDCのスポーツ界には確実に良い流れがきているように思える。
NBAのウィザーズも、この波に乗っていけるか。若手が多いチームの上位進出にはもう少し時間がかかるとしても、好スタートを切った八村が“ウィザーズ再建”のカギを握る一人であることはもう誰も否定できない。
「NBAの世界でやっていける」という手応え
開幕から1週間強の間、とてつもない数の日本メディアがウィザーズの取材に訪れた。23日、ダラスでのマーベリックスとの開幕戦では全15媒体、30人の記者が取材パスを受け取ったという(ゲーム当日の練習にはゲームの取材パスを受け取れなかった記者も来ていた)。ホーム開幕戦でのメディアの数は確認できなかったが、アウェーのゲームよりも多かったはずだ。
まだプロでの実績のない八村にとって、正直、やり易い環境ではないはず。それでも21歳のルーキーはそつなく立ち回り、日米両方のメディアに丁寧に対応してきた。そして、あどけなさを残しながらも、先輩を立てる聡明さを持った八村を、ウィザーズのチームメイトたちも総じて温かく見守っている印象がある。
「ルイは昨日のチームのハロウィン・パーティに来なかったから、今日はコスチュームを着てくることを命じられたんだよ!」
ホーム開幕戦の試合前、八村と仲の良いルーキーのジャスティン・ロビンソンがロッカールームで嬉しそうに騒いでいた。それを聞いた八村は半笑いを浮かべながらロビンソンのそばを通り過ぎ、何人かのチームメイトも遠巻きに笑顔。ザック生馬氏(ウィザーズ公式特派員)のツイートによると、この日の仮装はジョン・ウォールからの指示だったというが、こんなエピソードからも八村が同僚たちに可愛がられている様子が伝わって来る。
オン&オフコートの両面で、八村はNBA でも良いスタートを切ったと言ってよさそうだ。残念なのはチームが1勝3敗と負け越していることだが、いきなりウェスタン・カンファレンスの強豪とばかり対戦する厳しいスケジュールを考えれば、内容自体は決して悪いものではない。
「すごい悔しい負け方。良い試合だったんですけど、僕もオフェンス、リバウンドとか、ディフェンスのところでももうちょっとできることがあった」
ロケッツ戦後の八村のそんな言葉を聞いても、接戦を落とした悔しさとともに、このレベルでもやっていけるという手応えが確実に感じられた。
もちろんハイレベルのNBAでは好スタートを切っただけで成功が約束されるわけではなく、ドラフト1巡目指名選手なら今後も好成績を出し続けなければならない。八村が仲間たちから認めら始めているのも、プロとして早くも結果を出しているという基盤があればこそ。そういった意味で、ホーム開幕戦では、これまで決まっていなかった3ポイントシュートを決めたことも大きかった。
「(3ポイントシュートは)フリーになったら、タイミングが合えば打つ。あとは決めるか決めないかですけど、感覚的には良い感じなので、そこは気にはしていないですね」
この日の試合前、3ポイントシュートをまだ1本も決めていないことを尋ねると、そんな答えが返ってきた。言うだけに終わらず、実際にその日の試合では3本の3ポイントをしっかり成功させてみせた。このように課題を言葉通りに克服するたくましさがあるなら、今後にさらに大きな期待を寄せたくもなる。真摯な姿勢でプレイに臨み、結果を出し続ければ、先輩たちからはより大きなリスペクトが得られるようにもなる。
まだ4試合を終えたところだが、「So far, so good(ここまでは順調)」。スポーツ界でも上昇機運の“アメリカの首都”に、新たな光が見えてきている。ウィザーズと八村の行く手に、明るい未来が広がっていると感じ始めているのは、もう日本のファンだけではないはずである。
杉浦大介:ニューヨーク在住のフリーライター。NBA、MLB、ボクシングなどアメリカのスポーツの取材・執筆を行なっている。『DUNK SHOOT』、『SLUGGER』など各種専門誌や『NBA JAPAN』、『日本経済新聞・電子版』といったウェブメディアなどに寄稿している。Twitter:@daisukesugiura
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