チャンスを生かした元得点王。脇役として輝きを放つカーメロ・アンソニー【杉浦大介コラム vol.11】
NBA Rakuten / 2020年1月23日 18時30分
“ザ・ガーデン”で喝采を浴びたかつての英雄
2020年1月1日。ニューヨークで行われた今年初の試合で、最大の歓声を浴びたのはかつてのヒーロー、カーメロ・アンソニー(ポートランド・トレイルブレイザーズ)だった。今季開幕の時点で、そんなシナリオをいったい誰が想像できただろうか。
昨年11月、ブレイザーズの一員としてNBA復帰を果たしたカーメロは、以降、予想以上の働きでチームに貢献してきた。現地1月20日のゴールデンステイト・ウォリアーズ戦を終えた時点で、平均16.2得点、6.3リバウンドをマーク。特に今季6週目(11月25日~12月1日)には、平均22.3得点、7.7リバウンド、2.7アシストをマークし、35歳にしてウェスタン・カンファレンスの週間最優秀選手賞に輝いている。
そんなカーメロが、古巣で盛大なスタンディング・オベーションを浴びたのが、先述した元旦のゲームだった。オールスター選出10度というリーグ史に残るスコアラーの帰還に、普段は厳しいニューヨーカーも盛大な拍手を送ったのである。
「ファンの愛情が感じられた。会場のファン、そして街全体が、『帰ってきたんだ』という気持ちにさせてくれた」
2017年まで6シーズン半にわたり在籍したニックスを離れて以来、カーメロがマディソン・スクウェア・ガーデンでプレイするのはオクラホマシティ・サンダー時代に続いてこれが2度目だった。久々の“ザ・ガーデン”への登場で、この時点で今季最多の26得点をマーク。昨年11月中旬、クリスタプス・ポルジンギス(ダラス・マーベリックス)の凱旋試合の際には大ブーイングを浴びせ続けたニックスファンも、カーメロのことは大歓声で迎え入れた。
試合前の選手紹介時から始まり、ボールを持っても、得点をしても、ニューヨーカーの愛情表現は途切れることがない。チームは敗れたものの、カーメロも気持ち良さそうにコートでの時間を過ごしていたのが印象的だった
「感情を説明するのは難しいよ。これまでもずっと愛してもらっていたと感じている。何年も過ごしたアリーナで、愛情を感じられるのは良いものだった。ただバスケットボールがプレイしたかった。このコートに立てるのは特別なことだよ」
“誰からも必要とされない期間”を経験
ここに辿り着くまで、カーメロは厳しい時間も味わってきた。2017年のオフにニックスからサンダーにトレードされるも、新天地で大きな成果は挙げられなかった。昨季はヒューストン・ロケッツと契約したが、10試合に出場したのみで戦力外に。その後はなかなか所属先が見つからず、NBAキャリアはもう終わったかと思えた。
「(所属チームが決まらない間も)俺は常に自分を信じていた。自分を信じ続け、精神的に準備した。強くあり続け、やらなければいけないことをぼやるのがどれだけ難しいかを、人々は理解できないと思う」
ニューヨークでカーメロはそう述べていたが、他のインタビューでは“一時は復帰を諦めかけた”、“心が折れかけた”ことも認めている。これまで常にスター街道を歩んできた稀代のスコアラーにとって、“誰からも必要とされない期間”が辛いものだったことは、想像に難くない。
全盛期のカーメロは紛れもないスーパースターではあったが、突っ込みどころも少なくない選手ではあった。アイソレーションを執拗に好み、平均4アシスト以上のシーズンはゼロ。もともと周囲を巻き込むことが不得手だった上に、得意とするミッドレンジゲームは現代のNBAで非効率的とみなされるようになったのであれば、加齢とともに職場を見つけるのが難しくなったのは理解できる。サンダー時代には控えへの“降格”を笑い飛ばしたこともイメージ的にマイナス。そうした悪い流れの中で、NBAからフェイドアウトしても誰も驚きはしなかっただろう。
しかし、今季ブレイザーズでビッグマンのケガ人が続出したことが、カーメロ復帰への追い風となった。パウ・ガソルが退団し、ザック・コリンズ、ユセフ・ヌルキッチも長期離脱。フォワードの層が慢性的に薄くなった状況下で、辛抱強くコンディションを保っていたカーメロに白羽の矢が立ったのだ。
新境地を見出したベテラン・ロールプレイヤー
ついに戻ってきたNBAのビッグステージ。復帰後のカーメロは先述の通り、多くの人が予想した以上にハイレベルのプレイを続けている。3ポイント成功率(37.4%)は2014-15シーズン以降ではベスト。特筆すべきは、今のカーメロは自身の力と立ち位置を理解し、主軸とは言えない立場を受け入れているように見えることだ。
平均得点はデイミアン・リラード、CJ・マッカラムについでチーム3位。もうオールスターレベルの選手ではなくとも、エースの背後で得点力を供給するベテラン・ロールプレイヤーとして新境地を見出した感がある。しばらくプレイできず、自分を見つめ直した期間が、今のカーメロにプラスに働いている部分もあるのだろう。
「私は彼が“勝者”ということはわかっている。批判されることもあるが、彼は毎日ジムにきて練習する選手。毎日だ。休みは取らないし、可能な限り多くのゲームをプレイしてきた」
1月3日のウィザーズ対ブレイザーズ戦の前のこと。カーメロがNBA入りしたのと同じ2003年にナゲッツのアシスタントコーチとなった、ウィザーズのスコット・ブルックスHCはそう述べていた。
付き合いの長いカーメロを絶賛するブルックスHCの気持ちはわかるが、“勝者”という部分に同意しないファンも多いかもしれない。これまで多くの栄誉を手にしてきたカーメロだが、ファイナル進出の経験はなく、ニックス時代もチームを上位へ導けなかったからだ。
しかし、再びコートに立てる喜びを感じさせている今季は、そんな評価を多少なりとも変えるチャンスではある。ケガ人続出の影響もあって、ブレイザーズはウェスタン・カンファレンス10位と低迷中。それでもタレントは依然として豊富なだけに、今後への期待感は消えていない。リラード、マッカラムとともに、カーメロも後半戦でチームをプレイオフ圏内に引き上げる手助けができれば――。
「ブレイザーズが彼にチャンスを与えたことは大きい。(カーメロは)あと2~4年はしっかり活躍できる選手だと私は思っている」
今季がカーメロにとっての“お別れツアー”になると考えている関係者が少なくない中で、ブルックスHCは現役続行に太鼓判を押していた。恩師の言葉通り、帰ってきたスコアラーは来年以降もコートに立ち続けるのか。キャリアの終盤にきて、心身両面で成熟した姿を誇示できるのか。その答えはわからない。ただ、現時点でひとつだけはっきりしているのは、今では本当に多くのファンがカーメロの帰還を喜んでいて、まだまだ活躍してほしいと願っているということである。
杉浦大介:ニューヨーク在住のフリーライター。NBA、MLB、ボクシングなどアメリカのスポーツの取材・執筆を行なっている。『DUNK SHOOT』、『SLUGGER』など各種専門誌や『NBA JAPAN』、『日本経済新聞・電子版』といったウェブメディアなどに寄稿している。
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