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マンバメンタリティ――私の中のコービー・ブライアント【大柴壮平コラム vol.18】

NBA Rakuten / 2020年1月30日 10時31分



 


コービー・ブライアント(元ロサンゼルス・レイカーズ)の事故死から2日が経ったが、まだ哀しみを抜け出せずにいる。正直に言って、私は自分がここまで動揺するとは思っていなかった。コービーは毀誉褒貶の激しい人だった。特にキャリア序盤の自信過剰に映る言動は、熱狂的なファンと大勢のアンチを生み出した。私は、そんなアンチの一人だった。私のコービーへの感情は、「嫌い」から始まったのだ。

振り返ると、私のコービー嫌いのピークは彼がシャック(シャキール・オニール)と組んでスリーピートを達成した頃(2002年)だと思う。その後、嫌いという感情はだんだんと薄れていった。なぜならどんなに難癖をつけようと、コービーが自分の実力を証明し続けたからである。「あんなに自己中心的なプレイスタイルではチームを勝たせることなどできない」と思っていたのに、コービーはプロ入りからわずか4シーズンで頂点に立った。それでも「コービーが優勝できたのはシャックのおかげ」と強がっていたら、ご存知の通り、コービーは2009、10年とシャック抜きで連覇を達成した。

それからもコービーは、アキレス腱断裂の大怪我を負いながらフリースローを成功させたり、引退試合で60得点をあげたりと、伝説として語り継がれるだろう大仕事をやってのけた。特に引退試合の60点は奇跡のようにも感じられた。しかし、その頃にはコービーの自信は常人には真似できないようなハードワークに裏打ちされていることが知れわたっていたので、奇跡と一言で片付けるのはその価値を貶めるような気さえした。アンチだった私も、すっかりコービーに降参していた。諦めよう。コービーは常に批判の上を超えてくる……。

そのコービー・ブライアントの死に方がこれか。なんてコービーにふさわしくない死に方なんだ。アンチだった私がここまで落ち込む理由は、おそらくこれだろう。コービーはこれまで批判も、怪我も、スキャンダルだって乗り越えてきた。不屈の闘志と不断の努力があればなんだってできる。世界中のファンをそう勇気づけてきた。そのコービーの最期がこれでいいはずがない。その思いが拭えないのである。

コービーなら運行に支障の出たヘリコプターの中で、冷静であろうと努めただろう。パイロットや同乗者がパニックにならないように、落ち着かせようと試みただろう。いよいよ落下が始まった時、泣き叫ぶ愛娘ジアナの手を握っただろう。「パパがついてる、大丈夫だ」と呼び掛けただろう。そして心の中で、娘だけは助けてくれと神に祈っただろう――。

我々はコービーの闘志を、そして努力を知っている。娘のためならなんだってしただろうことを知っている。しかし、そのチャンスさえ与えられなかったコービーの無念を思い、私は泣いているのである。


コービーが亡くなった日、印象的だったことがある。デイミアン・リラード(ポートランド・トレイルブレイザーズ)、トレイ・ヤング(アトランタ・ホークス)といった選手たちが、辛い気持ちを抑えて試合に出場し、大活躍したのだ。彼らは、コービーなら試合に臨めと言うと思ったという。ファンの中にも、哀しいがコービーならサボるなと言うだろうから涙をこらえて仕事に行くとツイートする人たちがいた。

“マンバメンタリティ”とは最高の自分を目指すという意味だとコービーは言ったが、私はなんだか漠然としているなと思っていた。しかし、コービーに影響を受けた選手やファンの反応を見て、少し理解できた気がした。ふと迷った瞬間に、もしコービーだったらこうするだろうと思えること。これがマンバメンタリティなのではないだろうか。心の中で、常に最高の自分を目指した男と対話すれば、自然とやるべきことはわかってくるはずである。

私は長くアンチだったので、マンバメンタリティとは無縁である。ここ2日間、ただ泣いている。コービーの映像も、まだ見れない。しかし、いずれ哀しみが癒えたとき、このレジェンドのことをもう少し知ろうと思っている。いつか私も心の中でコービーと対話できるかも知れない。その道のりは遠いが、一方で今すぐできることもある。それは、これまで以上に家族に感謝し、大切にすることである。今回の事故では、人生の儚さを思い知らされた。その教訓を活かして、家族との時間を疎かにしないことが、父親としての志半ばで亡くなったコービーへの弔いになるのではないだろうか。そんな気がしているのである。

最後になりますが、コービー、ジアナ含む事故に遭われた9名の方たちのご冥福をお祈りしています。そして、残された遺族の方々が、この哀しみを乗り越えられる日が来ますように。


大柴壮平:ロングインタビュー中心のバスケ本シリーズ『ダブドリ』の編集長。『ダブドリ』にアリーナ周りのディープスポットを探すコラム『ダブドリ探検隊』を連載する他、『スポーツナビ』や『FLY MAGAZINE』でも執筆している。YouTube『Basketball Diner』、ポッドキャスト『Mark Tonight NTR』に出演中。




(C)2020 NBA Entertainment/Getty Images. All Rights Reserved.



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