ゴベアが笑い、ブッカーが泣いた。オールスターの選考基準あれこれ【大柴壮平コラム vol.19】
NBA Rakuten / 2020年2月6日 21時0分
「選考に一貫性がない」と批判した選手
オールスターのリザーブ枠が発表された。初選出を喜ぶ選手、惜しくも選に漏れて涙を呑む選手の様子が各メディアを賑わせている。そもそも、満場一致でオールスターに選ばれるようなスーパースターはそう多くない。当然ながら毎年当落線上の選手というものが存在するが、実力が近い選手が数人いた場合はどのように選ぶのだろうか。先日、ルー・ウィリアムズ(ロサンゼルス・クリッパーズ)がデビン・ブッカー(フェニックス・サンズ)を例に挙げ、「個人成績なのかチーム成績なのか知名度なのか、選考基準に一貫性が欲しい」という趣旨のツイートをして話題になった。
これは正鵠を射た意見である。個人成績を評価するか、勝利への貢献を重視するか、基準があるようでいて、実は無い。例えばジェイソン・テイタム(ボストン・セルティックス)やルディ・ゴベア(ユタ・ジャズ)は、強豪の主力を務めていることが評価されたのだろう。個人成績で優るブラッドリー・ビール(ワシントン・ウィザーズ)、カール・アンソニー・タウンズ(ミネソタ・ティンバーウルブズ)を抑えての選出となった。ところが、同じく今年リザーブ枠で選ばれたデイミアン・リラード(ポートランド・トレイルブレイザーズ)とブランドン・イングラム(ニューオーリンズ・ペリカンズ)は現在プレイオフ圏外のチームに所属している。選考に一貫性が無いというルーの批判は、一理ある。
実のところ、オールスターの選考基準に一貫性がないのは今に始まったことではない。今週のコラムでは、オールスタークラスの実力を持ちながらも一度もオールスターに選ばれなかった、“過去のブッカー”たちを紹介しようと思う。
オールスターに縁のなかった名選手たち
個人成績が優秀だったのに選ばれなかった選手たちの中では、ロッド・ストリックランド(元ポートランド・トレイルブレイザーズほか)とアンドレ・ミラー(元クリーブランド・キャバリアーズほか)の名前が目を引く。ストリックランドは1997-98シーズン、ミラーは2001-02シーズンのアシスト王である。実は1982-83シーズンのマジック・ジョンソン(元ロサンゼルス・レイカーズ)以来、この2人を除く全ての歴代アシスト王がオールスターゲームを経験しているのだ。2人が一度も球宴の舞台に立てなかったのは不運だったが、その代わり彼らは共に17シーズンという長い現役生活を送った。アシスト王を取るほどの高いバスケIQが彼らのキャリアを助けたのだろう。
逆にチームを勝利に導きながらもオールスターに選ばれなかった選手の筆頭には、マイク・ビビーがいる。ビビーは2001-02シーズンに61勝を挙げたサクラメント・キングスの正ポイントガードで、プレイオフではコービー・ブライアントとシャキール・オニール率いるロサンゼルス・レイカーズを敗退寸前に追い込む大活躍を見せた。この年のビビーはレギュラーシーズンでは平均13.7点だったが、プレイオフでは平均20.3点を記録。オールスターには縁が無かったものの、勝負強さはNBA史上でも指折りの名選手だった。
長年活躍を続けながら選ばれなかった選手もいる。モンテ・エリス(元ゴールデンステイト・ウォリアーズほか)は2009-10シーズンに平均25.5点、翌2010-11シーズンにも平均24.1点と素晴らしい成績を残している。ブッカー同様勝てないチームのエースだったからか、オールスターには選ばれなかった。さらに2013-14シーズンから2シーズンは当時強豪だったダラス・マーベリックスのスターターとして平均19.0点、18.9点と優秀な成績を残したが、それでもオールスターゲームは遠かった。エリスは全盛期を多士済々のウェストで過ごした。イーストでこの成績を残していれば、あるいは複数回オールスターに選出されていたかも知れない。
幻のオールスター選手たち
上記に挙げた不運にもオールスターに選ばれなかった選手の他に、オールスター出場が幻に終わった選手もいる。トニー・クーコッチ(元シカゴ・ブルズほか)は1998-99シーズンにキャリア最高の成績を残した。平均18.8点、7.0リバウンド、5.3アシストの活躍でマイケル・ジョーダン引退後のブルズを引っ張ったが、この年はロックアウトでシーズンが短縮されたためにオールスターゲームが中止となった。開催されていればオールスターに選ばれるチャンスはあっただろう。
ヨーロッパ史上最高のセンターとの呼び声も高いアルビダス・サボニス(元ポートランド・トレイルブレイザーズ)は、1988年のソウル五輪でソビエト連邦を優勝に導き、ドリームチーム結成のきっかけを作った選手である。実は1986年のドラフト1巡目24位でブレイザーズから指名されていたが、ソ連とアメリカの“冷戦”など諸般の事情によりNBAには行かず、キャリアの全盛期をヨーロッパで過ごした。NBAデビューを果たした1995年、サボニスはすでに30歳になっていた。アキレス腱断裂を筆頭に怪我に悩まされ続けてきた高齢のビッグマンに、当初は懐疑的な意見も多かったという。しかし、サボニスは6シーズン連続で平均2桁得点を記録。1997-98シーズンには平均16.0点、10.0リバウンドとシーズン平均ダブルダブルを達成した。ドラフト直後に渡米していたら、NBAの歴史が変わっていたかも知れない。
最後に紹介するのはドラゼン・ペトロビッチだ。ペトロビッチは、1991-92シーズンに平均20.6点を記録しニュージャージー・ネッツ史上初のプレイオフ進出に大きく貢献すると、翌1992-93シーズンには平均22.3点とさらに成績を伸ばし、オールスターゲーム出場まであと一歩に迫った。ところが、1993年のオフにドイツで交通事故に遭い、帰らぬ人となってしまう。享年28歳、キャリア全盛期に起きた悲劇だった。彼の背番号3番は、ネッツの永久欠番になっている。
紹介した選手以外にも、平均20点以上を3度記録したロン・ハーパー(元シカゴ・ブルズほか)、守備の名手マーカス・キャンビー(元ニューヨーク・ニックスほか)、グリズリーズ在籍時に6度チームをプレイオフに導いたマイク・コンリーJr.(ユタ・ジャズ)と、実力はありながらもオールスターに縁のなかった例は枚挙にいとまがない。落選の理由も人それぞれで、歴史を振り返ってみても選考基準に一貫性はないことがわかる。
ただ、私はオールスターの選考を批判しようとは思わない。ルーが言う通り、ブッカーはいかにもオールスターに値するだろう。数年にわたってオールスタークラスの活躍を続けているブッカーが落選し、今年ブレイクしたイングラムが入るのは不公平だとファンが言うのなら、私は首肯する。しかし、オールスターに限らず人の評価とはそもそも不公平なものだ。ブッカーのようにオールスターに縁のない選手はこれまでもにもいたし、きっとこれからも現れるだろう。
私は所詮そんなものだと思っているが、どうしても基準が必要だと言うのなら、実は一案ある。実力の近い者が複数人いる場合は、負けず嫌いを選ぶのだ。オールスターゲームでスター同士の意地の張り合いが見られなくなって久しい。和気藹々やる方が今の選手たちの性に合っているのかも知れないが、毎年大味な試合を見せられるファンは堪ったものではない。ラッセル・ウェストブルック(ヒューストン・ロケッツ)のような、オールスターだろうと全力でプレイする選手が増えれば増えるほど面白くなるはずである。
密かに私は今年、ゴベアに期待している。昨シーズン選ばれずにカメラの前で涙を流し、言葉を詰まらせていたが、今シーズンは念願を叶えた。それだけオールスターに強い思いがあるのなら、得意のブロックで片っ端からダンクを叩き落としてはくれまいか。彼に呼応して本気でディフェンスをする者が現れれば、少しは試合も締まることだろう。
大柴壮平:ロングインタビュー中心のバスケ本シリーズ『ダブドリ』の編集長。『ダブドリ』にアリーナ周りのディープスポットを探すコラム『ダブドリ探検隊』を連載する他、『スポーツナビ』や『FLY MAGAZINE』でも執筆している。YouTube『Basketball Diner』、ポッドキャスト『Mark Tonight NTR』に出演中。
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