NBAオールスター1997のロゴデザインに込めた思い。~ある日本人デザイナーの挑戦~
NBA Rakuten / 2020年2月14日 8時43分
1997年のNBAオールスターで採用されたロゴ制作に携わられた美澤修氏にインタビュー
少々気が早いかもしれないが、2年後のNBAオールスターはクリーブランドで開催される。この地に年に一度のお祭りがやって来るのは、1981年、1997年に続いて3度目。前回開催の97年大会では、新人のコービー・ブライアントがレッグスルーダンクでスラムダンク・コンテストを制し、マイケル・ジョーダンが球宴史上初のトリプルダブルを達成。さらにはリーグ発足50周年を祝して選出された「NBAの偉大な50人」のうち、49人が一堂に集結するなど、歴代のオールスターのなかでもメモリアルな年だった。
この時、コート上や会場となったガンド・アリーナ、さらには数多のグッズ、そしてクリーブランド市内を彩ったのが、オールスターのロゴである。このデザインに携わったのが、当時ニューヨークのデザイン事務所に在籍してた美澤修氏である。
――このロゴ制作に携われた当時の話をお聞かせください。
当時、ハビアー・ロメロ・デザイン・グループというニューヨークの事務所で働いていて、その事務所のいちデザイナーとしてこの案件に携わりました。事務所ではプロジェクトを社内コンペで割り振っていたのですが、その流れで僕が担当になりました。オフィスがニューヨークにあったということもあり、NBAだけでなくNFLやMTVなど、エンターテインメント系の案件が多かったです。正確には覚えてないんですけど、1995年とかたぶんその頃に作っていると思うんですよね、ロゴ自体は。
――美澤さんがおいくつの時ですか?
まだ25、6歳だったと。僕としても出世作みたいな感じですね。
――デザインのポイントについて教えていただけますか?
クリーブランドって鉄鋼の街なんです。なので中央の横に延びる棒の部分が鉄鋼になっています。当時、オールスターのロゴは、開催都市の特徴をまぶしていくというルールがあったので。あとクリーブランドはロック発祥の地なので、ギターとロックンロール・ホールオブフェイムが入っているんです。このように、すべてのエレメントがクリーブランドの何かしらになっているんです。そのほかにも、ロゴの下側のギザギザになっているところも、鉄鋼業のギアをイメージしていたりとか。
すべてのエレメントをクリーブランドの要素を使い活気ある雰囲気で仕上げる事で、開催地の方の誇りだったり愛着だったり熱量まで上がるようなロゴにしたいと思いました。もちろん開催都市の特徴を入れるというのがデザインの制約ではあったのですが、制約だから入れるのではなく、やはりそこで開催するということの素晴らしさを感じてもらえるよう、街の歴史や特徴をデザインで昇華したいと思いました。
――ちなみに、クリーブランドでオールスターはご覧になったのですか?
行きたかったんですけど、どうしても叶わずで。それでニューヨークのスポーツバーで飲んでいたら、オールスターの映像が流れたんです。バスケットはセンターサークルで試合が始まるじゃないですか。それを真俯瞰で捉えたシーンがあって。その時に見た、自分が作ったデザインのまわりにスーパースターたちが立っているという画がものすごく思い出に残っていますね。そのバーで、生まれて初めてめちゃくちゃサインしました(笑)。
――当時、マイケル・ジョーダンをはじめスター選手たちがこのロゴをつけてプレイしました。どんな気持ちでしたか?
センターコートに自分のデザインが描かれていたり、人生でこれ以上の露出された仕事はたぶんないですね。だから本当に感動的な思いがあって。それをさらにあのスーパースターたちが自分のデザインの上に立っている。試合に出る10人、全員あそこにいるじゃないですか。友達と「うおー!」ってなっていましたね。
あと、選手たちの足元にも及ばないながらも有名選手達と自分のデザインがリンクしたことで、自分のニューヨークでの苦労が報われたのと、デザイナーとしての自信と、覚悟が決まったのを覚えています。
美澤修
1968年生まれ。1989年渡米。School of Visual Arts(ニューヨーク)を卒業。JAVIOR ROMERO DESIGN GROUPに入社。BATES WORLDWID等を経てアートディレクターとしてニューヨークを拠点に活動。1998年帰国後、美澤修デザイン室設立。2008年よりomdr 株式会社(オーエムディーアール)をスタート。
コンセプト設計、ブランド開発、クリエイティブ全般のコンサルティングとコントロールにて、一貫したブランドコミュニケーションを得意とする。
NYADC、ブルーノグラフィックデザイン国際ビエンナーレ、CREATIVITY、red dot design、ARCHIVE、Graphis、Communication Artsなど海外での受賞・掲載多数のほか、東京ADC、TDC、JAGDA入選。
omdr株式会社 代表取締役兼、クリエイティブディレクター。
東京造形大学教授。株式会社オロ顧問。JAGDA会員。
「開催地の方の誇り、愛着、熱量まで上がるロゴにしたい」
スポーツグラフィックはトレンドに左右され過ぎないクラシックな分野
――今年はシカゴで行われるんですけど、ロゴはかなりシンプルなんです。
お祭り感がないね(笑)。
――今、各年のロゴを見ていただいていますが、それぞれのデザインに当時のトレンドは入っているんですか?
多少はあると思うんですけど、スポーツグラフィックは、広告デザインとかファッションと比べて、トレンドに左右され過ぎないとてもクラシックな分野だと思うんです。オリンピックとかになると先進性とかも必要になってくる思うんですけど、これらを見ると昔から世界観は変わらず、フェスティバル感を出しているのは良いなと思います。
――ファンのロイヤリティを高める上で、ロゴなどのクリエイティブは重要な部分を担うと思いますが、どのようにお考えですか?
もちろんです。クリエイティブが手伝えることはマークだけじゃなくて、コレクターズアイテムや、ツールなどがもっと素敵になればもっとファンも増えていくような気がしますね。そういうものがチームとファンが繋げたりするので。例えばそれで小学生とおじいちゃん、若い20代の女性とかが繋がったりするとか。楽天さんはNBAを配信されていますが、配信だけじゃなくさらにプラスアルファのことをやってもらいたいなと思っています。映像とファンを繋ぐコンテンツなんかがあるといいですね。
――もしまた機会があればやってみたい、と思われますか?
今僕の仕事を見ていただくと、全く真逆のことをしているんですけど(笑)、当時ハビアーのとこで学んだことや、できるようになったことは、今もチャンスがあればやってみたいです。スポーツグラフィックはそこまで大きいマーケットではなくて、例えばチームのロゴが変わるとか、そういうチャンスがあればやってみたいです。得意でもあるし、このテイストは今あっても古くはないなって思うんです。古き良きスポーツグラフィックは悪くないはずなので、トライしてみたいですね。この手のデザインは職人的なところもあるので、せっかくアメリカで仕事をしながら学んだひとつのスタイルですし、この国で仕事としてやったり、貢献できたりするのはすごくいいなって思います。
(C)2020 NBA Entertainment/Getty Images. All Rights Reserved.
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