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最も理不尽だったシャックの“再来”。常識を破り続けるザイオン・ウィリアムソン【大柴壮平コラム vol.23】

NBA Rakuten / 2020年3月10日 11時59分



唯一無二の存在になりつつあるザイオン・ウィリアムソン。驚異のルーキーに迫るとともに、チームの終盤戦を占う


NBAは時に理不尽である。どんなにいいチームを作っても、1人のスターにねじ伏せられることが多々あるからだ。これが「NBAはスターのリーグ」と言われる所以である。理不尽という表現で思い浮かぶのは、現在ならクラッチタイムにロゴ・スリーを沈めるデイミアン・リラード(ポートランド・トレイルブレイザーズ)、複雑なクロスオーバーからステップバックスリーを放つジェームズ・ハーデン(ヒューストン・ロケッツ)、トランジションでボールを持ったヤニス・アデトクンボ(ミルウォーキー・バックス)辺りだろう。しかし、私がこれまで見てきた中で最も理不尽だったのはリラードでもハーデンでもアデトクンボでもない。シャキール・オニール(元ロサンゼルス・レイカーズほか)である。

シングルで守れば押し込まれてダンクを決められる。ダブルチームに行けばオープンになったシューターにパスをさばかれる。バスケットボールという複雑なゲームをいたってシンプルに変えてしまうのが、シャックという存在だった。よくコービー・ブライアント(元レイカーズ)はマイケル・ジョーダン(元シカゴ・ブルズほか)と比較された。レブロン・ジェームズ(レイカーズ)はジョーダンよりマジック・ジョンソン(元レイカーズ)に近い、などと表現された。1人シャックだけは誰とも比べられなかった。唯一無二の存在だった。

ところが、シャックのデビューから28年、引退から9年の時を経て、ついにシャックと比較される選手が現れた。ザイオン・ウィリアムソン(ニューオーリンズ・ペリカンズ)である。米メディアでいくつかザイオンとシャックを比較する記事が出ているが、私のお気に入りは”The Ringer”のジョナサン・ジャークスが”Zion Williamson is the NBA closest thing to Modern-Day Shaq(ザイオン・ウィリアムソンは現代版シャックに最も近い存在)”という記事で書いた一節である。

「彼がNBAにアジャストしようとしているのではない。NBAが彼にアジャストしようとしているのだ」


ザイオンのプレイ自体は、シャックよりチャールズ・バークレー(元フィラデルフィア・76ersほか)に類似しているという声も多い。2人はともにPFとしてはアンダーサイズだが、スピード、パワー、ジャンプ力のコンビネーションでゴール下にアタックできる。ではなぜザイオンをシャックと比較する声が出ているのかと言うと、現在のNBAではスモールボールが流行しているからである。バークレーの時代よりも相手が小さいのだ。似ているのはバークレーかも知れないが、スモールボール版のシャックのような存在になれるのではないか、という論法である。

実際、ザイオンの個人成績は目を見張るものがある。特筆すべきは制限エリアでのシュート成功数である。本稿執筆時点で記録している平均8.3本はリーグ1位で、その下に続くアデトクンボ、ラッセル・ウェストブルック(ロケッツ)という名前を見ても、その凄さがわかる。

面白いのは、ザイオンがその制限エリアからの得点の多くをポストアップから生み出しているという事実である。ザイオンの1試合当たりのポストアップの数は7.9回で、リーグで7番目に多い。彼よりポストアップしている選手を挙げると、ジョエル・エンビード(76ers)、ラマーカス・オルドリッジ(サンアントニオ・スパーズ)、アンソニー・デイビス(レイカーズ)、ニコラ・ヨキッチ(デンバー・ナゲッツ)、ニコラ・ブーチェビッチ(オーランド・マジック)、カール・アンソニー・タウンズ(ミネソタ・ティンバーウルブズ)と優秀なビッグマンの名前が並ぶ。リスト内で一番小さいデイビスで208cmだが、198cmのザイオンはこの中の誰よりも制限エリアに侵入してシュートを決めている。

ペース&スペースの時代になってから、ポストアップは廃れてきた。スペースを潰してしまうからだ。しかし、ペリカンズのアルビン・ジェントリーHCはザイオンにポストアップさせることを選んだ。スペースを有効に使うよりも、ポストでザイオンにボールを持たせた方が効率的だと考えたのだろう。ザイオンのポストプレイをシングルカバレージで止めるのは至難の業である。いずれ他のチームが有効なダブルチームやヘルプディフェンスを編み出すだろうが、そうすればザイオンがキックアウトを上達させるだろう。ゲームをシンプルにしてしまうザイオンの存在感たるや、まさにシャックの如しなのである。


因縁の相手レイカーズとプレイオフで当たる可能性も


ザイオン加入後のペリカンズの成績は本稿執筆時点で10勝9敗である。加入前の成績が17勝27敗だったことを考えれば、かなり改善されたと言える。細かく見てみると、オフェンシブ・レーティングが109.4から113.7に、ディフェンシブ・レーティングは112.7から110.1にそれぞれ向上している。加入後19試合に限定すれば、ペリカンズのネット・レーティングは3.6で、これはウエストの4位につけるユタ・ジャズの数字に近い。今後持続できるのであれば、さらなる勝率アップが見込める。

今季のウエストは7位までの席がほぼ埋まっており、ペリカンズがプレイオフに進出するのであればおそらく順位は8位だろう。その場合、ファーストラウンドの相手は因縁のレイカーズであることが濃厚だ。昨年『再生の物語』というコラムでも書いたが、デイビスのトレード志願から始まったドラマの決着がプレイオフでつくとなれば面白い。

一方で、心配な点もある。今シーズンの序盤、ペリカンズが連続で接戦を落としてスタートダッシュに失敗したことを覚えている人も多いだろう。接戦に弱いという今季のペリカンズの傾向は、ザイオン加入以降も実はあまり変わっていない。2月9日のインディアナ・ペイサーズ戦は珍しく接戦に勝ったが、この試合はブランドン・イングラムもザイオンも欠場したので評価が難しい。ザイオンが出場した試合で唯一接戦を物にしたのは3月7日のマイアミ・ヒート戦である。この試合は、第3クオーターまでの二桁リードを溶かしながらもなんとか踏ん張ることができた。得意のトランジション・オフェンスが接戦の終盤に封じられたときにどう対処するか。プレイオフに向けて注目したい点である。


ドラフト・ロッタリーで贔屓のグリズリーズが2位指名権を引き当てたとき、私は小躍りして喜んだ。1位指名権ならザイオンを、2位指名権ならジャ・モラントを指名できる状況だったが、私はザイオンよりモラントの方がスターになる確率が高いと思っていた。モラントはスリーポイントが打てる、リム周りでフィニッシュできる、ドライブからキックアウトもできるハンドラーだ。新チームの柱に据えるには理想的な選手に見えた。一方のザイオンはスリーポイントも怪しければハンドルも怪しい。身体能力が高くても、使われる側には限界がある。私はそんな風に思っていた。

実際、モラントは期待通りの活躍をしている。優秀なハンドラーを得たグリズリーズの未来は明るい。しかし、グリズリーズの未来の明るさは、コラムニスト風情の私が論じうる範囲の明るさである。言い換えれば、現在の常識に則しているという程度の話だが、ザイオンは違う。これまでの活躍が、すでに常識を破る形である。これから一体どんな選手になるのだろうか。彼の成長を見届けることができるペリカンズファンが、少しだけ羨ましい。隴を得て蜀を望むという言葉がある。欲望には限りがないことの例えだが、私はモラントを得てザイオンを望む自分の強欲さに気づいて苦笑している。


大柴壮平:ロングインタビュー中心のバスケ本シリーズ『ダブドリ』の編集長。『ダブドリ』にアリーナ周りのディープスポットを探すコラム『ダブドリ探検隊』を連載する他、『スポーツナビ』や『FLY MAGAZINE』でも執筆している。YouTube『Basketball Diner』、ポッドキャスト『Mark Tonight NTR』に出演中。



時代遅れのレッテルを貼られたポストアップだったが


現代版シャックが現れた?


時代遅れのレッテルを貼られたポストアップだったが




(C)2020 NBA Entertainment/Getty Images. All Rights Reserved.



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