キミノナハセンター?【大柴壮平コラム vol.24】
NBA Rakuten / 2020年3月13日 18時33分
効率の悪いプレイと判明したポストアップ
以前NBAを観ていたが、いつのまにか観なくなっていた。バスケをプレイするのは好きだが、観戦はしていない。観るには観るが、B.LEAGUEがメインだ。そういった人たちの中にも、連日テレビで八村塁(ワシントン・ウィザーズ)の活躍を目にし、NBAに興味が湧いてきたという人が多いのではないだろうか。バスケットは知っているがNBAは初めて観る、もしくは久しぶりに観るという人は、おそらく観戦を始めてすぐに違和感を覚えるだろう。
「なんでポストにボールを入れないんだ?」
先週『最も理不尽なシャックの“再来”。常識を破り続けるザイオン・ウィリアムソン』というコラムでも触れたが、NBAではポストアップが時代遅れのレッテルを貼られている。オフェンスの効率性を求めて研究が進んだ結果、ポストアップは効率の悪いプレイだと判明したからだ。
今シーズン最もポストアップしているチームは、フィラデルフィア・76ersである。彼らは本稿を執筆している64試合消化時点で、全ポゼッションのうち11.3%をポストアップで終えている。しかし、ポストアップで終わったポゼッションでは1ポゼッション当たり1点しか取れていない。シクサーズのオフェンシブ・レーティング、つまり100ポゼッション当たりの得点は109.4なので、1ポゼッション当たり1点しか取れないポストアップを多用しているのは奇怪である。算盤上では、11.3%を占めるポストアップを減らせば減らすほどシクサーズのオフェンス効率は上がることになる。
新たな武器を模索するセンターたち
現役最高のセンターの1人に数えられるジョエル・エンビードと、5回のオールスター出場を誇るアル・ホーフォードがいるシクサーズですら、ポストアップから効率的なオフェンスを生み出せていない。センターの存在意義を考えさせられるところだが、早々にその答えを出したのがヒューストン・ロケッツである。ロケッツは2月のトレードでセンターのクリント・カペラを放出し、スモールフォワードのロバート・コビントンを獲得した。以来、センターポジションを置かずに戦っている。ロケッツの実験が成功するかどうか答えは先になるが、面白い試みだ。
ロケッツの例は極端にしても、他チームも多かれ少なかれセンターの活用には悩まされている。特に優秀なセンターを抱えているチームは悩ましい。その才能は活かしたいが、ポストプレイは増やしたくない。そこでよく見られる試みは、彼らにスリーポイントを打たせることである。ラマーカス・オルドリッジ(サンアントニオ・スパーズ)、アンソニー・デイビス(ロサンゼルス・レイカーズ)、カール・アンソニー・タウンズ(ミネソタ・ティンバーウルブズ)、ニコラ・ブーチェビッチ(オーランド・マジック)といった名だたるビッグマンたちが、今シーズン、キャリアハイのペースでスリーポイントを試投しているのだ。
ポストプレイも上手くない、スリーポイントも打てないとなると、リーグで生き残れるセンターは限られてくる。例外はサイズの割に機動力があるタイプで、ディフェンスでスイッチに対応できる、トランジションで走れる、ロールマンやカッターとしてフィニッシュできるなどの武器を持っていればスターターに名を連ねることも可能である。前述のカペラや、ジャレット・アレン(ブルックリン・ネッツ)がその典型例だろう。その2名よりは大分格上だが、ルディ・ゴベア(ユタ・ジャズ)も大枠ではこの部類に入るかもしれない。
ライバルに無い強みを持つアデバヨの躍進
昨シーズンのオールNBAファーストチームにはニコラ・ヨキッチ(デンバー・ナゲッツ)が選出された。ヨキッチはポストプレイも上手ければスリーポイントも打てるが、最も評価されているのはプレイメイク能力である。セブンフッターでありながら、トップからでもガード顔負けのパスを供給する。どのチームもスリーポイント力やパス技術を有する選手をセンターポジションに置きたいだろうが、大型な選手でこれができる選手はそうはいない。ヨキッチ以外のセブンフッターでこれができるのはマルク・ガソル(トロント・ラプターズ)ぐらいだろうか。
そこで、センターポジションからもプレイメイクするために、サイズを犠牲にする決断をしたチームがある。マイアミ・ヒートだ。ヒートは昨シーズンまで先発センターだったハッサン・ホワイトサイドをポートランド・トレイルブレイザーズにトレードし、本来はパワーフォワードのバム・アデバヨをセンターで起用している。213cmのホワイトサイドに対し、アデバヨは206cmと高さでは引けを取る。しかし、トップやハイポストからのプレイメイクでヒートのオフェンスに欠かせない存在に成長し、MIP候補に名前が挙がるほどの活躍をしている。
また、機動力とパワーを兼ね備えるアデバヨは、ディフェンスでも大きな武器になっている。スイッチしても相手のガードを守れる上に、ヤニス・アデトクンボ(ミルウォーキー・バックス)やベン・シモンズ(シクサーズ)のような流行りの大型ハンドラーに対しても当たり負けしない。アデバヨのディフェンス能力は、ヨキッチやエンビードといったトップセンターたちには無い強みである。
NBAに起こったオフェンス革命は、センターの在り方を変えた。以前なら重宝された、サイズがあり、ポストで体を張れるタイプのセンターはお払い箱になった。実はこの話が、冒頭のB.LEAGUEの話にも繋がってくる。現在のNBAでポストプレイを許されるのはほんの一握りの選手だけだが、さりとて昔ながらのセンタープレイヤーが急に下手になったわけではない。彼らはNBA以外のリーグ、特に体格差のあるアジアではその能力を発揮することができる。
例えば昨シーズンまでサンロッカーズ渋谷にいたロバート・サクレは、ポストプレイが得意だった。NBAでの彼の成績は4シーズン平均14.5分、4.2点である。2015-16シーズンを最後にNBAでのキャリアは終わったが、その後2シーズン半プレイしたB.LEAGUEでは、平均30分、17.3点という素晴らしいスタッツを記録している。
サクレのケースに限らず、B.LEAGUEでは外国籍選手のポストプレイに頼る傾向がある。NBAと比べれば、もちろん戦術としては遅れている。しかし、だからと言って「外国籍に頼るな」「ポストプレイを減らせ」と各チームに求めるのはお門違いである。これはあくまで効率の話なのだ。日本人選手が外国籍選手のポストプレイより効率良くペリメーターで得点できるようになる。もしくは、ガード、フォワードの優秀な外国籍選手がプレイしたいと思うような魅力的なリーグになる。そうすれば自ずと外国籍のポストプレイに頼るオフェンスは減り、ペース&スペースを模倣するようになるだろう。日本の野球は世界でもトップクラスの強豪である。サッカーは強豪を名乗れぬまでも、着々と力をつけてきた。バスケットボールが世界、NBAに追いつく日を楽しみにしたい。
最後になりますが、本稿執筆中にNBAのシーズン中断が決まりました。コロナウイルスの感染が拡大がしていますが、読者諸兄のご健勝と事態の早期収束をお祈りしています。
大柴壮平:ロングインタビュー中心のバスケ本シリーズ『ダブドリ』の編集長。『ダブドリ』にアリーナ周りのディープスポットを探すコラム『ダブドリ探検隊』を連載する他、『スポーツナビ』や『FLY MAGAZINE』でも執筆している。YouTube『Basketball Diner』、ポッドキャスト『Mark Tonight NTR』に出演中。
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