ブルックリン・ネッツ:新天地への移転から現在までの道のり【ビタラフ・アドル コラムvol.2】
NBA Rakuten / 2020年4月2日 17時21分
かつてニュージャージーに本拠地を構えていたネッツが、ブルックリンに移転した裏側を明かす
前回は、ブルックリン・ネッツとブルックリン出身の伝説的なラッパー、ノトーリアス・B.I.G.(通称ビギー)の関係性を、ネッツが昨シーズンから着用しているシティ・エディション・ユニフォームに込められた思いと共に紹介した。今回は、かつてニュージャージー州を本拠地としていたネッツのブルックリン移転計画が浮上した2003年当時から現在までの歩みを振り返る。
ブルックリン移転のキーマンとなったジェイ・Z
ニュージャージー・ネッツ移転の話が最初に持ち上がったのは、ブルックリンで不動産開発を手掛けるブルース・ラトナーが、チーム買収に興味を持ち始めた2003年の事だった。ダウンタウン・ブルックリンを中心に事業を拡大していた彼は、当初からNBAチームの運営よりも、後にチームの新天地となるアトランティック・ヤード一帯の再開発に関心があった。
2003年当時のネッツは、ポイントガードのジェイソン・キッドを筆頭に、2002、03年と2年連続でファイナルへ駒を進めていた。その翌年、元オーナーグループから売りに出されていたネッツを3億ドル(約324億円)で購入したラトナーは、同プロジェクトを本格的に進める事となる。
移転計画のもう一人のキーパーソンは、有名歌手のビヨンセの夫としても知られるラッパーで起業家のジェイ・Zだ。ブルックリン出身で、前回紹介したビギーと同じ高校に通っていた彼が、ネッツのブルックリン移転に関する宣伝役として大きく関与していたのだ。
ニューヨーク州やブルックリン区の政治家と親密な関係にあったラトナーは、その権力を駆使して、半ば強引にバークレイズ・センターの建設とそれに伴う地域一帯の再開発に踏み切る。しかし、ラトナーの本当の狙いであるオフィスビル、マンション、ショッピングモールの建設を進めるにあたっては、地元住民の支持を集め、反発を和らげる必要があった。そこで彼は、地元出身でブルックリンに絶大なる影響力があったジェイ・Zを、当初からネッツの共同所有者としてグループに迎え入れていたのであった。
55年ぶりにブルックリンで誕生したメジャースポーツチーム
1957年にMLBのブルックリン・ドジャースがカリフォルニア州に移転して以来、ブルックリンにはメジャースポーツチームがなかった。このことからも、移転計画は地元の権力者を筆頭に歓迎されていた。
しかし、2004年に移転計画が始まって以降、ラトナーは訴訟やアリーナ建設遅延、そして世界金融危機と、様々な難題に直面した。2009年、金融危機で移転計画の資金繰りに窮したラトナーに7億ドル(約800億円)を融資したのが、その翌年にネッツの筆頭株主となるロシアの大富豪、ミハイル・プロホロフだった。
その後、プロホロフはラトナーから2億ドル(約220億円)でネッツの所有権80%を購入。2012年9月にオープンしたバークレイズ・センターで開かれたジェイ・Zのコンサートと共に、新生ブルックリン・ネッツが誕生したのである。
ネッツのブルックリン移転が地元住民に与えた影響
ネッツがブルックリンに拠点を移してから約8年が経った。ブルックリンで生まれ育った配線技術者としてインターネット会社に勤める40代前半の男性は、ダウンタウン・ブルックリンに位置するバークレイズ・センター周辺がこの15年で大きく変化したと語る。
「昔はスラム街だったダウンタウンも今では大都市になったよ。以前は高層ビルなんて無く、道にはゴミや犬の糞が散乱していた。再開発計画が進められていた当初は、立ち退きを命じられた友達がいたこともあって反対だった。けど、今では街が綺麗になったし、バークレイズ・センターができたことで、ダウンタウンはバスケの試合や他のイベントで毎週盛り上がっている。家族連れも多く見られるようになり、オシャレなお店も増えて街の雰囲気も良くなった。経済面でも(ネッツ移転が)この街にポジティブな影響を与えたと思うよ」
ジャマイカ出身で、同郷のパトリック・ユーイング(元ニューヨーク・ニックスほか)がいた頃からのニックスファンという彼。自身の周りもニックスファンが多いというが、若い世代の印象は「確実に変化している」という。
「息子はユーイングを知らないし、今勢いに乗っているネッツに夢中だからね。息子と一緒によくネッツの試合も観に行くから、僕にとってネッツは2番目に好きなチームさ」
ネッツはニューヨークを代表するチームとなれるのか?
ニックスの弟分として扱われてきたネッツだが、そうした空気は確実に変化しつつある。長期に及んだ低迷期から抜け出し、昨オフにはケビン・デュラント、カイリー・アービングという2人のスーパースターを獲得。また、昨年9月にネッツの単独オーナーとなったジョセフ・ツァイ(中国最大手のEC会社であるアリババ社の共同創業者)が、米国内でのスポーツチーム買収額として史上最高額でチームを購入したのも、ネッツの今後が期待されている証拠だろう。ツァイは、プロホロフに総額23.5億ドル(約2530億円)を支払い、ネッツとバークレイズ・センターの経営権を手にしている。
ブルックリンに拠点を移したネッツは、新天地でのファンベース構築も順調だ。ネッツの熱狂的なファンで結成されたグループ「The Block」が、毎回ネッツのホーム戦をユーモアあふれる演出で盛り上げている。さらにネッツは、同グループを正式にスポンサーすることで地元ブルックリンにチームカルチャーを落とし込むことにも成功した。
地元民に迎え入れられ、彼らのライフスタイルに上手く落とし込まれたネッツは、今後もブルックリンで人気を伸ばしていくに違いない。
ビタラフ・アドル:ニューヨーク州をベースにスポーツビジネスを総合的に手掛ける「スポヲタ社」に在籍。スポーツシーンをよりエキサイティングにすべく日々奮闘している。
(C)2020 NBA Entertainment/Getty Images. All Rights Reserved.
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