シーズン再開を決断したNBA。これからの課題とは【杉浦大介コラム vol.23】
NBA Rakuten / 2020年6月7日 10時27分
オーナー会議と選手会の承認を受け、ついに再開に向けて本格始動したNBA。無事に今シーズンを終えるためにクリアしなければならない課題とは――。
再開後のシーズンには22チームが参加
NBAがついに戻ってくる。現地6月4日、NBAが提案した再開フォーマットがオーナー会議での投票(29-1。反対の1チームはブレイザーズだったという)で承認された。さらに翌5日の選手会(NBPA)投票でも可決。再開に向けた歯車はゴトリと音を立てて動き出した。
すでに様々な形で報道されているが、再開後のフォーマットは以下のようだ。
・開催地はフロリダ州オーランドのウォルト・ディズニー・ワールド・リゾート
・22チームが参加(各カンファレンス8位以内の16チーム+8位と6.0ゲーム差以内の6チーム)
・参加する全22チームがレギュラーシーズンとして8戦を行う
・シーズン終了時に8、9位が4.0ゲーム差以内の場合、プレイイン・トーナメントを開催(8位チームが1勝するか、9位チームが2戦先勝すればプレイオフ出場)
・プレイオフのフォーマットは例年同様(全シリーズ4戦先勝制)
22チームは6月30日にトレーニングキャンプを開始し、7月7日にオーランドへ移動する予定。再開は7月31日で、ファイナルはどんなに遅くとも10月12日までには終わるという。その他、ドラフトロッタリー (8月25日)、ドラフト(10月15日)、さらには来シーズンのおおよその開幕日(12月1日)のスケジュールまで出された。もちろん今後に変更の可能性はあるとしても、見通しがだいぶクリアになったことは間違いない。
コロナと人種差別問題の狭間で…
「現在、この国にはより意味深く、重要な問題があると理解した上で、それでも私たちは再びバスケットボールをプレイする機会を得られることに感謝しています。選手、コーチ陣は準備を整えてくれています。まだやるべきことはたくさんありますが、コートに戻り、“DCファミリー”を代表できることにエキサイトしています」
今回の発表後、ウィザーズのトミー・シェパードGMがリリースした声明は、多くのファン、選手、関係者の思いを代弁しているのではないか。
特に、優勝が狙える位置にいる選手たちが興奮しているのは当然だ。斬新な新フォーマットはカジュアルなファンの興味も惹きつけるだろう。このままシーズンがキャンセルされれば、選手はシーズンだけで6億4500万ドルのサラリーを失っていたと伝えられる中で、再開できればビジネス面の恩恵も計り知れない。
3月11日以降は未曾有のコロナショックが続き、現在は全米各地で人種差別問題による暴動が勃発。今のアメリカは誰も経験したことがないような不穏な空気に包まれている。そんな混乱の時間の中で、黙々と努力を継続したNBAとアダム・シルバー ・コミッショナーは称賛されてしかるべきだ。再開に尽力した最大の理由は“マネー”と揶揄する声もあるが、NBAはスポーツ・エンターテインメント・ビジネスなのだからそれは当たり前のこと。無事にシーズンが進めば、スポーツファンは歓喜し、様々な意味でのポジティブな影響は大きいはずである。
徹底した安全対策は見えず
もっとも、その一方で、まだ手放しで喜ぶべきではないという声も少なからずある。シーズン再開の形は見えてきても、健康面への不安は否定できないからだ。
米国内のコロナウイルス感染者は169万人に達し、すでに10万人以上が死亡。徐々に収束の気配が感じられ、各地で経済活動再開の動きが始まってはいるものの、まだパンデミック下であることに変わりはない。今後、コロナ再拡大のリスクは常にあるだけに、NBAにも綿密なプランが求められる。
陽性者が出ても中断はしないというが
特に気になるのは、選手から陽性反応が出てしまった後の対応だ。陽性者が出た後でもシーズン中断はしないというが、それが複数名だった場合には話は別だろう。接触の多いバスケットボールというスポーツを屋内で行なうのだから、クラスター発生のリスクは常にある。1週間程度で完結する単発興行の格闘技ならいざ知らず、長期にわたって数百名の集団隔離を行なうのだから、これは大変な作業である。
時を同じくして、フロリダ州のコロナ感染者は6万人を突破。4日に報告された新感染者は1400人以上で、3月以来最多だった。こんな環境下で無事にシーズンを進めるために、説得力のあるプロトコールの設定は必須に違いない。
杉浦大介:ニューヨーク在住のフリーライター。NBA、MLB、ボクシングなどアメリカのスポーツの取材・執筆を行なっている。『DUNK SHOOT』、『SLUGGER』など各種専門誌や『NBA JAPAN』、『日本経済新聞・電子版』といったウェブメディアなどに寄稿している。
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もちろん巨大ビジネスのNBAがその点に気付いていないはずはなく、絶えず話し合いは続けられているに違いない。グレッグ・ポポビッチ(71歳/スパーズ)、マイク・ダントーニ(69歳/ロケッツ)、アルビン・ジェントリー(65歳/ペリカンズ)といった高齢のコーチたちの処遇まで含め、安全対策にどんな答えを出していくか。アメリカでも屈指のプログレッシブなリーグであるNBAは、非常事態下でどういった舵取りを見せるか。オーナー会議での再開案承認は大きな一歩ではあったのだろう。それでも無事に再開し、成功するための長い道のりは、まだまだ始まったばかりである。
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オーランドに集められた選手たちはどんな生活をし、どうやって健康を保つのか。日程、フォーマットは発表されても、徹底した安全対策は見えていない。
「コロナの検査は連日実施され、陽性反応が出た選手は隔離される」「ソーシャルディスタンスを保てばレストランでの飲食やゴルフは可能」「選手たちはアリーナではなくホテルでシャワーを浴びる」「ゲーム中は距離をとってベンチに座る」「ゲストを呼ぶのはプレイオフまで不可」「ホテルの従業員は選手の部屋に入ることはできない」といった情報は米メディアから出てきているが、不明の要素は数多い。
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