NBA版穴馬予想のススメ――プレイ・イン・トーナメント出場チーム編【大柴壮平コラム vol.41】
NBA Rakuten / 2020年7月10日 17時0分
プレイオフ最終スポットを争うプレイ・イン・トーナメントに注目
各チームのディズニー・ワールド入りが始まった。ディズニーのあるフロリダ州で新型コロナウイルス感染が拡大していることもあり未だ予断を許さない状況ではあるが、再開に向けてNBAがようやく一歩目を踏み出した格好だ。コロナウイルスの締め出しに成功すれば、3試合の練習試合を挟んでシーディングゲームに入っていく。今週は、熾烈をきわめるウェストの8位争いに注目してみた。
6チームが8位、9位の2枠を目指す争い
まずは状況をおさらいしよう。現在ウェストの8位につけているのはメンフィス・グリズリーズ。グリズリーズから3.5ゲーム差離れた9位にはポートランド・トレイルブレイザーズ、ニューオーリンズ・ペリカンズ、サクラメント・キングスの3チームが同率で並んでいる。以下、4ゲーム差で12位のサンアントニオ・スパーズ、6ゲーム差で13位のフェニックス・サンズまでがシーディングゲームに参加する。
シーディングゲームは8試合行われる。シーディングゲーム終了時点で8位と9位が4ゲーム差以内だった場合、2チームによるプレイ・イン・トーナメントが開催され、勝った方がプレイオフに進出する。まずはシーディングゲームで9位以内に入ることが下位チームの目標になるわけだ。
成績が5割弱のグリズリーズが10位以下まで転落する可能性は低い。グリズリーズが3勝5敗で9位のチームが5勝3敗だとしても、まだグリズリーズの方が上だ。グリズリーズが2勝6敗で9位のチームが6勝2敗ならひっくり返るが、ここまで勝率4割台のチームの中から2チームも6勝を挙げるなんてあるだろうか。何せシーディングゲームには格下との対戦がほとんど無いのだ。1枠はおそらくグリズリーズで埋まるだろう。
上昇度のブレイザーズ、スケジュールに恵まれたペリカンズ
残り1枠の争いで苦戦が予想されるのは、ゲーム差を考えれば全勝ペースで勝たないといけないサンズと、6月上旬に右肩の手術を受けた大黒柱ラマーカス・オルドリッジを欠くスパーズだ。今シーズンのスパーズは、オルドリッジが休んだ試合でも極端に質を落とすことはなかった。スペースが空くことでアウトサイドの若手が覚醒する可能性もなくはない。ただ、ライバルたちと比べるとどうしても上昇度が少なく感じてしまう。
上昇度の観点だけで見れば、プレイ・イン・トーナメント出場の最右翼はブレイザーズだ。開幕時にはスターターだったザック・コリンズと、昨シーズンの正センター、ユスフ・ヌルキッチが戻ってくれば、手薄だったインサイドが急激に強化される。トレバー・アリーザの参加辞退で空いたスモールフォワードは、カーメロ・アンソニーが埋めることになるだろう。今シーズンはパワーフォワードを務めることが多かったメロだが、本職はスモールフォワードだ。少なくともオフェンス面では輝きを増す可能性を持っている。
下馬評ではニューオーリンズ・ペリカンズの評価も高い。期待のザイオン・ウィリアムソンがデビューしてから10勝9敗と、ようやく明るい兆しの見えたペリカンズは、オーランドで戦う22チームの中で最もスケジュールに恵まれた。仮にシーズンが正常に行われた場合、ペリカンズは下位チームとの対戦が多いはずだった。それが考慮されてのスケジュールだそうだが、1勝が重要なシーディングゲームでは大きなアドバンテージになるだろう。
台風の目はキングス
上昇度のブレイザーズ、スケジュールに恵まれたペリカンズの影に隠れているが、実は私が一番注目しているのはサクラメント・キングスである。キングスは開幕5連敗でシーズンをスタートした。さらに12月18日のシャーロット・ホーネッツ戦から8連敗、1月11日のミルウォーキー・バックス戦からも6連敗を喫した。これだけ連敗すれば早々にプレイオフ争いから転落してもおかしくないはずだが、彼らは9位タイに踏みとどまっている。
1月の6連敗後にチームが立ち直った理由はいくつかある。怪我人が戻ってきたことや、トレードでロスターの厚みを増したこと、主力の怪我が続く中でチャンスを得たハリー・ジャイルズの成長など、どれも重要な要因だろう。しかし、最もインパクトがあったのはボグダン・ボグダノビッチをスターターに抜擢、バディ・ヒールドをシックスマンにしたルーク・ウォルトンHCの決断だ。ボグダノビッチがスターターになって以来、チームは13勝7敗と大きく勝ち越している。
ヒールドはリーグでもトップクラスのシューターだ。しかもキングスは昨年のオフにインセンティブを含めると4年1億600万ドル(1ドル100円換算で106億円)に上る延長契約をしたばかり。そのヒールドをベンチ送りにするのは勇気のいることだが、果断に決断を下した上で結果を残しているウォルトンHCは天晴である。プレイメイクが上手くディフェンスもできるボグダノビッチと、足りないものは多いがシュート力は目を見張るものがあるヒールド。併用も含め、ウォルトンHCがこの2人の能力を最大限に活かすことができれば、キングスはシーディングゲームの台風の目になるだろう。
先週は久方ぶりにNBAの話をコラムに書くことができた。そして嬉しいことに、今週もそれに続いた。NBAは再開へと動き出した。アダム・シルバー・コミッショナーが下した再開という決断は、スポーツ史上初の試みとして世間の耳目を集めている。果たして無事コロナウイルスを遮断し、シーズンを全うすることはできるのだろうか。
一度大きな決断をすればそれで終わりとはいかないのが世の常である。ウォルトンHCも、再びチームが躓くかヒールドがベンチ起用に不満を溜めれば再考を促されるだろう。シルバーにとってもそれは同じことだ。刻々と変わる状況下、おそらくシルバーは毎日続行と中止を悩み、そして決断している。心労はいかばかりか知れぬが、ここまでおよそ4か月にわたる決断の連続は称賛に値すると私は思っている。
どうかシルバーが中止という苦渋の決断を下す日が来ませんように。これが私の七夕の願いである。
大柴壮平:ロングインタビュー中心のバスケ本シリーズ『ダブドリ』の編集長。『ダブドリ』にアリーナ周りのディープスポットを探すコラム『ダブドリ探検隊』を連載する他、『スポーツナビ』や『FLY MAGAZINE』でも執筆している。YouTube『Basketball Diner』、ポッドキャスト『Mark Tonight NTR』に出演中。
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