NBA版穴馬予想のススメ〜ファーストラウンド全シリーズ予想〜【大柴壮平コラム vol.47】
NBA Rakuten / 2020年8月18日 8時44分
ついに始まったプレイオフ。1回戦のシリーズを展望する
プレイイン・ゲームズでポートランド・トレイルブレイザーズが激戦の末にメンフィス・グリズリーズを破り、プレイオフ最後の枠に滑り込んだ。当コラムはこれまでも『NBA版穴馬予想のススメ』と称して賞レースやオールスターのダークホースを予想してきたが、果たしてファーストラウンドに魔物は潜んでいるのだろうか?
イーストはほぼ無風。注目はセルティックス対シクサーズ
イースト首位のミルウォーキー・バックス(1位)はオーランド・マジック(8位)と対戦する。バックス、マジック共にオフェンスよりディフェンスを得意とするチームだ。ただし、攻守共にバックスの方が質が高く、レギュラーシーズンではバックスが4勝0敗でスイープしている。バックスのディフェンスは3ポイントを打たれることをある程度許容する代わりにディフェンシブ・リバウンドとペイント内のディフェンスでアドバンテージを取るスタイルだが、マジックはシューターの頭数が少ないため3ポイントを決めて勝つのが難しい。ヤニス・アデトクンボを止める優秀なディフェンダーも不在のため、ディフェンス面でも苦労するだろう。4勝0敗のスイープでバックスが勝利する。
トロント・ラプターズ(2位)とブルックリン・ネッツ(7位)も地力の差があるシリーズだ。ネッツはバブルにおけるサプライジング・チームの1つで、カイリー・アービング、ケビン・デュラント、スペンサー・ディンウィディー、ディアンドレ・ジョーダンといった主力を欠きながら5勝3敗の好成績を挙げた。それ自体は称賛に値するが、その間にラプターズは主力のミニッツ調整と若手の育成を行いながら7勝1敗という成績を残している。ネッツの武器は3ポイントだが、ラプターズは3ポイントラインを守るのが上手いチームで相性も悪い。ドリブルから崩せるのがキャリス・ルバートだけというのも不安だ。ラプターズの4勝0敗。このシリーズもスイープで決着すると見る。
スモールボールに振り切ったボストン・セルティックス(3位)と本格派ビッグマン2人を先発に据えるフィラデルフィア・セブンティシクサーズ(6位)のシリーズは、ファーストラウンドで最も興味深い組み合わせかも知れない。セルティックスとしてはスモールボールの強みを生かして3ポイントを沈めたいところだが、シクサーズは3ポイントラインの守りが堅い。一方のシクサーズは高さの利を活かしてインサイドを支配したいが、セルティックスはスモールラインナップながらリム回りのディフェンスが上手い。そんな対照的な2チームの戦いは、采配の差で決まるのではないだろうか。私は名将ブラッド・スティーブンスが4勝2敗でセルティックスを勝利に導くと予想する。
イースト唯一のアップセットはインディアナ・ペイサーズ(4位)対マイアミ・ヒート(5位)だ。アップセットと言っても両チームのゲーム差はわずかに1。その上全試合バブル内開催の今年は、実質ホームコート・アドバンテージがない。これをアップセットと呼んでいいのかわからないが、ともあれ私はヒートに分があると見ている。最大の理由は層の厚さで、ヒートのベンチユニットはベテランのゴラン・ドラギッチを筆頭に質の高いプレイヤーが揃っている。一方のペイサーズはヒートの弱点であるリム周りを攻略できるドマンタス・サボニスが不在。ビクター・オラディポも本調子ではなく、ベンチはおろかスタートのメンバーすらベストな布陣を組めていない。4勝1敗でヒートが次のラウンドに進む。
ロケッツ対サンダーは7戦までもつれる激しいシリーズになる
穴馬予想を謳いながらイーストは手堅い予想ばかりではないか。そう思った読者諸兄はご安心を。ウェストは特大の穴予想を1つ用意した。まずはそれ以外のシリーズを予想しよう。
ロサンゼルス・クリッパーズ(2位)対ダラス・マーベリックス(7位)は、最も視聴率を稼ぐシリーズになるのではないだろうか。個人的には圧倒的優勝候補だと思っているクリッパーズに、近未来のMVPルカ・ドンチッチが挑むという構図は実に漫画的だ。しかし、ファンの期待とは裏腹にこのシリーズは短期間で終わると予想する。おそらくドンチッチのピック&ロールから崩すマブスお得意のパターンが、カワイ・レナード、ポール・ジョージによってかなり制限されてしまうのではないだろうか。加えて、3ポイントとリム周りを守ろうとするあまりミドルシュートへの対応が甘くなりがちなマブスのディフェンスは、ミドルレンジが大得意のカワイと相性が悪い。事実、カワイは今季3度あったマーベリックス戦で平均31得点を挙げている。4勝1敗でクリッパーズが勝つと予想する。
デンバー・ナゲッツとユタ・ジャズのシリーズもワンサイドな展開になってしまう可能性がある。ナゲッツはウィングに怪我人が多かったこともあり、シーディングゲームを若手の育成に充てた。その結果マイケル・ポーターJr.が7試合で平均22.0点を記録。ナゲッツはプレイオフを前に新たな武器を手に入れた。一方のジャズはチーム2番目の得点源だったボーヤン・ボグダノビッチを怪我で失った上に、バブルに入って以降好調だったマイク・コンリーも次男の誕生に際しバブルを後にした。昨シーズンまではジャズと言えばディフェンスのチームだったが、今シーズンはよりオフェンス指向のチームに変革を推し進めてきただけに、オフェンスのキーとなる2人が抜けるのは大きな痛手だ。4勝1敗でナゲッツが勝ち抜ける。
一番読めないのがヒューストン・ロケッツ対オクラホマシティ・サンダーのシリーズだろう。エースのジェームズ・ハーデンがプレイオフで期待を裏切り続けている中、彼とプレイ面でも渡り合える上に腹を割って話せる友人であるラッセル・ウェストブルックの加入は、プレイオフにこそ生きてくると私は思っていた。ウェストブルックのおかげでハーデンの精神面での負担が減るようなら優勝すらある。そんな大胆予想をしようと思っていた矢先にウェストブルックの怪我が判明。ウェストブルックがいなければ昨シーズンまでのロケッツと変わらない。だとすれば昨シーズンまでロケッツに在籍し、弱点を知り尽くしているであろうクリス・ポールに分があるか。ここは今シーズン、オールスターに返り咲いた鬼才ポールの手腕を信じたい。4勝3敗でサンダーが勝ち上がると読む。
大穴はブレイザーズ。優勝候補レイカーズを相手に大金星?
大穴はプレイイン・ゲームズを勝ち上がった上がり馬、ブレイザーズだ。ブレイザーズはシーズン中断前に3.5ゲーム差あったメンフィス・グリズリーズとの差を8ゲームでひっくり返した。なんと言ってもブレイザーズの魅力はそのオフェンス力で、シーディングゲームでは参加チーム最高のオフェンシブ・レーティング122.5を記録している。一方のレイカーズは、バブル入り以降大きく調子を落としているのが気がかりだ。レイカーズのシーディングゲームにおけるオフェンシブ・レーティングは下から3番目の104.5。得意なはずのディフェンスもレーティングは111.2と、22チーム中12番目と平凡な数字にとどまっている。
レイカーズがディフェンスを立て直せなかった場合、試合展開は大味なものになると予想する。レイカーズはブレイザーズのオフェンスを止められない。一方のブレイザーズは元々ディフェンスが苦手なのでレブロン・ジェームズとアンソニー・デイビスを止める手段を端から持ち合わせていない。試合は点の取り合いになるだろう。点の取り合いで試合が終盤までもつれた場合、圧倒的に有利なのはブレイザーズだ。デイミアン・リラードとCJ・マッカラムの2大エースはドリブルから自分のショットをクリエイトできる強みを持っている上に、ドライブからカーメロ・アンソニーやギャリー・トレントJr.といった高確率のシューターにキックアウトするオプションを持っている。一方のレイカーズは、勝負のかかった場面でハンドルを託せる選手がレブロン・ジェームズしかいない。
ブレイザーズの注目選手はカーメロだ。カーメロは2017-18シーズンにオクラホマシティ・サンダーにトレードされて以降、得意のアイソレーションを減らしキャッチ&シュートに磨きをかけてきた。ヒューストン・ロケッツでは10試合で解雇されるという屈辱も味わったが、今シーズン途中にブレイザーズに拾われるとチームを危機的状況から救う活躍を見せた。そんなカーメロが今シーズン最も磨きをかけているのがコーナースリーで、ガベージタイムの数字を除いたスタッツを提供するサイト『Cleaning The Glass』によれば、53%という超高確率を記録している。実はレイカーズのディフェンスはコーナースリーを最も苦手としている。一時期は終わった選手と言われていたカーメロが大舞台で活躍すれば感動的だ。
レイカーズ側のキーマンはディオン・ウェイターズで、理由は以前書いた『ウェイターズ・アイランドへようこそ』というコラムを参照して欲しい。ウェイターズがビッグショットを決めるところも見たいものだが、それにも増してブレイザーズの大金星が見てみたい。予想は4勝3敗でブレイザーズ。コラムを書かせていただいているおかげで、人生で一番予想に時間を費やした。果たして結果やいかに。
大柴壮平:ロングインタビュー中心のバスケ本シリーズ『ダブドリ』の編集長。『ダブドリ』にアリーナ周りのディープスポットを探すコラム『ダブドリ探検隊』を連載する他、『スポーツナビ』や『FLY MAGAZINE』でも執筆している。YouTube『Basketball Diner』、ポッドキャスト『Mark Tonight NTR』に出演中。
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