歴史的な活躍を続けるルカ・ドンチッチ。優勝候補相手に金星はあるのか?【大柴壮平コラム vol.48】
NBA Rakuten / 2020年8月25日 17時1分
ついに始まったプレイオフ。1回戦のシリーズを展望する
ついに開幕したプレイオフは、イースト、ウェストともに1位シードが初戦を落とすという混迷の2020年にふさわしい波乱の幕開けとなった。イーストはミルウォーキー・バックスがゲーム2以降調子を取り戻したこともあり、先週の予想通りほぼ無風のままカンファレンス・セミファイナルを迎えそうだ。
一方、ウェストは全シリーズが混戦模様で面白い。中でも3位シードのデンバー・ナゲッツを相手に先に王手をかけたユタ・ジャズ、優勝候補のロサンゼルス・クリッパーズと互角の勝負を続けるダラス・マーベリックスの健闘が光る。今週は未だ勝負の行方が見えないクリッパーズ対マブスに注目してみた。
筆者がクリッパーズ圧倒的有利と予想した理由
先週のファーストラウンド予想記事で、私はこのシリーズを4勝1敗でクリッパーズの勝利と予想した。まずはその根拠をおさらいしよう。1つはミドルレンジのディフェンスに注力しないマブスとミドルシュートの達人カワイ・レナードの相性が悪いからという理由だ。実際、カワイのシーズン平均得点は27.1点だが、対マブスの3試合は平均31.0得点とそれを証明する活躍をした。
もう1つの根拠は、マブスのオフェンスの中心であるルカ・ドンチッチのピック&ロールがクリッパーズの優秀なディフェンスによってある程度抑えられてしまうからというものだ。クリッパーズのスタートはスイッチを多用してピック&ロールを守る。パトリック・ベバリー、ポール・ジョージ、カワイ、マーカス・モリスは優秀なオンボール・ディフェンダーで、いくらドンチッチでも苦戦するはずだ。さらにドンチッチは3ポイントを多投する割には確率が31.6%と高くない。クリッパーズはこの確率ならドンチッチのステップバック・スリーを許容できる。実際シーズンの3試合では、クリッパーズはドンチッチに3ポイントを平均11.0本打たせた上で全勝している。
先週の時点で私が他に考えていたのは、ベンチの差だ。仮にドンチッチがいる時間帯にマブスのオフェンスが止められなかったとしても、いない時間帯はクリッパーズが有利だろう。なにせシックスマン賞最終候補3人のうち、2人がクリッパーズにいるのだ。『hoops stats.com』によれば、クリッパーズのベンチユニットはレギュラーシーズンにリーグ1位の平均50.3点を記録している。一方のマブスのベンチユニットも平均38.4点でリーグ8位につけているが、クリッパーズには及ばない。
さらに、クラッチタイムでも有利なのはクリッパーズだ。カワイ、ジョージ、ルー・ウィリアムズとクリッパーズにはハンドルから得点できる選手が3人もいる。ファースト・オプションのカワイにボールを入れられなくてもジョージかルーがハンドルできるのは心強い。それに比べてマブスはあくまでドンチッチだ。ドンチッチにボールが入らない、ドンチッチが不調、ドンチッチがファウルトラブルと、ドンチッチが頼れないときに一体誰がシュートを打つというのだろうか……。
ドンチッチの3ポイントとベンチユニットの活躍
蓋を開けてみればマブスが私の予想を覆し、クリッパーズと互角の勝負を続けている。2勝2敗で勝ち星を分けているだけでなく、100ポゼッション当たりの得点を示すオフェンシブ・レーティングもクリッパーズが117.0、一方のマブスが117.1と全くの互角だ。ちなみにマブスはレギュラーシーズンのオフェンシブ・レーティングが115.9で、リーグトップだった。プレイオフで両チームがこれより高い数字を記録しているということは、お互いに相手のディフェンスを攻略していることを示している。元々オフェンス偏重型のマブスにとって殴り合いは望むところだろうが、レギュラーシーズンでリーグ5位のディフェンス力を誇っていたクリッパーズにとっては面白くない展開だ。
私が戦前に予想した通り、カワイはここまで4試合平均33.0点、10.0リバウンド、5.0アシストと申し分ない数字を残している。ところが予想が当たったのはそのぐらいで、その他は散々だ。まず、ドンチッチのピック&ロールが守れない。それもそのはずで、ドンチッチはプレイオフに入ってから3ポイントの確率を37.6%に上げている。許容できるはずだった3ポイントが打たせてはいけないシュートに変わったのは、クリッパーズにとっては大きな誤算だ。さらに計算外だったのがベンチユニットで、クリッパーズが点差をつけるどころかクリスタプス・ポルジンギスが欠場してマブスがローテーション変更を強いられたゲーム4を除くと、ベンチの平均得点はマブスの方が上回っている。
予想が当たっているか当たっていないかまだ結論が出ないのが、クラッチタイムにどちらが強いかというポイントだ。『NBA.com』に倣って残り5分5点差以内をクラッチタイムと定義すると、発生したのはゲーム1とゲーム4、そしてゲーム4のオーバータイムの計15分間だ。予想通り、クラッチタイムではクリッパーズはカワイ、ジョージ、ルーの得点かアシストが、マブスはドンチッチの得点かアシストがほとんどを占めている。単純に合計点を足せば47対37でクリッパーズが勝っており、ハンドラーの頭数の差が出ているようにも見える。しかし、ゲーム4のオーバータイムで最後にシュートを決めたのはドンチッチだった。是非両チームにはゲーム5以降も接戦を演じてもらい、この問いの答えを見せてもらいたい。
さて、当然のことながら先週の時点で予想できなかったのはクリスタプス・ポルジンギスとパトリック・ベバリーの欠場だ。常識的に考えればチーム2位の得点源であるポルジンギスを欠くマブスの方が不利なはずだが、クリッパーズはシリーズを通してベバリーの不在を痛感する場面が目立つ。ディフェンスのスペシャリストであり優秀なスポットアップシューターであるベバリーのプレイ面における貢献もさることながら、チームのボーカル・リーダーだったベバリーの不在が、クリッパーズの精神面に影を落としているように見えるのだ。残念ながら本稿執筆時点でベバリーが戻ってくるという情報は入っていない。カワイやジョージが精神面でもチームを引っ張れるかどうか、それとも他の選手やドック・リバースHCがその役割を補完するのか。要注目である。
2位シードのクリッパーズの方からアジャストする必要がある
最後に、今後のシリーズの注目ポイントを挙げよう。おそらくマブス側はこれまで通りの作戦を続けるだろう。ポルジンギス欠場の穴をトレイ・バークで埋めるという采配も当たった。あとは全力を尽くすのみだ。一方のクリッパーズは修正を加えてくる可能性がある。ゲーム4のオーバータイム後半はクリッパーズのスイッチを読んだマブスが徹底的にカワイとレジー・ジャクソンをスイッチさせることで勝機を掴んだ。最後のブザービーターもジャクソンの上から決めたものだ。それでも今後クリッパーズはクラッチタイムにスイッチを続けるかどうか。ブリッツを織り混ぜることで狙いを絞らせないようにすることも考え得る。
また、ドンチッチはゲーム2で5ファウルを犯して以降、ファウルトラブルを回避している。これまでクリッパーズはカワイとマキシ・クレーバーのミスマッチを狙う作戦を取っていたが、積極的にドンチッチを攻めるというのも1つの手だ。上手くいけばファウルトラブルも見込めるし、ファウルを避け続けるようならそのまま得点すればいい。また、副次的にドンチッチを疲弊させるという効果もある。特にジョージが絶不調に陥っている一方で、マーカス・モリスのシュートは好調だ。モリスをオンボールのプレイに絡ませてドンチッチを狙いつつ、より楽な状況でジョージをプレイさせることで調子を取り戻すきっかけを与えられるかも知れない。
ポルジンギスとベバリーを除けば、今後のシリーズの鍵を握るのはジョージだろう。『NBA.com』によれば、プレイオフに入って以降ジョージは最も近いディフェンダーが4フィートから6フィート以内にいるオープンショットを36.7%しか決めていない。6フィートより遠くにディフェンダーがいるワイドオープンは、なぜかオープンより低い15.4%という酷い確率を記録している。ジョージはオープンとワイドオープンを合わせて平均10.8本打っていて、そのうち7.8本は3ポイントだ。レギュラーシーズンはオープンの3ポイントを41.1%、ワイドオープンなら48.5%決めているだけに、彼が復調するかどうかはシリーズの行方を大きく左右するだろう。
ちなみに、ゲーム1で42得点を挙げてプレイオフデビュー戦のNBA記録を塗り替えたドンチッチだが、ゲーム4の活躍もある歴史的な記録に並んだそうだ。なんと、プレイオフ史上40点以上取った試合でブザービーターまで決めたのは、あの「ザ・ショット」のときのマイケル・ジョーダン以来の快挙とのこと。とんでもない新星の登場を目撃しているという興奮と、その選手がウェストのチームにいるという恐怖の間で、グリズリーズファンの私は半ば茫然としながらこのシリーズを見守っている。
大柴壮平:ロングインタビュー中心のバスケ本シリーズ『ダブドリ』の編集長。『ダブドリ』にアリーナ周りのディープスポットを探すコラム『ダブドリ探検隊』を連載する他、『スポーツナビ』や『FLY MAGAZINE』でも執筆している。YouTube『Basketball Diner』、ポッドキャスト『Mark Tonight NTR』に出演中。
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