NBAが再開場所にディズニー・ワールドを選んだ“大人の事情”とは【家徳悠介コラム vol.10】
NBA Rakuten / 2020年8月30日 16時25分
NBAがディズニーを”バブル”にしたのは、環境面以外の理由もあった――
NBAの2019-20シーズンは、ついにプレイオフが開幕した。あまりNBAに詳しくない方であれば、試合会場に観客がいないことに違和感を覚えるのではないだろうか。
7月末の再開以降、すべての試合はフロリダ州オーランドにあるウォルト・ディズニー・ワールド・リゾート内の「ESPNワイド・ワールド・オズ・スポーツ」(以下EWWS)にて開催されているのだ。なお、ディズニーはスポーツ放送の分野でESPNを抱えている。
そもそも、EWWSがどのような施設なのか。またどのような背景でNBAはEWWSを集中開催地に選択肢に選択したのか見ていきたい。
EWWSはどのような施設か
EWWSの初代運営責任者を務め、スポーツ施設の経営コンサルタントであるウィリアム・ビル・スクワイアー氏によれば、EWWSは世田谷区2つ分の大きさにあたる約220エイカー(約89万平方メートル)という極めて広大な敷地の中にあるという。バスケットボールのコート20面を備える室内競技用専用アリーナ3つ、陸上競技用トラック、約1万人収容スタジアムを含む野球・ソフトボール場11個、サッカー場17個、などさまざまな競技を行える環境が揃っている。スクワイア氏も「大規模トーナメントを一か所で完結できる。NBAにとってEWWSは最高の場所だったんだ」とそのメリットを語る。
筆者も昨年にEWWSを訪れる機会があったが、あまりの広大さに圧倒されたのを覚えている。
NBAがディズニーに便宜を図ったワケ
今回NBAが再開場所をEWWSに決定する前、フロリダ州ブレイデントンにあるIMGアカデミー、スポーツエージェンシーであるエンデバー社保有の施設、NBAのサマーリーグなども行われているラスベガスなども候補に挙がっていた。その後、安全性、選手にとって一定の娯楽を担保できるかという観点から、ラスベガスとEWWSの2択に絞られた。
そして、最終的に①施設内のクルーがディズニーレベルで素晴らしい、②選手やチームスタッフにとって全ての行事(食事、娯楽、宿泊他)をディズニー施設内で完結できる、③宿泊施設も最高レベルという3つの項目が決め手となり、EWWSに決定することになる。
ただ、実際にはもっと“大人の事情”も開催決定に影響があったのではないだろうか。
コラム第1弾で紹介した通り、NBAの主な収入源は放映権だ。2014年に締結した契約は9年総額240億ドル(約2兆5400億円)に上る。面白いのはその内訳で、最多額を支払っているのがディズニーなのだ。同社傘下のESPNとABC放映分で合わせて140億ドル(約1兆4700億円)と、NBAにとっては1番の“お得意様”と言っても過言でないだろう。
そのなかで、ディズニーは今回の新型コロナウイルスの世界的流行により、米国内のディズニー関連施設は全て閉鎖。最新の四半期決算で5000億円以上もの損失を被ったことを発表しており、経営面で苦戦を強いられていることが明るみに出ていた。
NBAとしては、ESPNは大のお得意様であり、2014年に大型契約を率先して締結してくれたことへの恩返しとして、キャッシュフロー難に陥っていたディズニーに便宜を図ったのではないだろうか。
ディズニーは今回NBAがEWWSでシーズンを再開してくれることによって、200億円以上とも言われる開催費を受け取れるだけでなく、全世界に自社の施設・運営がいかに安全かと言うのを見せつけられる絶好の機会なのだ。
さらにその先にある野望?
2017年にディズニー傘下に入ったESPNは、これまでケーブルTVの発展ともに成長してきた米国随一のスポーツ専門チャンネルだ。しかし、近年ケーブルTVが特に若年層を中心に衰退していることから、ESPNはテコ入れの一環として、18年に主にマイナースポーツや国際大会を扱うストリーミング専門サービスとなる「ESPN+」をローンチ。さらに、ESPNが多くの放映権を取り扱うことから、ディズニーは2019年から同じく同社傘下の「Hulu」でスポーツ中継を開始している。
つまり、ディズニーは近年、TVからストリーミングへ視聴者の趣向が移行してきているのを察知し、最も生放送コンテンツとして強いスポーツを核としたストリーミング強化戦略をとっている。そして、将来的にその中核になると思われるのがNBAなのだ。
NBAのアダム・シルバー・コミッショナーとディズニーのロバート・アイガー会長の親交が深いことからも、両社はもはや切り離せない間柄なのは明白。そのため、今回の開催場所決定も、実は最初から決まっていたのかもしれない。
余談だが、ディズニーは最近「Hulu」、「ディズニー+」、「ESPN+」という同社保有のストリーミングサービス3つをバンドルで契約することを視聴者に推し進めている。将来的にはスポーツコンテンツに限らず、「Netflix」を追い抜いてストリーミング界の覇者になろうとする野望が、見え隠れしているのだ。
たしかに再開後のNBAを見ていると、EWWSでの開催に何ら間違いはなかったと思うが、その判断の裏には大人の見えざる力学が働いていた可能性は高い。
現時点でNBAは来季以降の開催場所が決まっていない。EWWSが今季をきっかけに、さらにNBAとの関係を深めていくシナリオがあっても不思議ではない。
家徳悠介:「スポーツはヲタクに変えさせろ」をスローガンに、 ニューヨークをベースにスポーツビジネスコンサル、及びスポーツテクノロジー事業を行う「スポヲタ社」を経営。テクノロジーを活用して、よりスポーツを面白くする事を心掛ける。
(C)2020 NBA Entertainment/Getty Images. All Rights Reserved.
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