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名シリーズ誕生の予感?〜ラプターズ対セルティックス、プレイオフ初対戦〜【大柴壮平コラム vol.49】

NBA Rakuten / 2020年9月1日 18時20分

カンファレンス準決勝で対峙するセルティックスとラプターズ。シリーズの行方を占う


波乱の少なかった1回戦と比べると、イーストのカンファレンス・セミファイナルはどちらも予想の難しい好カードだ。とりわけ先行して始まったトロント・ラプターズ対ボストン・セルティックスのシリーズは、本国アメリカでも最終第7戦までもつれると予想する専門家が多い。そこで今週の当コラムは、名勝負となりそうなこのシリーズの注目ポイントを紹介しようと思う。


カワイ不在を感じるラプターズのオフェンス。プレイオフの舞台でステップアップするのは


ラプターズは言わずと知れたディフェンディング・チャンピオンだ。しかし、昨年のオフにエースのカワイ・レナードを失い、今シーズンはどこまでの成績を残せるか危ぶまれていた。蓋を開けてみれば、53勝19敗。優勝した昨シーズンを上回る勝率を記録し、ニック・ナースHCは最優秀コーチ賞に輝いた。一体どうやってカワイの穴を埋めたのだろうか。

オフェンスに関しては、カワイの穴を完全に埋め切れているとは言えない。100ポゼッション当たりの得点を示すオフェンシブ・レーティングは、112.6から110.8に落ちている。ガベージタイムの数字を除いたスタッツを提供するサイト『Cleaning The Glass』によれば、ラプターズのハーフコート・オフェンスは昨シーズンのリーグ8位から16位まで落ちており、カワイが去った影響が大きく出ている。一方でトランジション・オフェンスはリーグ2位につけており、昨シーズンの1位からは落ちたもののクオリティを保っていると言えるだろう。



オフェンスではカワイ不在の影響が出ている一方で、ディフェンスは質を高めることに成功した。昨シーズンは106.8で5位だったディフェンシブ・レーティングは、104.7で2位にランクアップ。大きく変えたのは3ポイントに対する考え方だ。3ポイントをある程度許容する代わりに、リム周りでは打たせないという“バックス方式”に変換したことが奏功した。昨シーズンのラプターズは相手チームの3ポイントを平均31.2本に抑えていたが、今シーズンは38.9本に増えている。その代わり、平均29.4本打たれていた制限エリアでのシュートを26.3本に減らしたのだ。

好成績でシーズンを終えたラプターズだが、ポイントはプレイオフで誰がカワイの代わりを務めるかだ。パスカル・シアカム、カイル・ラウリー、フレッド・バンブリートはプレイオフでも活躍できることを昨シーズン証明した。ただし、その活躍はファースト・オプションにカワイがいてのもの。プレイオフではペースが落ちる傾向があり、さらに接戦になれば終盤はタイムアウトで時間が止まる回数も多くなる。苦手とするハーフコート・オフェンスでステップアップできる選手の有無が、シリーズの趨勢を左右するだろう。


スモールラインナップへの転換が大成功したセルティックス


ディフェンディング・チャンピオンに挑むセルティックスは、オフに戦力の大幅な入れ替えがあった。バックコートからはエースのカイリー・アービング、シックスマンのテリー・ロジアーという2人のハンドラーが、そしてフロントコートからは大黒柱のアル・ホーフォードを筆頭にアーロン・ベインズ、マーカス・モリスという3人のビッグマンがチームを去り、新たにケンバ・ウォーカーが加入した。ケンバを獲得できたおかげでラプターズのような単純な戦力ダウンは回避できたものの、総合力では昨シーズンに劣るのではないか、という声がシーズン前は多かった。ところが、セルティックスもラプターズ同様、そんな下馬評を覆す素晴らしいシーズンを送った。

ホーフォード、ベインズ、モリスと優秀なビッグマンが一斉にチームが去ったことで、ブラッド・スティーブンスHCはスモールラインナップへの移行を決めた。186cmのケンバ、201cmのジェイレン・ブラウンとゴードン・ヘイワード、203cmのジェイソン・テイタムとダニエル・タイスが並ぶスタートは、スモールが流行しているリーグにあっても最も小さい部類に入る。しかし、結果的にこのスモールラインナップが大成功となった。オフェンシブ・レーティングは昨シーズンにリーグ10位だった111.3からリーグ4位の112.8に上昇した。スモールラインナップの特徴であるスペースの広さを有効に使い、ケンバ、テイタム、ヘイワード、ブラウン、そしてベンチからはマーカス・スマートが持ち前のプレーメイキング能力を遺憾無く発揮。特にテイタムはプルアップからの3ポイントを劇的に改善し、オールNBAクラスのフォワードへ進化した。



スペーシングというオフェンスにおける優位性と引き換えに、ディフェンス面でのサイズ不足が懸念されるスモールラインナップだが、今シーズンのセルティックスはディフェンシブ・レーティングもリーグ4位の106.5と素晴らしい数字を残している。キーマンはタイスで、ホーフォードというリーグ有数のビッグマンが抜けた穴を感じさせない活躍を見せている。また、スモールラインナップにした効果か、セルティックスのトランジション・ディフェンスは、昨シーズンのリーグ7位からリーグトップに向上した。

そんなセルティックスの注目ポイントは、層の薄さだ。シーズン中のベンチ・スコアリングはリーグ29位の28.5点。その上1回戦でヘイワードが負傷し、シックスマンのスマートがスタートに昇格した。第1クオーターの頭、第3クオーターの頭、第4クオーターの最後は出るメンバーが決まっている。それ以外の時間をどのように繋ぐかが、セルティックスの課題となる。


名将同士のアジャストメント合戦になる


日本時間8月31日に行われた第1戦は、112対94でセルティックスが圧勝した。まず注目したいのが、セルティックスの3ポイントだ。39本中17本の成功で確率は43.6%だった。ラプターズのある程度3ポイントを打たせるという戦略は、セルティックスのスモールラインナップと相性が悪いように見える。さらに問題なのは成功した17本のうち、コーナースリーが10本を占めているという点だ。試合前にスティーブンスHCはアイソレーションに頼らずボールムーブを意識したい旨の発言をしていたが、的確なボールムーブから大量のコーナースリーが生まれ、名将の思惑通りとなった。

次に、トランジション・オフェンスの得意なラプターズとトランジション・ディフェンスの得意なセルティックスという視点で見ると、なかなか興味深い数字が出ている。セルティックスはシーズン平均のターンオーバーが13.0で、リーグで8番目に少ない。そのセルティックスに23ターンオーバーさせたという点においてはラプターズのディフェンスは成功しているのだが、ラプターズがそのターンオーバーを得点に繋げることができたのはたった13点。ラプターズはトランジションからの得点を増やすことができるのか、それともセルティックスが先にターンオーバーを修正するか。第2戦に注目したい。



現時点でラプターズにとって最も深刻なのは、カワイの代わりにゴー・トゥー・ガイになれる選手が見つからないことだろう。アテンプト数で言えばシアカムとバンブリートが共にチーム最多の16本を記録したが、それぞれ13点、11点と冴えない数字に終わっている。特にシアカムはサイズのミスマッチがあるブラウン相手に何度もポストアップしており、ナースHCからの信頼が感じられた。ポストアップという手段自体はあまり有効には見えなかったが、果たして彼の得点能力を活かす別の方法を見つけることができるだろうか。それとも他の選手がステップアップするか。これもこのシリーズを決めるポイントになるだろう。

下位シードのセルティックスが初戦を大勝したことで、このシリーズは一段と楽しみになった。上位シードのラプターズの方が第2戦へのアジャストメントを求められるからだ。両チームの実力差が少ないこのシリーズは、名将同士のアジャストメント合戦になると私は考えている。シリーズ開戦前、私は4勝3敗でラプターズ勝利と予想した。アジャストメントの応酬になった場合、選手層の厚いラプターズの方が有利だと判断したからだ。極端な話、マルク・ガソルとサージ・イバカを並べてビッグに移行することもできれば、シアカムをセンターにしてスモールにすることも考えられる。私の当たらない勝敗予想はともかく、第7戦までもつれるという予想だけは当たってもらいたいものだ。名シリーズ誕生を期待している。


大柴壮平:ロングインタビュー中心のバスケ本シリーズ『ダブドリ』の編集長。『ダブドリ』にアリーナ周りのディープスポットを探すコラム『ダブドリ探検隊』を連載する他、『スポーツナビ』や『FLY MAGAZINE』でも執筆している。YouTube『Basketball Diner』、ポッドキャスト『Mark Tonight NTR』に出演中。




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