アンチ・レイカーズよ震えて眠れ。アンソニー・デイビスのキャリアを変えるワンショット【大柴壮平コラム vol.52】
NBA Rakuten / 2020年9月24日 14時11分
カンファレンス決勝第3戦で、劇的なブザービーターを決めたアンソニー・デイビス。レブロン・ジェームズとともにレイカーズを牽引する彼のキャリアを辿る
日本時間9月23日、ウェストのカンファレンス決勝第3戦が行われ、114-106でデンバー・ナゲッツが勝利した。現在ロサンゼルス・レイカーズが2勝1敗でナゲッツをリードしているが、第2戦の劇的な勝利がなければ両チームの立場は逆になっていたはずだ。今週は、レイカーズに貴重な1勝をもたらすブザービーターを決めた男、アンソニー・デイビスに注目する。
ドラ1の期待に違わぬ活躍、3年目にチームをプレイオフへ
アンソニー・デイビスは2012年にいわゆる「ワン・アンド・ダン(規定年齢に達するのを待つため1年だけ大学でプレイすること)」でNBA入りした。ケンタッキー大学での成績はなんと平均14.2点、10.4リバウンド、4.7ブロック。素晴らしいスタッツを残しただけでなく、NCAAトーナメントでチームを優勝に導くなど、大活躍の1年だった。ドラフトでは当然の如く全体1位指名を受け、ニューオーリンズ・ホーネッツ(現ペリカンズ)に入団した。
当時のホーネッツは、2011年にクリス・ポールをトレードして以来ドアマット・チームと化していた。若きデイビスにかかる期待は大きかったが、彼はよくそれに応えた。1年目は新人王こそデイミアン・リラードに譲ったものの、平均13.5点、8.2リバウンドを挙げてオールルーキー・ファーストチームに選出される。翌年にはペリカンズという名前に生まれ変わったチームの顔として大活躍。初のオールスター出場を果たし、2年目にしてまさにフランチャイズ・プレイヤーとなった。
3年目もデイビスの成長は止まらなかった。平均24.4点、10.2リバウンド、2.2アシスト、2.9ブロックを挙げてオールNBAファーストチームに選ばれると、デイビスの大活躍に引っ張られたチームも4シーズンぶりのプレイオフ出場を果たした。プレイオフではこの年王者となるゴールデンステイト・ウォリアーズに1回戦でスウィープ負けを喫するが、「ペリカンズはこれから強くなる」という印象をリーグ中に植え付けるシーズンとなった。
また、初めてプレイオフに出た3年目、デイビスはキャリアのハイライトに残るショットを決めている。2015年2月6日に行われたオクラホマシティ・サンダー戦でのこと。残り1.2秒、3ポイントラインからおよそ1.6メートル外でボールを受けたデイビスは、ブロックにきたケビン・デュラントをダブルクラッチ気味に空中で交わし、決勝弾を沈めてみせたのだ。数字やアウォードだけではなく、この時たしかにデイビスはスーパースターへの道を歩んでいた。
デイビスがいるのに勝てないジレンマ
しかし4年目の2015-16シーズン以降、デイビスとペリカンズは失速してしまう。3年目でチームをプレイオフに導いたデイビスだが、その後ペリカンズがプレイオフ出場を達成したのはたったの1回。デイビスはペリカンズ在籍7シーズンで2回しかプレイオフに進めなかったのだ。その間、ドラフト同期のデイミアン・リラードは6回、ブラッドリー・ビールは4回プレイオフを経験している。個人としてはリラードやビールより優秀だと評価されるデイビスが、なぜチームに勝利をもたらせなくなったのだろうか。
ペリカンズが希望に満ちていたデイビス在籍3年目の2014-15シーズン、優勝したのはペリカンズを倒したウォリアーズだったと書いた。ドン・ネルソン、マイク・ダントーニといった鬼才が採用し、徐々にスモール・ラインナップの効力が認められていたが、このウォリアーズの優勝で一気にリーグのトレンドがスモール・ラインナップ、そしてペース&スペースへと流れていった。ペリカンズもいち早くその流れに乗ることを決断。当時ウォリアーズでアシスタント・コーチをしていたアルビン・ジェントリーをヘッドコーチに招聘した。
結果的にはこのジェントリー招聘が失速の原因となった。あの時点でジェントリーをヘッドコーチにした球団の意図はよくわかる。ジェントリーはウォリアーズでの優勝経験だけでなく、ダントーニの下で働いたこともあり、当時彼ほどスモール・ラインナップ、そしてペース&スペースを知り尽くした人材はいなかったからだ。しかし、誤算だったのはデイビスがセンターをやりたがらなかったことだった。ペース&スペースを実現するには、パワーフォワードにもある程度3ポイントが打てること、そしてある程度のプレイメイク力が必要条件だった。ところが、当時のデイビスにはそのどちらもなかった。3ポイントはたまに放り、たまに入った。高校時代ガードをやっていたという割には、3ポイントラインの外からドリブルでプレイメイクする力も無かった。ペース&スペースを志向する上で当時のデイビスを活かすならセンターに置くしかなかったのだが、当の本人がそれを嫌がったために計画は破綻した。
ジェントリー体制初年度は古典的センターのオマー・アシクをデイビスの横に並べたが、前年度から勝ち星を15も落とす大失敗となる。2年目の2016-17シーズンは、トレードデッドライン直前に若手シューターのバディ・ヒールドや指名権を放出してまで、オールスターセンターのデマーカス・カズンズを獲得。翌2017-18シーズンが、デイビス率いるペリカンズが最後にプレイオフ出場を果たしたシーズンだ。このシーズンは、オールスターブレイク前にカズンズがアキレス腱断裂の重症を負い、残りの試合を全休することになった。その結果、デイビスがセンターにスライド、隣にストレッチ4のニコラ・ミロティッチを置いたことでようやくジェントリーのスタイルが機能するという、なんとも皮肉なシーズンだった。
デイビスとレイカーズがあのブザービーターで得たもの
結局勝てないペリカンズに愛想を尽かす形でデイビスがチームにトレードを要求、レイカーズ移籍にいたったことは記憶に新しい。レイカーズは見返りとして大量の指名権とブランドン・イングラムら有望な若手を失ったが、結果的にはそれだけのものを手放す価値があったと言える。史上最高のオールラウンダー、レブロン・ジェームズと現役最高のフィニッシャー、アンソニー・デイビスの融合は想像を遥かに超える破壊力を持っていた。シーズンをウェスト1位の勝率で終えると、プレイオフでも1回戦、カンファレンス準決勝ともに4勝1敗の圧勝で通過した。
しかし、先週のコラムでも書いた通り試合内容は成績ほど盤石に見えないのが今シーズンのレイカーズの特徴だ。苦手なハーフコート・オフェンスに改善が見えない。終盤に接戦となればタイムアウトで試合が止まる数は多くなる。必ずハーフコート・オフェンスを成功させなければならないポゼッションが出てくるが、レブロン1人の超人的な能力でどうにかするのだろうか。それともこのまま接戦せずに圧勝し続けるつもりなのだろうか。私はそんな疑問を持っていた。
第2戦のゲーム・ウィナーは、これまでのデイビスのキャリア、そして今シーズンのレイカーズに対する疑問への解答と言える一撃だった。デイビスがセンターを嫌がっている中、時代はパワーフォワードに3ポイントとゲームメイクを求めた。そして今ではバスケの進化がさらに進み、多くのセンターが3ポイントを打つ時代に入った。時代に遅れながらも地道に3ポイントを改善し続けたデイビスは今シーズン、キャリアハイの平均3.5本を試投、プレイオフに入ってからは試投数こそ減っているものの成功率を4割まで上げている。おそらくフォワードへのこだわりから必死に習得しただろう3ポイントシュートにより、今彼はリーグで唯一ニコラ・ヨキッチと渡り合えるトップ・センターへと変貌した。もちろんデイビスがフォワードでプレイしている時間も多いが、おそらくこれからもクラッチタイムでは彼がセンターを務めるだろう。
そしてこの一撃がレイカーズにもたらした影響も大きい。レイカーズが抱えるハーフコート・オフェンスの問題は、システムや精度もさることながらタレント不足が深刻だった。ラジョン・ロンドは手詰まりの場面で自分では打開できない。終盤に信頼できるプレイメイカーはレブロン1人だ。いくらレブロンが優秀でも、相手チームからすればそこだけ抑えればいいのだから守りやすい。しかし、デイビスが接戦の終盤で自信を持って3ポイントを打ってくるとなれば話は別だ。NBAの進化に淘汰されて、昔ながらのシューターは激減している。そんな中で生き残っているのはJJ・レディックのように流れながらでも打てるシューターか、バディ・ヒールドのようにドリブルからも打てるシューター、もしくはダービス・ベルターンスのようにサイズがあって動けるシューターだ。デイビスの身長はベルターンスと同じ208cmだが、ウイングスパンは遥かに長い227cm。デイビスに少しでもスペースを与えたらシュートチェックすることは難しい。なにせ7フッターのヨキッチすら届かなかったのだ。
バスケ用語で「グラビティ(引力)」という言葉がある。ディフェンスを引き寄せる力のことを指す。レブロンならプレイメイク力と巨大なグラビティの両方を持っている。ロンドならグラビティはないがプレイメイク力はある。ダニー・グリーンなら3ポイントラインの外でグラビティを持っている。そんな風に使う言葉だ。元々デイビスは3ポイントラインの内側でレブロン並みに巨大なグラビティを持っていた。しかし、劇的なブザービーターがナゲッツの面々の脳裏に焼き付いている今、そのグラビティは3ポイントラインの外まで拡がっている。デイビスをより多くのパターンでデコイ(おとり)にもフィニッシャーにもできるのだから恐ろしい。ひょっとしたら、あの一撃がクラッチタイムのハーフコート・オフェンスというレイカーズ最大の弱点を消してしまったかも知れない。レアル・マドリードのルイス・フィーゴ獲得以来スター軍団が苦手な私は、立派なアンチ・レイカーズだろう。そんな私はしばらく震えて眠る日々を過ごすことになりそうだ。
大柴壮平:ロングインタビュー中心のバスケ本シリーズ『ダブドリ』の編集長。『ダブドリ』にアリーナ周りのディープスポットを探すコラム『ダブドリ探検隊』を連載する他、『スポーツナビ』や『FLY MAGAZINE』でも執筆している。YouTube『Basketball Diner』、ポッドキャスト『Mark Tonight NTR』に出演中。
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