NBAファイナルはレイカーズが初戦を圧勝。ヒートにアンソニー・デイビスを止める術はあるのか【大柴壮平コラム vol.53】
NBA Rakuten / 2020年10月2日 15時0分
ついに幕を開けたNBAファイナル2020、第1戦はレイカーズが勝利した。第2戦の行方を占う
日本時間10月1日、NBAファイナル2020第1戦が行われ、116-98でロサンゼルス・レイカーズがマイアミ・ヒートに勝利した。点数、内容ともに圧倒的な差のついた初戦となったが、ヒートに巻き返しのチャンスはあるのだろうか?
ファイナルは異なる個性のぶつかりあいに
ウェスト1位シードでプレイオフに乗り込んだレイカーズは、1回戦からカンファレンス決勝までを全て4勝1敗と圧倒的な強さで勝ち上がってきた。一方のヒートはイースト5位シードながらバブル内で新たなローテーションを確立することに成功。優勝候補の一角だったミルウォーキー・バックスを含む上位シード勢を次々と破り、ファイナルに勝ち進んだ。
カンファレンス決勝までの成績は互いに12勝3敗と互角の両チームだが、チームとしての個性は大きく異なる。レブロン・ジェームズとアンソニー・デイビスという2人のスーパースターを擁するレイカーズは、サポーティング・キャストにディフェンスのできるメンバーを揃えることで堅守速攻のチームを作り上げた。ハーフコート・オフェンスが課題とされているが、レブロンとデイビスで相手の弱点を徹底的に突く頭脳的なプレイでここまでのラウンドは乗り切ってきた。
ヒートは前述の通り、バブル内でほぼ新しいチームに生まれ変わった。開幕時のスタートで今シーズン51試合に出場したマイヤーズ・レナードをローテーションから外し、バム・アデバヨの隣に本職はスモールフォワードのジェイ・クラウダーを並べるスモール・ラインナップに変更。新型コロナウイルスに罹患して出遅れたケンドリック・ナンの代わりにスタートに昇格したゴラン・ドラギッチが、広がったスペースを前にオールスター時代に戻ったかのような復調を見せた。さらに中断期間がタイラー・ヒーローやダンカン・ロビンソンといったキャリアの浅い選手の成長を促したことが重なり、アウトサイド主体の現代バスケの申し子のようなチームへ変貌した。
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率直に言って、このシリーズを予想するのは難しかった。2チームの特徴の違いがどちらに有利に転ぶのかわからない。それに加えてヒートがバブルで急にローテーションを変えたので、レギュラーシーズンの試合が参考にならない。あくまで妄想だけが頼りだ。デンバー・ナゲッツ戦で活躍したドワイト・ハワードは、ヒートのスモール・ラインナップにディフェンス面で対応できないのではないか。アンソニー・デイビスがセンターになればリム・プロテククションが弱くなり、ヒートお得意のバックドアを止めることができないはずだ。それにヒートにはゾーンディフェンスがある。セルティックスよりシュート力のないレイカーズがゾーンを攻略できるようには思えない。バム・アデバヨが出ていない時間帯をなんとかできればヒートが勝つだろう。そんなことを考えながら、私は4勝1敗でヒートの優勝を予想した。
圧倒的な存在感を見せたデイビス
結果から言うと第1戦はレイカーズの圧勝となったが、私が戦前に考えたポイントが実際の試合でどうなったか振り返ろう。1つ目のポイント、ハワードがディフェンス面でスモール・ラインナップに対応できるかという問いの答えは、イエスでありノーである。第1クォーターの開始直後からヒートはジミー・バトラーとアデバヨ、ドラギッチとアデバヨのピック&ロールとハンドオフで23-10と優勢に試合を進めた。もちろんターゲットにされたのはハワードだ。この時間帯、私の読みは当たっているように思えた。
しかし、第3クォーターは様相が一変した。ハワードがプレイした8分半、今度はレイカーズが24-13と試合をリードしたのだ。理由は単純で、ヒートのトップスコアラーたるドラギッチが第2クォーターの途中に左足底筋膜を断裂し、後半コートに戻ることができなかったから。代打に指名されたのはヒーローだったが、残念ながらドラギッチのようにはハワードを攻めることができなかった。ハワードを攻めきれないとなると、今度はレイカーズ側が高さのアドバンテージを使えるようになり、試合の趨勢が第3クォーターに決することになった。ドラギッチが怪我から戻ってくるか、ヒーローがリズムを掴むか、もしくはこの試合の後半久々に長めのプレイングタイムをもらったケンドリック・ナンがチャンスを活かすか。そうでなければ第2戦以降もハワードがゴール下で暴れることになるだろう。
2つ目のポイント、デイビスがセンターの時間帯にヒートが得意とするバックドアをレイカーズが防げるかの答えは、イエスだ。デイビスがセンターを務める時間帯も、ヒートはアデバヨをボールに絡ませる戦術を取った。しかし、ピック&ロールに対してもハンドオフに対してもデイビスの対応は素晴らしく、ヒートはバックドア云々の前に上手くディフェンスを崩せない状況に陥ってしまった。さらにデイビスとレブロンがともに出る時間帯は、レブロンがリムプロテクターとしても機能。ディフェンシブ・レーティング1位のバックスを破ったヒートのオフェンス力をもってしても、今のレイカーズのディフェンスを崩すことは容易ではなさそうだ。
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デイビスがセンターの時間帯は、オフェンス面の質も高かった。ヒートはデイビスにダブルチームする戦術を取ったが、デイビスはそれを読んで的確にパスをさばいていた。レイカーズは3ポイントが苦手でシーズン中は平均31.6本のアテンプトで平均11.0本の成功(ともにリーグ23位)という数字を残しているが、この試合は38本の3ポイントのうち15本を成功させた。もちろんシリーズの中でシュートの入る日、入らない日はあるだろうが、デイビスの的確なパスとシューター陣の強気な姿勢はヒートにとって悩みの種になるだろう。
名将スポールストラに策はあるのか
3つ目のポイント、ヒートのゾーンディフェンスについてはサンプル数が非常に少ないものの、レイカーズが苦にしている様子は見えなかった。ボストン・セルティックスと同じボールマンへのスクリーンから崩すやり方でも、ハンドラーがレブロンでフィニッシャーがデイビスだとより効果的に見える。ヒートのゲームプラン通りに進まなかったことや故障者が発生したことでゾーンディフェンスの回数が減ったのか、それとも早い段階でレイカーズ相手にはゾーンが効かないと判断したのか。エリック・スポールストラHCが、第2戦以降もゾーンディフェンスを使うかどうか注目だ。
4つ目のポイント、アデバヨがいない時間帯をヒートがどう凌ぐかだが、現在のところ答えは無さそうだ。アデバヨがいる時間帯すらデイビスを止めることはできなかった。いない時間帯が尚更厳しかったのは言うまでもない。ヒートにとっては弱目に祟り目で、頼みの綱のアデバヨが首の左側を痛めてしまい、第3クォーターの途中で退場して以降試合に戻ることができなかった。仮にアデバヨが数試合欠場、もしくはミニッツ制限となった場合、代わりにアンドレ・イグダーラを起用するか、それとも第1戦の後半のようにケリー・オリニクを起用するか、はたまたマイヤーズ・レナードを試してみるか。いずれにせよアデバヨを欠いたままレイカーズに勝つ確率はかなり低い。無事に戦線に戻ってきてくれることを祈っている。
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戦前に私が注目したポイント以外で特筆すべきは、やはりレブロンの活躍だろう。元々試合巧者だが、今シーズンはさらに磨きがかかっている感がある。ヒーロー、オリニクが出ている時間帯にレブロンがスイッチを強要して2人を攻め続けたのは効果的だった。特にバブル以降ヒートのキープレイヤーに成長したヒーローが波に乗れなかったのは、ディフェンスでレブロンに的にされてリズムを崩したのが原因のように見えた。ドラギッチが故障した今、ヒートとしてはヒーローの得点に期待せざるを得ない状況だ。今後もレブロンはヒーローを狙うだろうが、ヒーローがそれに左右されずにオフェンスに集中できるかどうかがシリーズの鍵になるだろう。
下位シードのヒートに怪我人が続出したことで、ファイナルはレイカーズ圧勝の可能性も出てきた。負傷したドラギッチ、バトラー、アデバヨの誰が欠けてもヒートにとっては大きな痛手だ。プレイオフに入り、スポールストラHCの采配は冴えに冴えていたが、ロスターが欠けてはアジャストのしようもない。まずは3人の1日も早い回復を願うばかりだ。怪我人が戻ってくると仮定しても、ヒート側にはデイビスを抑えるという難しいミッションが待っている。第2戦でもダブルチームを読まれて崩されるようなら、何かドラスティックな方針転換をする必要に迫られるだろう。例えばファウルトラブルを恐れずに序盤からアデバヨをデイビスに付け、シングル・カバレージ(注:ダブルチーム無し)で対応するなど、ある程度リスクを冒した戦術を採ることも考えられる。ヒートにとっては大きな課題を突きつけられた第1戦で、名将スポールストラをもってしても解を出すのは困難に見える。とは言え混迷を極めた2020年のこと、もう一波乱あってもおかしくはないと密かに私は思っている。
大柴壮平:ロングインタビュー中心のバスケ本シリーズ『ダブドリ』の編集長。『ダブドリ』にアリーナ周りのディープスポットを探すコラム『ダブドリ探検隊』を連載する他、『スポーツナビ』や『FLY MAGAZINE』でも執筆している。YouTube『Basketball Diner』、ポッドキャスト『Mark Tonight NTR』に出演中。
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