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チェルシー・浜野まいかが日本人初のWSL王者に。女子サッカー最高峰の名将が授けた“勝者のメンタリティ”とは?

REAL SPORTS / 2024年5月31日 2時30分

女子サッカー最高峰のイングランド・女子スーパーリーグ(WSL)で、チェルシーFCウィメンが5連覇を達成した。強豪国のスウェーデンやアメリカ、カナダ、イングランド、ドイツ、フランス、オーストラリアなど、14カ国から代表選手が集まる常勝軍団で、20歳の浜野まいかは日本人選手初のWSLタイトルを掲げた。スウェーデンのハンマルビーIFへのレンタル移籍から復帰した今季は、ケガからのリハビリを乗り越え、6試合に出場して2ゴール。チェルシーを率いた13年間で11個のタイトルを獲得した名将エマ・ヘイズ監督が、浜野に授けた“勝者のメンタリティ”とは?

(インタビュー・構成=松原渓[REAL SPORTS編集部]、写真=REX/アフロ)

どん底からの逆転優勝「優勝にふさわしいチームだと思う」

――女子スーパーリーグ(WSL)優勝おめでとうございます。優勝後の金の紙吹雪に埋もれてチームメートと喜び合う姿が公式アカウントで拡散されていました。まず、タイトルを掲げた率直な思いを聞かせてください。

浜野:率直に、うれしい!という気持ちが一番でした。リバプールに負けて、「もう優勝は無理かもしれない」とチームがどん底に落ちたところから、その後に(優勝を争った)マンチェスター・シティの負けもあったり、何が起こるかわからないシーズンでした。自分自身は前半戦はケガで試合に関われなかったけど、戦いをずっと近くで見てきた中で、やっぱり優勝にふさわしいチームだなと心から思いました。

――最終戦の一つ前のトッテナム戦で、浜野選手の決勝点が逆転優勝を後押ししました。ファーサイドから長い距離を走って決めたあのゴールを振り返ってもらえますか?

浜野:チェルシーは、攻撃面でも守備面でもやらないといけないことが本当に多くて、あのプレーもその一つでした。守備でやることも多かったので、攻撃に切り替わって、あの瞬間は本当にあそこに走りこむ時に「行かないと、行かないと!」という思いしかなくて。ロンドンダービーでしたし、前半から肉体的にも精神的にも結構きつくて、ちょっと呼吸が苦しくなるような感じだったんですが、決めることができて良かったです。

――チームメートからはどんな声をかけられましたか?

浜野:みんなから、「自分が点を決めてチームを勝たせた初めての試合がトッテナム戦で良かったね」と言われました。ただ、自分が決めてうれしいというよりは、とりあえず「勝てて良かった」という安心感の方が本当に大きかったです。喜びたくても、息が上がっていたので喜べないのもありました(笑)。

リハビリと葛藤の日々。「チェルシーの一員と言っていいのかわからなかった」

――チェルシーとの4年半契約と、スウェーデンのハンマルビーIFへのレンタル移籍が発表されたのは2023年1月。その後、ハンマルビーでは22試合で11得点と新天地ですぐに適応し、イングランドではフィジカル面でもさらに強さを増したように感じます。この1年数カ月の自分の成長をどのように感じていますか?

浜野:「まだ1年しか経ってないんだ」と思うくらい、もう日本からずっと離れて生活しているような気がします。速い選手とプレーしていると、自然と力が引き出される部分があるし、フィジカル面では海外で本当に成長した実感があります。フィジカルにはメンタルの要素も含まれると思っていて、前はフィジカルに自信がなかったから、体をしっかり当てて入れなければいけない場面でも「相手が大きくて負けるかもしれない」と思って逃げていた部分がありました。(2022年の)U-20のワールドカップの時も、なるべくフィジカルでは戦わないようにしていたんです。でも、なでしこジャパンに入って世界で勝つことを目指すんだったら、そこで逃げていたら話にならないと思いました。そういう面では戦えるようになったと思うし、チェルシーではハンマルビーの時よりもプレーの強度が上がったと思います。

――レンタル移籍から2023年9月にチェルシーに復帰して、同年12月17日のブリストルシティ戦でデビューするまで、左肩のリハビリをしながら復帰を目指していた期間はどんな思いがありましたか?

浜野:自分と向き合う時間だなと思っていました。最初に海外に出てハンマルビーに合流した時は、初日からみんなとサッカーができたんです。サッカーって、最初は言語を使わなくても、ゲームの勝ち負けとかで盛り上がれるし、一緒にボールを蹴ることで心が通じ合うじゃないですか。でも、チェルシーに合流した時は「ただアイシングをしてる人」って感じだったから、みんなと一緒に練習ができなくて。別メニューでジムを使うから、練習時間もちょっとズラされたりして、チェルシーの一員だけど、「一員って言ってもいいのかな?」という感じがずっとありました。

原動力になった思い「苦しいことは、数カ月後には学びになる」

――苦しい3カ月だったのですね。どんなことが逆境を乗り越える原動力になったのですか?

浜野:INACでプレーしていた時に、試合に出られない期間が長かった時は本当に苦しかったんですけど、一つのプレーで評価が変わることを痛いほど知りました。その後のU-20ワールドカップでは主力として出られたので、「もう絶対にベンチには戻りたくない」と思っていたんです。そのワールドカップで、INACで学んだことを教訓にできたので、「苦しいことは、数カ月後には学びになる」と思えるようになったのは大きかったです。

――その成功体験が糧になっているんですね。チェルシーでのデビュー戦はうれしさもひとしおだったのでは?

浜野:そうですね。ただ、そのブリストル戦の前に、チェルシーレディースU-21で試合に出させてもらい、その復帰戦でロングシュートを決めることができたんです。その試合後に監督のエマ(・ヘイズ)がインタビューで、「マイカを次の試合でメンバーに入れるかもしれない」と言っていたらしいんですが、インタビューを見ていなくて(苦笑)。その時はまさかメンバー入りするとは思っていなかったので、前日移動の時に荷物を持って行っていなかったんです(苦笑)。

――あららら……。なんとかなったんですか?

浜野:全部、借りて試合に出ました(笑)。デビューできたのはうれしかったです。

――ただ、その後もコンスタントに出場できていたわけではなく、悔しさもあったと思います。出場機会を求めるために、またレンタル移籍というような選択肢はよぎらなかったですか?

浜野:それはなかったです。エマがチェルシーで指揮を執る最後のシーズンだと分かっていたから、「この人から学べることはすべて学びたい」と思っていたし、いつかチャンスあると信じて頑張っていました。試合ではベンチも含めて、20人が選ばれるんですが、誰がメンバー入りするか、前日のギリギリまで分からない試合もあるので、まずはメンバーに入れるように頑張ろうと思えました。

――チェルシーでも苦しい時を乗り越えて、最後にタイトルが待っていたんですね。

浜野:そうですね。お腹が空いている時に食べるチョコレートがすごくおいしく感じるように、苦しい期間が長い時ほど、うれしいことがあった時に倍増するんだと、今回も学びました。

名将・エマ・ヘイズが示したメンタリティ「チェルシーはミスが許されないマシーン」

――チョコレートのたとえは実感がこもっていますね(笑)。最終的に、今季は6試合出場2ゴールという結果でした。どう振り返りますか?

浜野:まずエマ(・ヘイズ)という監督に関われたことは本当に幸せ者だなと思います。その他のスタッフ全員とチームメイト、今シーズン限りでチームを去る選手からもたくさんのことを学ばせてもらいました。

――エマ・ヘイズ監督はチェルシーでは11年間で13個のタイトルを獲得して、来季からはアメリカ女子代表監督就任が決まっています。インタビューでは「マイカはチェルシーの未来だ」と期待を語ったこともありますが、彼女の言葉で印象に残っていることはありますか?

浜野:エマのメンタリティが、チェルシーのメンタリティそのものだと思います。パイロットって、失敗できないじゃないですか。失敗したら乗客全員が死んでしまいますから。それと同じで、エマは「チェルシーはミスが許されないマシーンだ」と言い続けていて。全員がその意識でプレーしていたと思うし、「負けられない」ではなくて「負けるべきじゃない」と思わされました。

――その覚悟が常勝軍団を支えているのですね。浜野選手が出場した試合は、強度の高い中でもボールを前に運ぼうとする姿勢が印象的でした。メンタルの変化はプレーにもいい影響があったんじゃないですか?

浜野:そうですね。これまでは「一つ一つのプレーを大切にする」と言いつつ、できていなかったと思います。これはいいのか悪いのか分からないですけど、相手にボールを奪われていなくても、判断のミスで落ち込んでしまう部分は今もあります。

――以前は負けた試合や、点が取れなかった時に悔し涙をよく流していましたよね。そういう部分でも、変化はあったんですか?

浜野:サッカーはチームスポーツで、一人の責任で勝ったり負けたりするものではないと思います。でも、以前は「自分が活躍して、点を決めたりアシストしたりしてチームを勝たせたい」と思っていたんです。その思いは今でもありますけど、チェルシーではフォワードではなく、サイドのポジションでプレーすることが多いので、「チームが勝つために自分がどうあるべきか」というふうに考えるようになりました。

――それは大きな変化ですね。

浜野:以前は点を取ることだけが評価につながると思っていましたが、自分が出て、どのような形でもチームの勝利に関われたら、それも評価につながると思えるようになりました。だから、チームが勝つためのサッカーをできるようになったと思うし、去年までに比べてメンタルは強くなったと思います。

【後編はこちら】イングランド5連覇女王・チェルシーで浜野まいかが描く成長曲線「無意識のゾーンからプレーが出てくるように」

<了>

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[PROFILE]
浜野まいか(はまの・まいか)
2004年5月9日生まれ、大阪府出身。女子サッカーのイングランド1部(女子スーパーリーグ)・チェルシーFCウィメン所属。セレッソ大阪堺レディース(現・セレッソ大阪ヤンマーレディース)のアカデミーを経て、2021年にINAC神戸レオネッサに史上最年少のプロ契約で移籍。2022年夏のFIFA U-20女子ワールドカップコスタリカ大会で、6試合4得点1アシストを記録し、日本の準優勝に貢献、大会MVPを受賞した。2023年1月、チェルシーと4年半契約を締結。スウェーデン1部のハンマルビーIFにレンタル移籍したが、同年夏のFIFA女子ワールドカップ前に左肩を負傷。9月にチェルシーに復帰してリハビリを続け、12月にチェルシーでデビューを飾った。シーズンを通して6試合に出場、2ゴールを挙げてWSL5連覇に貢献。動き出しの速さと駆け引きのスキル、シュートセンスを武器に、世界最高峰の舞台で成長を続けている。

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