試合に出られない時期、選手はどうあるべきか? 岡崎慎司が実践した、成長するための「自分との向き合い方」
REAL SPORTS / 2024年6月10日 2時27分
どんなに優れた選手でも、すべての試合に出続けて、誰しもを納得させる最高のプレーをし続けられるわけではない。その舞台が欧州リーグであればなおさらだ。ドイツ、イングランド、スペイン、ベルギー……欧州各国を渡り歩いて14シーズンにわたってプレーを続けた岡崎慎司。彼だって「試合に出られない時期」を経験している。世界が認めた日本人ストライカーは、どのように自分と向き合い、自身を高め続けて、「大器晩成」をなし得たのだろうか。
(インタビュー・構成=中野吉之伴、写真=ムツ・カワモリ/アフロ)
チームのためのプレーと自分のプレーのバランス
先日現役選手としてのラストマッチを終えた元日本代表FW岡崎慎司は、ドイツに来たばかりのシュツットガルト時代に「自分はまだまだ大器晩成だと踏んでる」ということをよく口にしていた。自分への確固たる自信がその言葉に込められているのだと当時は思っていた。もちろんそれもあっただろうが、本人には別の思いもあったのだという。
「だから、というのはありましたね。あまりうまくいっていなかった時期だから、少し無理やりにでも『自分は大器晩成』と言い続けて、『俺はもっとできるんだ、こんなもんじゃない。試合に使ってもらえたらもっとやれる』と自分を奮い立たせるために口にしていたかもしれないですね(笑)」
あれから時は立ち、岡崎はさまざまな記録と記憶に残るプレーで、それぞれの所属クラブで結果を残してきた。マインツでは初年度に日本人5大リーグ最多となるシーズン15点をマーク。翌年も12ゴールを挙げて2年連続2桁得点を達成。レスターではイングランド・プレミアリーグで誰もが驚くセンセーショナルな優勝に貢献。ウエスカとともにスペインリーグ1部昇格。他にも数多くの記録を打ち立てている。
シュツットガルト時代に、「監督にはシンプルにプレーして、つないで、クロスをするというプレーを求められて、自分はそれを体現した。でもそれだけじゃダメ。やっぱりどっかで目立たないと」というコメントを残している。とはいえエゴプレーばかりだと、そもそも出場機会を得ることもできない。
チームのためのプレーと自分のプレーのバランスにおいて、どのように折り合いをつけていたのだろう?
「周りが見えないくらいエゴを出してやっちゃうと後で反省はする。でもそれってやってなかったら反省には至らないんですよね。エゴを出してめちゃくちゃなミスや失敗をすることもあるんですけど、その後で落ち着きと反省を手にできる。例えば『あ、やっぱりこういうふうに焦ってやっちゃうと、こういうふうになるんだ』って。メンタルが追いついてくるみたいな感じ。まずは目の前が見えないぐらい必死にゴールを取りにいってみないと、そこで冷静になれないというか、気づけなかったこともあったと思うんです。
自分よりもゴールするチャンスがありそうな選手にパスせずシュートを打ったときに、多分こっちのヨーロッパの選手だったらなんとも思わないと思うんですよ。自分で決断してシュートしたんだから関係ねぇみたいな。でも僕は、パスしといたほうがよかったかなみたいなのがちょっと残っちゃう。それって自分自身めちゃくちゃ損だよなって気づいたんです。だって逆にパスをしても、その選手がシュートを外したら、自分にもなんの結果も残らない。アシストもつかないし、シュートも打てない。それが一番最悪だなって。
つまり、すべての選択は自分の責任でしなきゃいけないということ。結局どっちを取っても正解であったり不正解だったりする。そうやって自分で一つ一つのプレーに常に責任を取るという気持ちで取り組むことで、プレーを改善してきたって感じですね」
「出られない期間があると自分を成長させるための練習ができる」
選手としての葛藤を抱きながら、努力を重ねる。時に出場機会が限られる時期もあるだろう。そんな時でも岡崎はふてくされることなく、むしろ「出られない期間があるともっと自分を成長させるための練習ができるから」とポジティブに捉えていた。試合に出続けているとコンディション調整を考慮して、練習量を抑えめにすることもある。逆に出ていないときはトレーニングでガツガツできるから、どんどんチャレンジしたり、いろんなことに意識を向けられると話してくれたことがある。
「ずっと先発として出てた時に、疲れがたまってきても試合に出続けたいから出るんですが、でも無理がきかず安牌なプレーが増えてくるんです。ただ、なんとなく試合には勝っていて『岡崎がここで起点になるプレーをしてくれるから、チームはいいサッカーしてるよね』みたいな感じだと、バッと負け始めたときに、そういう選手が一番最初に外されることに気づくんですよ。
プレーが怖くない選手になってきているかもしれないと気づいたとき、『ここから違う自分を見せていこう』と考えました。一度頭の中をリセットして、例えば今までだったら簡単にバックパスしていた場面で、前を向いて勝負したり、自分からアクションを起こしていく回数を増やしていく。疲れなんて気にせず、それをトレーニングからどんどんやっていく。それはめちゃくちゃ大事だと思うんです」
トレーニングでというと、自分にベクトルを向けた取り組みと、チームにとっての取り組みとがある。欧州で活躍する日本人選手はそれぞれのトレーニング内容や目的を汲み取るが、海外の選手だとそこまでこだわらずにプレーをする選手も少なくない。
トレーニングの意図を汲み取ることがなぜ大事なのかを尋ねてみた。
「間違いなく意図を汲み取れたほうが成長できると思うんです。ただ、汲み取りすぎてもダメ。育成年代から汲み取りすぎていたら、言われたことをやるだけの選手になってしまう。意図を汲み取りつつも、ある程度その中で自分には何ができるかのチャレンジがないといけない。練習の意図を汲み取っていれば、どのタイミングで自分の良さを出せるかもわかってくる。何も考えていない選手だと、ただ言われたことだけをやるのか、もしくは別に関係ねえよとチームとしての決まり事を無視してやるか、バランス的にはどちらもよくない。
僕がいつも心がけていたのは、意図を汲み取れると先読みできるっていうか、自分の良さが出しやすくなるんです。監督が練習で何を求めているかもわかるし、この監督はどこに腹を立てているのか、どういうプレーを嫌がっているのかもわかる。これは試合でも一緒なので、試合でのイメージもしやすいですよね」
ミスや失敗は成長の糧。盟友・長谷部誠の言葉
一方で選手は考えすぎると動きが遅くなるという背景もある。大事にプレーしようとしすぎるあまり、テンポがずれて逆にミスにつながることもある。取材で選手に試合中のプレーについて話を聞くと、事細かくすべての事象をこま切れで捉えることは少なく、むしろ「頭の中にイメージが浮かんだ」とか「体が反応した」という答えを聞くことが多い。特にボール際の競り合いやゴール前でのシーンはそうした「直感的なプレー」が求められる。
「一つ一つのプレーを全速力でやれていたり、本能でできるかどうかっていうのは、練習ではいつも試すようにしています。リラックスしたリズムでパスをもらって、ミスしないようにコントロールしてパスを戻すみたいな練習とかもあるんですけど、それだけではなく自分の個人練習のときに、本能だけでやる練習を取り入れたりしてましたね。あとは、例えば基本的なウォーミングアップでのパス練習でも試合をイメージしてやる。相手のプレッシャーをイメージしたり、試合でのスピード感を持ってやるっていうのは大事。リアリティをどれだけ持てるかって自分では意識していました」
そうした選手時代の自分の感覚は指導者としても大事なキーワードになりそうだ。選手には選手のイメージと思惑がある。外から見て、「なんでそんなことをするんだ?」と思うプレーでも、こちらの知らないところで選手は「こういう狙いを持ってやろう!」という意図があるのかもしれないのだ。
「もちろん選手だったので、自分にフォーカスしながらやってきましたけど、指導者だったらどうかって考えると、自分のやりたいサッカーとか選手に求めることがありながらも、選手がそういう決まりごとの中で何をやろうとするのかっていうのは、フラットに見るべきだなと。こちらが言ってることをやってないけど、『もしかしてこいつこういうことにトライしようとしてんのかな?』っていうところは見逃しちゃいけないと思いますね」
ミスや失敗は成長の糧といわれる。岡崎の盟友である長谷部誠は「僕は後悔はしない。うまくいかないことがあっても、それはのちの成功のきっかけになるかもしれないから」と言っていた。これまでの人生常にチャレンジをし続けてきた岡崎は、これから後進にもその大切さを伝え続けてくれるだろう。
【連載中編】岡崎慎司が到達できなかった“一番いい選手”。それでも苦難乗り越え辿り着いた本質「今の選手たちってそこがない」
【連載前編】岡崎慎司が語る「うまくいくチーム、いかないチーム」。引退迎えた38歳が体現し続けた“勇気を与えてくれる存在”
<了>
「同じことを繰り返してる。堂安律とか田中碧とか」岡崎慎司が封印解いて語る“欧州で培った経験”の金言
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[PROFILE]
岡崎慎司(おかざき・しんじ)
1986年4月16日生まれ、兵庫県出身。元サッカー日本代表。滝川第二高校を経て2005年にJリーグ・清水エスパルスに加入。2011年にドイツ・ブンデスリーガのシュツットガルトへ移籍。2013年から同じくブンデスリーガのマインツでプレーし、2年連続2桁得点を挙げる。2015年にイングランド・プレミアリーグ、レスターに加入。加入初年度の2015-16シーズン、クラブ創設132年で初のプレミアリーグ優勝に貢献。2019年に活躍の地をスペインに移し、ラリーガ2部のウエスカに移籍。リーグ戦12得点を挙げてチーム得点王として優勝(1部昇格)に貢献。2021年より同じくラリーガ2部のカルタヘナでプレーし、2022年にベルギーリーグのシント=トロイデンVVへ移籍。日本代表では、歴代3位の通算50得点を記録し、3度のワールドカップ出場を経験。2016年にはアジア国際最優秀選手賞を受賞している。2024年5月に現役を引退。
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