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スポーツ界の課題と向き合い、世界一を目指すヴォレアス北海道。「試合会場でジャンクフードを食べるのは不健全」

REAL SPORTS / 2024年8月23日 2時55分

2016年に旭川初のプロスポーツチームとして創設されたヴォレアス北海道は、2023年4月に最速でのトップリーグ昇格を果たし、10月に始まるSVリーグに臨む。代表の池田憲士郎氏は、北海道の自然の恵みを生かした食ビジネスと環境ビジネスに力を入れ、競技と事業の両輪でクラブを発展させてきた。肉体を酷使するアスリートが直面するリスクと向き合い、北海道の一次産業の強みを生かしつつ、スポーツツーリズムへの可能性にも言及。大河正明チェアマンも「一番スポーツビジネスに一家言ある人」と高く評する池田氏のスポーツ界への提言と取り組みとは?

(インタビュー・構成=松原渓[REAL SPORTS編集部]、写真提供=ヴォレアス北海道)

北海道の一次産業と競技をつなぐ意義

――ヴォレアス北海道は事業面で、「健康的な食文化の啓蒙」に力を入れているそうですが、どのような取り組みをしているのですか?

池田:これからの時代の幸せの定義を考えるときに「健康であること」は本当に大事だと思いますし、それには食がすごく関わってきます。北海道といえば「ご飯がおいしい」とか、「安心安全な食材」というイメージがあると思いますが、粗悪な野菜も出回っています。もちろん、一生懸命にその道を追求されている方もいるので、私自身、医学的な論文も含めて読み漁り、「安全な食」のロジックについて学んできました。

 アスリートって、極論ですが、実は短命なんですよ。あれだけ体を酷使して、大量のカロリーと大量のタンパク質を摂り、それを分解する過程で体に負荷をかけ、過剰な有酸素運動で体を酸化させながら、燃費の悪いことをするわけです。それを続けると、競技をやめた後に糖尿病になったり、血管や脳の障害につながるリスクもあって、単的に言うと短命になってしまうんです。「スポーツをやりましょう」と啓蒙し、憧れられる存在のアスリートが短命というのは夢がないじゃないですか。

――肉体を酷使するトップアスリートは、それだけのリスクも負っているわけですね。

池田:そうです。それに、試合会場で憧れのアスリートを応援しながら、子どもたちがジャンクフードを食べているのも不健全だと思います。スポンサーさんの関係でクラブが口を出せない場合もありますが、一つぐらいそこに正直に向き合うクラブがあってもいいと思い、それが北海道の一次産業の可能性につながればと思いながら取り組んできました。

――化石燃料削減につながる製品も扱っているそうですが、環境ビジネスもスポーツチームとしては珍しい取り組みですよね。

池田:そうですね。食の取り組みや環境問題の重要性に関しては、特にコロナ禍で重要だと感じました。当時は「エンタメなんていらない」という風潮になったじゃないですか。私たちのようなスポーツのエンタメは、個人の健康的な生活や安定した環境があって初めて必要とされるわけですから、環境を壊したり、健康を害したりすることに加担していたら、長期的な目で見て自分たちの首を縛ることになる。だからこそ、その課題と向き合わなければいけないと思いました。

 オープンに情報を届けられることはスポーツチームの特性で、行政や一企業のアカウントよりもメッセージを届けやすい。だからこそ、率先して環境問題や食の健康も含めて支援していくことこそが我々の役割だと考えています。環境問題の取り組みは企業さんにとってもいいことなので、いいことを正直にやりましょう、と。

インバウンドも見据えた「食ビジネス」の可能性

――スタジアムに出品しているメニューは、どんなものがあるのですか?

池田:自社のものだと天然の蜂蜜を使ったレモンソーダとか、直接農家の生産者さんにお願いしているオーガニック野菜や自然放牧の北海道産豚のハンバーグなど、基本的に化学調味料とか人工甘味料は使用せず、その時々によってメニューを変えながら提供しています。私たちのコンセプトの基準を満たした飲食店さんに出店いただくこともあります。

――どれも健康志向でおいしそうですね。 お客さんの反応はいかがですか?

池田:「もっと安い商品はないの?」という声もいただきますが、映画館やディズニーランドと同じように、「ここは、イベントだと思って、なんとか割り切ってください」とお願いしています。一方で、「こういうコンセプトがあるからこそ安心して食べられる」という声や、健康志向で今までスポーツは見ていなかった方が「それなら推せる」と、試合を見に来てくれることもあります。

――北海道の一次産業×スポーツの組み合わせは、大きな可能性がありそうですね。

池田:特に、今はインバウンドで台湾などから観光客が多く北海道に来ていて、京都、東京に次いで3番目に人気だそうです。今後はそうした海外の富裕層の方も多く受け入れていく中で、北海道の安心・安全な食を提供したいと思っています。大量生産の野菜ではアメリカや中国には勝てないので、質が高くていいものを北海道ブランドで作っていく一端を担えたらいいなと考えています。オーガニックを推奨する理由も、単に健康面だけではなく、従来の慣行農法は使用されている肥料や農薬が輸入に頼り切っているという課題に対しても有効です。北海道の大切な一次産業を持続可能にする為でもあります。また、観光と合わせてスポーツを盛り上げるスポーツツーリズムも積極的に打ち出したいと考えていて、今シーズンは台湾の選手が2人に増えます。

――競技の面も両輪で進めているんですね。賛同企業も増えているのではないですか?

池田:そうですね。時代背景とともに、共感してもらえる人が増えてきたと感じます。

選手にはキャリアの選択肢も

――ヴォレアスが創設した2016年当初はプロ選手が少なかったそうですが、自社で働く選手もいたのですか?

池田:はい。以前はうちの会社で働きながら仕事をしている選手もいましたし、別の職場で働きながら競技をしている選手もいました。今はプロチームになりましたが、選手の一人は営業のセールスのエースをしながら、現役選手としてもプレーしています。

――プロになる選択肢があっても、あえて仕事と両立する選手がいるのですね。

池田:そうです。どのスポーツもそうですが、選手のキャリアを考えた時には、30歳を超えて引退した時に何のスキルもないまま社会人の世界に放り込まれることは気の毒だし、両立も一つの選択だと思っています。現役のうちに営業活動をすれば「選手が来てくれた」と喜んでもらえて、セカンドキャリアにもすんなり入っていけると思うので、希望する選手はその道を選べる形を取っています。

――現状、フロントスタッフは何人ぐらいいるのですか?

池田:副業で携わってくれているスタッフも含めて、フロントは16人ぐらいです。

――SVリーグに参入する上で、新たな選手の獲得などの資金面でもさらにハードルは高くなりそうですが、その点はいかがですか。

池田:現状はきついですけど、コンセプトに賛同してくださる企業も増えて、以前よりは良くなりました。もちろん、最初は資金力のあるチームが名実ともにSVリーグを牽引すると思いますが、入場料やスポンサーが増えてくれば、追いつけるチャンスはあると考えています。

不変のシステムで積み上げた総合力。「いずれはトップのチームに…」

――池田社長は、欧州のクラブでの豊富な指導実績を持ち、クラブ創設時から指揮を一任しているエド・クラインHC(ヘッドコーチ)とはどのようにコミュニケーションをとってチームづくりを進めてこられたのですか?

池田:私は英語はあまりしゃべれないのですが、彼とはプライベートも含めて仲良しで、地域密着の考え方や環境問題、食の問題などの大きなテーマのところで共感しています。勝つプロセスを多くの方に届けて、「それを実現させるために勝つ」という、目的に対しての考え方が一致しているんです。ですから、短期的に勝利を目指すのはもちろん大切ですが、中長期で一歩ずつ実現していくために、定期的に意見交換をしています。

――創設から7年間の積み上げのなかで、チームの成長をどのようにご覧になっていますか?

池田:私たちの強みは、ヘッドコーチがずっと変わらないので、選手が変わっても大枠のシステムが変わらないことです。だからこそ、ちゃんと積み上がってきた実感があります。選手個人の力は上位のチームとはまだ開きがありますし、資金力がトップのチームと5倍の差がある中で勝つことは普通は難しいと思いますが、私たちはセットを取り合ったり、接戦に持ち込んだりしながら少しずつレベルアップしてきたので、積み上げてきた総合力を考えれば、いずれは強豪にも勝てるようになると考えています。長く応援してくれているサポーターの皆さんは、負けた試合でも「今日のゲームよかったよね」と言ってくれます。身内の慣れ合いではなく、「前よりここが強くなったね」ということを共有しながら、前に進んでいることがうれしいです。

――チームを愛し、成長を見守ってくれる方が多いのですね。戦術面などでも進化を可視化できるように発信しているのですか?

池田:ホームゲームでは試合が始まるまでの間にMCと私が話したり、いろいろなコンテンツを用意しています。過去の試合を振り返ったり、チーム状況や選手の心境、試合に懸ける思いなどを、会場のお客さん向けにしゃべるんです。そうすることでチームの現状をしっかり伝えています。

 選手やヘッドコーチと話して大切にしていることは、どんな時でも全力で戦う姿勢を見せることです。負けることもありますけど、とにかく私たちは決めたことをしっかりやり切って、100パーセントの力を出し切る。そうすれば、きっとお客さんにメッセージは伝わるから、と。今では、ホームゲームは試合開始4時間前の時点ですでに行列ができることもあります。

SVリーグとヴォレアスの未来図

――V1に昇格した昨年は10チーム中9位という結果でしたが、どのような収穫が得られたシーズンでしたか?

池田:2部時代はコロナ禍の影響もあり、トップリーグに行けるチャンスがありながらも3〜4年苦しい思いをしたので、その間は選手たちにものすごいプレッシャーがかかり、「負けてはいけない」というネガティブな戦いが続きました。「当たって砕けろ」とかかってくる対戦相手をすべて跳ね返さないと、入れ替え戦に進めない。それを乗り越えて今の舞台に来たわけですから、昨シーズンは結果は9位でしたが、「ハイレベルなトップリーグでの戦いを楽しもう」というメンタリティで臨み、選手たちもそこに喜びを感じてくれたと思います。

――挑戦者のメンタリティが似合うチームですよね。

池田:そうですね。厳しくやるところはありつつ、試合を楽しまなきゃいけない。それがスポーツの原点だと思っていますから。

――10月にはいよいよSVリーグが開幕しますが、池田社長はリーグの未来図をどのように描いていますか?

池田:よく成功の指標としてベンチマークにされるのはBリーグだと思いますが、圧倒的に違うのが試合数です。Bリーグは年間60試合以上ありますが、SVリーグは今は44試合。単純計算でもチケット収益が1.5倍違うので、短期的には試合数を増やしていきたいです。同時に、私たちの地元も含めてアリーナの建設計画が進んでいるので、試合数×キャパシティが大きくなり、スケジュール帳を見なくても「週末は地元で試合がある」という雰囲気が作れればいいなと思います。

――ヴォレアスが描く理想の未来図についても教えてください。

池田:チームとしては日本一を目指していて、SVリーグが世界最高峰のリーグになることを目指していますから、それが叶えばイコール世界一です。競技人口で考えればバレーボールが世界一のメジャースポーツでもありますから、世界一の競技における世界王者の価値ははかり知れません。世界一のチームになれるチャンスは、サッカーでも野球でもバスケでも、なかなかないと思いますが、バレーボールは昨年サントリーサンバーズがFIVB世界クラブ男子選手権大会で世界3位になりましたし、その意味でも世界一になれるチャンスが私たちにもあると思うんです。

 Bリーグで広島ドラゴンフライズが優勝したように、元々はアルバルク東京(トヨタ自働車)等の     企業チームが圧倒的に強かったのが、ここ7年、8年で大逆転した。そういうストーリーを僕らも描けたら、どのチームにもチャンスがあるという証明にもなると思いますし、バレーボールがより多くの地域に広がるきっかけになればいいなと思います。

【前編はこちら】バレーボール最速昇格成し遂げた“SVリーグの異端児”。旭川初のプロスポーツチーム・ヴォレアス北海道の挑戦

<了>

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[PROFILE]
池田憲士郎(いけだ・けんしろう)
1986年生まれ、北海道旭川市出身。ヴォレアス北海道代表・株式会社VOREAS代表取締役。地元で中学から社会人までバレーボールを続けた経験を持つ。大学卒業後、東京の建設メーカー、地元の建設会社での勤務を経て、2016年に地域創生を目指してプロバレーボールチーム「ヴォレアス北海道」を設立。翌年、株式会社VOREASを創業し、経営とともに環境事業、食事業など幅広く展開。2023年4月に最速でのトップリーグ昇格を果たし、24年10月に開幕するSVリーグに挑む。

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