「ラグビーかサッカー、どっちが簡単か」「好きなものを、好きな時に」田村優が育成年代の子供達に伝えた、一流になるための条件
REAL SPORTS / 2024年9月6日 7時30分
ラグビー日本代表として70キャップを誇る田村優が自身の経験を子どもたちに語り明かした。世界を知るトップアスリートが発する本音の言葉の数々から子どもたちが学び得る経験値は計り知れない。世界で活躍するプロのラグビー選手を目指す小学6年生から中学3年生を対象におこなわれた夏合宿。そこで田村が語りかけた、一流になるために必要な「成功の条件」とは?
(文=向風見也、撮影=Ken Shimizu)
小中学生がトップクラブさながらの流れを体感し…
自ずと緊張感を生んだ。ラグビー日本代表の田村優が用意された即席のトークセットに座ると、34人の小、中学生の聴衆は静まる。
8月21日、福岡のスポーツ施設であるグローバルアリーナで実施されていたのはアルゴスラグビーアカデミー。将来プロになりたい小中学生がグラウンド内外で必要な知見を共有する活動だ。
元早稲田大学監督の山下大悟氏が全体のプログラムを統括。山下氏とともに早大を教えた銘苅信吾氏が、スペースにボールを動かす技術と判断について伝える。宿舎でのミーティングとの合わせ技で、セッションの狙いをクリアにする。
練習の前後には体重を測る。休憩時に摂取した水分量と体重の減少量を照らし合わせたら、発汗の量がわかる。食事のメニューをコーディネートし、専門指導もおこなう管理栄養士の金子香織さんらが個々のコンディションを見る。
体調管理といえば、トレーニング後の測定の次に約10度の水に浸かる。クライオコントロールジャパン株式会社が用意した、氷を使わない循環型アイスバスだ。東京五輪のトライアスロン会場でも活用されたこの機器は、疲れの蓄積や熱中症を予防する。
参加者にトップクラブさながらの流れを体感し、家に帰ってからの行動を見つめ直してもらうのがアルゴスの狙いだ。技術指導にとどまらない領域をカバーするこのキャンプはこの夏が2回目で、3日目の午前にスペシャルイベントとして、田村がトークセッションに臨んだ。
日本代表としてワールドカップに2度出場し、2019年の日本大会では正司令塔として史上初の8強入りに貢献した35歳。キャンプをサポートするアシックスと契約する縁でこの場にいた。
まず切り出したのは少年時代のこと。もともとサッカー少年だった田村は、父の高校時代の同級生が監督をする國學院栃木高校でラグビーを始めていた。
「プロスポーツ選手になりたいという思いが一つあって。それがラグビーなのか、サッカーなのか、どっちのほうが簡単かなというのを、自分で考えてはいました。(高校でラグビーを選んだ時は)もう、これしか道がないなと思っていましたね」
ダン・カーターの技術のベースは「裏庭で作った」
トップアスリートの育成年代へのメッセージは、多岐にわたる。
日本代表の主将としてのキャリアが豊富なリーチ マイケルは、どの年代にも「計画を立てることの大切さ」を説く。たくさん突進してたくさんタックルする裏側では、その時々の体調に合わせて自らを追い込んだり、休んだりと自ら立てた「計画」に沿って動いている。
元ジャパンの斉藤祐也氏が運営するスポーツ教室「ボールパーク」では、チャレンジ精神を貴ぶ会の目的を踏まえてこう話していた。
「楽しさを見つけることが大事。また、自分の仲間を大切にするといいことが起こると思います。そして、失敗を恐れずに、どんなことでもチャレンジし続ける。僕はいっぱい失敗して、(所属先の東芝ブレイブルーパス東京で)優勝できました」
やはり楽しむことの価値を謳うのはダン・カーター。あふれる技巧と冷静さで、ニュージーランド代表のスタンドオフとしてワールドカップ優勝を経験したレジェンドはこのように語った。
「私は子どもの頃、実家の裏庭で友達とラグビーをしていました。その頃から自由にボールを投げ、操っていた。いまある技術のベースのほとんどは裏庭で作ったと思っています。リラックスするのが大切。ラグビーはストレスやプレッシャーのかかるスポーツですが、そんななか自分自身をリラックスさせようと心がけてきました」
「ラグビー以外の時間」の過ごし方の重要性
リーチと同級生でもあり、カーターと同じポジションの田村は、よそ行きの言葉を使わず正鵠(せいこく)を射る。
イベントの趣旨も手伝い、話題は技術論に及ぶ。役目の一つとなるプレースキックについては、自分らしく、かつ本質的な型を探すことが肝要だと訴えた。
「(足とボールが)どの角度から当たっても、蹴りたい方向にまっすぐ足と体が出ているか(が肝)。正しい方向に、足と体を持っていければ、物理的にはそこに必ずボールが飛んでいく」
初期にしていたゴールキックの練習は、「適当」とのことだ。
「それこそ、(フォームなどが)固まってきたのはここ 4~5 年。それまでは自分の蹴り方を見つけていく作業です。いまでも毎シーズン毎シーズン、(形は)少しずつ変わっていくので。だいたいの大枠は見つかってきましたけど、試行錯誤し続けている感じですね」
少年に「キックを遠くに飛ばすには」と聞かれると……。
「(身体が)大きくなったら飛ぶようになる。それよりも、10メートルでも15メートルでも、正しいスキルで正確に届けることのほうが大事。それは、パスでもキックでも。いまでも、僕はそう思っています」
一貫して説くのは、各々が自力で基本技術を得ることの勧めだ。
「僕はあんまり、指導とかをするのが好きじゃないんです。まず、僕が指導されるのも、好きじゃない。もちろん、アドバイスは得ますけど。先生、コーチが与えてくれる大枠を、どういうふうに自分のものにしていくかはみんな次第。その作業が、結構、大事かなとは思います」
集団競技としてのラグビーの真髄にも触れた。勝つために必要な行動を問われると、「ラグビー以外の時間でチームメートと何かすることが重要」とした。
「遊びに行ったり、買い物に行ったり、ご飯を食べたり、お酒を飲んだり。そこの満足度がないと、ラグビーは、勝てないかな、と思います。週の頭の月曜日は、皆、練習なんかしたくない。でも、この前の土日は楽しかったね……と言いながら、すっと(月曜日以降のスケジュールに)入っていく。それが毎週。そういうことがあると、(プレー面の)話のキャッチボールもしやすくなる」
「好きなものを、好きな時に」一流になるために必要な“成功の条件”
冒頭こそ静寂に包まれた田村のセッションでは、時間が経つほど多くの質問が出た。関係者によると、ここまでのアルゴスのミーティングでは例にないほど手が挙がったという。話者の素直さが共鳴を生んだのだろう。
まとめの一言は。
「華やかなプレーに目が行きがちですけど、やっぱり突き詰めるところは『しっかりダウンボール(地面に球を置く動作)はできたのか』『しっかりボールは捕れたのか』『しっかりサポートに走れていたのか』という基本プレーです。あとは、(ラグビーは)楽しいスポーツで、これから外国人と出会う可能性もあって。そういうなかで、コミュニケーションを取れる性格であったほうがいいかなとは。いま(キャンプで)社交的になれるチャンスをもらっているわけですし」
ちなみに、トップアスリートとしての食への意識を聞かれれば……。
「好きなものを、好きな時にいっぱい食べる。栄養士の方がいる前であれですけど」
もっとも、その「好きなもの」は「肉、魚、野菜」。国産にこだわる。試合前日には、茶碗2~3杯分の白米でエネルギーを蓄えるとも伝えた。
田村が去ってから、「栄養士」である前出の金子氏は生徒たちに言った。
「田村選手が食べている好きなものって、この合宿で私が『食べてくださいね』と言っているものと一緒じゃないですか? 田村選手は、自分にとって必要なものが、食べたいものになっているんです。自分にとって必要なものをいっぱい摂り入れると、それがだんだん欲しいものになっていきます」
その人にとっての楽しいこと、もしくは好きなことが、その人の歩んでいる道で一流になるのに必要なことと結ばれている。成功の条件だ。
<了>
高校年代のラグビー競技人口が20年で半減。「主チーム」と「副チーム」で活動できる新たな制度は起爆剤となれるのか?
リーグワン王者・BL東京に根付く、タレントを発掘し強化するサイクル。リーグ全勝・埼玉の人を育てる風土と仕組み
9年ぶりエディー・ジョーンズ体制のラグビー日本代表。「若い選手達を発掘しないといけない」現状と未来図
この記事に関連するニュース
-
ラグビー日本3連敗、続く試練のテストマッチ 強国に学ぶべきは選手然り、日本ラグビー全体でもある
THE ANSWER / 2024年11月14日 17時3分
-
【高校ラグビー】東福岡か筑紫か? 11月9日 高校ラグビー福岡県頂上決戦
RKB毎日放送 / 2024年11月8日 19時40分
-
“絶対王者”富山一の10連覇阻んだ龍谷富山が史上初の決勝進出!! 創部&就任21年目で夢に近づく元名門校GK指揮官「浮かれることなく準備したい」
ゲキサカ / 2024年11月6日 13時17分
-
「運動嫌いの子供」が増えるだけ…オリンピック選手を"体育教師"として学校に送り込む文科省の大失策
プレジデントオンライン / 2024年11月2日 17時15分
-
郡山市出身で元ラグビー日本代表の大野均さんが福島市の小学校でラグビーの魅力を授業
福島中央テレビニュース / 2024年10月30日 18時57分
ランキング
-
1新生ホーバスジャパン白星発進!モンゴルに快勝 西田優大が3P7本で21得点12Rのダブルダブル
スポニチアネックス / 2024年11月21日 20時54分
-
2バスケ八村塁「協会批判」が波紋 ネットでファン賛否...「文句言う人は代表辞退すれば」「八村塁めっちゃ共感です」
J-CASTニュース / 2024年11月21日 16時4分
-
3あっぱれ!小園祭り 侍JがWBC決勝以来の日米対決で9得点快勝 小園が2連発含む3安打7打点!
スポニチアネックス / 2024年11月21日 22時13分
-
4《大量の本人グッズをメルカリ出品疑惑》ヤクルト電撃退団の畠山和洋氏に「真相」を直撃「出てますよね、僕じゃないです」なかには中村悠平や内川聖一のサイン入りバットも…
NEWSポストセブン / 2024年11月20日 16時15分
-
5大量18選手が“戦力外”、FAで大物ダブル獲り? 26歳左腕が電撃加入も…阿部巨人の戦力整理
Full-Count / 2024年11月20日 16時38分
記事ミッション中・・・
記事にリアクションする
記事ミッション中・・・
記事にリアクションする
エラーが発生しました
ページを再読み込みして
ください