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FC町田ゼルビア、異質に映る2つの「行為」を巡るジャッジの是非。水かけ、ロングスロー問題に求められる着地点

REAL SPORTS / 2024年9月14日 2時30分

J1の首位戦線を走ってきたFC町田ゼルビアの試合中の行為を巡って、クラブ、ファン、サポーター、審判委員会が議論を繰り広げている。問題となったのは、FW藤尾翔太がPK獲得時にルーティンとしているボールへの「水かけ」と、ロングスロー時に「タオルでボールを拭く」行為だ。競技規則に記述のないそれらの行為の是非とは? 審判委員会と町田・黒田剛監督の見解を通じて、一連の論争の問題点を掘り下げる。

(文=藤江直人、写真=YUTAKA/アフロスポーツ)

競技規則にない“水かけ”の是非。高崎主審の判断は正しかったのか?

全部でわずか17条しかないサッカーの競技規則のなかに、SNS上で是非が問われた行為に対する記述はいっさい見当たらない。日本サッカー協会(JFA)審判委員会のマネジャーで、Jリーグ担当統括を務める佐藤隆治氏も、審判員としての長いキャリアを振り返りながらこう語る。

「海外を含めて、こういったケースを見た覚えはありません。もし僕が指導者だったら、子どもたちにはやらせません。もちろん、やらせる指導者がいても、それを否定するものでもありません」

何に対して言及しているのか。パリ五輪代表に名を連ねたFC町田ゼルビアのFW藤尾翔太が、試合中にPKを獲得したときのルーティンを問われたときのコメントだ。藤尾はそれまで口にしていたペットボトル内の水を、ボールの表面にたっぷりとかけてからPKを蹴ってきた。

クラブ史上で初めてJ1の舞台で戦う今シーズン。藤尾が初めてPKキッカーを託された3月30日のサガン鳥栖戦の87分に、藤尾は普通にボールをセットした末にゴール左に外している。

次にキッカーを任された5月15日の東京ヴェルディ戦の60分に、藤尾は初めてボールの表面に水をかけるルーティンをはじめた。これをゴール右下へ正確に決めると、6月30日のガンバ大阪戦の61分にも、同じルーティンをしかけた後に、今度はゴール左へ勝ち越し弾を叩き込んでいる。

もっとも、このときはPKを蹴る前にひと悶着があった。ピッチ外に置いてあったペットボトルを取りにいこうとした藤尾を、複数のガンバの選手が取り囲む形でこれを阻止。敵地・パナソニックスタジアム吹田で大音量のブーイングを浴びながら、藤尾はしっかりと仕事を遂行した。

ヴェルディ戦で水をかけた情報があったからか。藤尾は試合後にこんな言葉を残している。

「普通に水を飲みたかっただけで、(ボールに)水をかけようとは思っていなかった」

そして、8月17日のジュビロ磐田戦の58分を迎えた。これまでと同じくボールへたっぷりと水をかけた藤尾のもとへ、高崎航地主審がゆっくりと歩み寄ってくる。促されたのはボールの交換。藤尾は両手を広げて抗議の意を示したが、ボールは新たなものに替えられた。

高崎主審に対して町田の選手たちが抗議するだけでなく、ピッチの外では第4の審判団を務めていた塚田健太審判員に対して、黒田剛監督も状況説明を求めている。チームの4点目を決めた藤尾は、試合後に「ルール的には問題ない、と言われたけど、何で、とは思いました」と語っている。

競技規則のなかには、17条のどこにも「ボールに水をかけてはいけない」とは明記されていない。一方で「水をかけてもいい」とも記載されてもいない。こうした状況でボールの交換に至った、ある意味で異例かつインパクトの強い高崎主審の判断を、佐藤氏はこんな言葉を介して支持した。

「間違っていなかったと思っているし、十分に理解できるものだった」

審判委員会の見解。「今後、同様の事象が起こった場合も…」

東京・千代田区のJFAハウス内で11日に行われた、JFAの審判委員会によるブリーフィング。映像をもとにJリーグの試合で起こった事象を振り返りながら、審判団とメディアとの間で共通理解を深める定期開催の場で、真っ先に取り上げられたのが町田対磐田の58分の場面だった。

高崎主審の判断を支持した理由を、佐藤氏は約25分もの時間をかけて説明している。

「競技規則には『これはしていい』とか、あるいは『これはダメ』と一つ一つ具体的に書かれているわけではありません。なので、審判員は競技規則の第1条から17条に書かれている内容や、競技規則の精神をベースに、安全かつ公平で、お互いにフェアで、対戦相手をリスペクトする試合を最後までやりましょう、といった精神のもとでジャッジをくだしていきます」

5月のヴェルディ戦や6月のガンバ戦をへて、JFAやJリーグのもとへは、藤尾のルーティンに対して「厳しく取り締まるべきだ」とする批判が届いていた。磐田戦で示された高崎主審の判断がそのまま流された2試合と違ったものでも、佐藤氏は許容範囲内だと位置づけた。

「ゲームをうまくコントロールしていくうえで、両チームに中立的な立場で目の前の事象を考えたときに、これは交換すべきだと高崎主審が考えた、ということ。この試合を任された彼が90分間を通して、責任をもってゲームをコントロールしたなかでの判断をもちろん支持します。今後に同様の事象が起こった場合も、審判員の裁量に任せます。現状では彼らがさまざまな葛藤を繰り返しながら、何がもっとも大事なのかを自分たちで考えてほしいので、伝えられるとすれば、競技規則とその精神に則って考え、どのようにゲームをマネジメントしていくのか、という点ですね」

黒田監督が指摘する問題点。「議論してくれてありがたい」

一夜明けた12日。町田市内のトレーニング場で非公開練習を終えた後に実施された囲み取材で、黒田監督にレフェリーブリーフィングで示された見解に対する受け止めを聞いた。

今シーズンの町田は藤尾以外にもFWエリキやMF下田北斗、DF鈴木準弥がPKキッカーを担い、このときは事前に水をかける行為なしで成功させている。藤尾のルーティンに対して、黒田監督は自身の指示ではないとしたうえで、まずはこう語っている。

「藤尾が考えたルーティンのなかで、一度成功すればもう一度という気持ちになるのは、絶対に負けたくない、必ず決めたいというプロサッカー選手としての気持ちの表れだと思っている。こちらとしては(ルーティンが)ダメとも、あるいはいいとも言ってはこなかった。しかし、藤尾本人も過去2度は何も言われていなかったなかで、3回目でいきなりボールを交換させられた一貫性のなさに対しては、やはり回答がほしい、と思った気持ちももちろんわかります」

そのうえで、海外を含めたほぼすべての試合で、キックオフ前やハーフタイムにピッチに散水する状況が日常茶飯事になっている状況を受けて、次のような持論を展開している。

「ボールの滑りをよくするために、またはポゼッションをしやすくするために芝生へ水をまくわけですよね。でも、これはどこでもやっているからと、決してとがめられているわけではない。なので、見慣れているか、見慣れていないかというだけの差だと思っています。私たちのロングスローを含めて、いままでの日本のサッカー界で見られなかった光景に対して、アレルギー反応のようなものを起こす感覚は、ある意味でしょうがないんでしょうけど。

 ただ、日本サッカー協会の審判委員会でそういった件を、テーブルの上に乗せて議論してくれた件はありがたいと感じている。われわれはそれを意気に感じて、藤尾もさらに成長するために、ボールに水をかけなくても成功するだけのスキルというか、キックというものを身につけていく必要性もある。その意味でお互いに成長できるチャンスにできればいいと思っています」

「タオル」とロングスロー問題に求められる着地点

黒田監督が言及したロングスローに関する審判委員会の見解も、11日のレフェリーブリーフィングにおける質疑応答で問われている。質問で取り上げられたのは、8月31日に東京・国立競技場で行われた、町田のホーム扱いとなる浦和レッズ戦の前半に見られた光景だ。

町田は戦術の一つにすえているロングスローにおいて、ボールが滑らないために、投げる前にスロワーが表面を拭くためのタオルを複数箇所にあらかじめ置いている。浦和戦は台風10号の影響で雨が降っていたため、ビニール袋に入れたうえでタッチライン際に置いていた。

しかし、開始10分に浦和のベンチ前で獲得した2度目のスローイン。森保ジャパンに初招集されたばかりのDF望月ヘンリー海輝がボールを持ち、ビニール袋からタオルを取り出して拭こうとした直後に、浦和ベンチから脱兎のごとく飛び出してきたコーチングスタッフがいた。

望月の眼前でビニール袋ごとタオルを奪い取ったのは、浦和のヴォイテク・イグナチュク フィジカルコーチ。その後も同じような行為を繰り返し、あるときには自らタオルを取り出しては雨で濡れた自分の頭や顔を拭き、第4の審判員から注意を受ける場面も見られた。

前例のない場外戦を、望月は試合後に苦笑しながらこう振り返っている。

「自分がボールを拭こうとしたタオルを、ポイってやられちゃいました。近くにもう一個あったので、自分の感覚的には『まあ、いいかな』と。そういうこともあるんだな、みたいな感じした」

黒田監督が前任の青森山田高校時代から十八番としてきた、町田のロングスローに対しては、タオルで表面を拭く行為を含めて「時間を余計に浪費する」といった理由で、J2を制して悲願のJ1初昇格を決めた昨シーズンから幾度となく批判の対象になってきた。

もちろん、PKを蹴る前にボールへ水をかける行為を含めて、競技規則にはタオルで拭く行為も、ましてやロングスローそのものに対する是非はいっさい記載されていない。そうした状況を踏まえて、佐藤氏は浦和戦におけるタオルの件に関しては、両チームの配慮が必要だとする見解を示した。

「僕もその試合を見ていましたけど、自分(浦和)のチームの前に相手チームのものが置かれていた、という状況ですよね。そのあたりは基本的に、すべてレフェリーが間に入って何かをする、という形にはならない。対戦チームがあってのサッカーなので、そこはやはり両チームに配慮してほしいな、と。さらにわれわれが介入するよりは、ゲームをよりスムーズに進めていくうえでは、Jリーグと詰めていく話なのかな、と。置く場所などを含めてリーグと話をしながら、みんながそうだよね、と言える着地点を見つけながらやっていければいいのかなと思っています」

「相手が嫌がるプレーをするのもサッカー」。首位戦線を走る軌跡に込めた自負

世界的にスピーディーな試合が求められている状況下で、時間を浪費する、とした批判の対象になっているロングスローそのものに対しても、佐藤氏はレフェリーの裁量に委ねる方針を掲げている。

J2だった町田が横浜F・マリノスを下剋上で撃破した昨年7月の天皇杯3回戦。町田のロングスロワーを務めていた選手が、投げるたびにタオルで表面を拭いていた行為に対して、後半に入って西村雄一主審が注意。それ以降はタオルで拭かずにロングスローを投じている。佐藤氏が言う。

「なぜ拭くのか、という理由はわれわれも理解している。戦術の違いもあるなかで、どこでレフェリーによるコントロールが効くのかといえば、特に時間における公平さとなる。全部ダメ、全部いい、というのではなく、それは時間帯によっても違うと思うし、得点差などによって受け取り方もいろいろと違ってくるなかで、レフェリーがどのようにして鼻を利かせながらコントロールしていくのか。そういった部分で、当時のレフェリーは介入したと思っています」

浦和戦で除去されたタオルに対して、黒田監督はちょっぴり不快感を示している。

「試合前のマッチコミッショナーミーティングで、人のものに手をかけるといった、反スポーツ的行為はやらないとみんなで、相手チームもレフェリーも含めて約束している。なのに、ああいった行為を見ると、根本的に約束が守られていない。そういう点がしっかりと守られれば、こちらとしてもタオルはもう1枚、2枚でいいわけですよね。ただ、今回の話を聞いて、置き方は工夫しなくちゃいけないと感じている。それを相手がすごく失礼だと感じていたのであれば、やめなきゃならない。クラブの運営側と、話し合いたいと思っています」

一方でロングスローに関しては、タオルで拭く行為を含めて、町田の戦術である以上は「やめてほしいと言われているわけでもなく、もう投じませんというわけにもいかない」とこう続ける。

「決して過剰過敏にならずに、しっかりと言われたこと、またはこうしてくださいって言われたことに対して速やかに対応していく、という解釈でいくしかないのかなと。夜露などでボールが濡れている以上は、タオルで拭かないわけにはいかないし、手も汗で濡れている。持ってもらったらわかるけど、ボールは重たいので。見慣れていないものに対して叩き続けるといった風習や傾向はちょっと違うなとは思いつつも、そういったなかでサッカー競技が展開されているのであれば、相手が嫌がるプレーをするのもサッカー。常に相手を気持ちよくさせるというか、相手が嫌だと思うプレーはやりませんと言うのであれば、それはもうサッカーじゃないでしょう」

残り9試合となったJ1リーグ戦で、町田は破竹の7連勝をマークしているサンフレッチェ広島に勝ち点55で並ばれ、得失点で後塵を拝する2位へ後退した。ただ、今月28日には敵地・エディオンピースウイング広島での直接対決も組まれている。まだまだ戦いは終わっていない。

審判委員会による見解で明確にノーを突きつけられなかったなかで、首位戦線を突っ走ってきたこれまでの軌跡にあらためて自負を込め、何を言われようとブレないメンタルを強く脈打たせながら、まずは敵地・ベスト電器スタジアムに乗り込む14日のアビスパ福岡戦に臨む。

<了>

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