2部降格、ケガでの出遅れ…それでも再び輝き始めた橋岡大樹。ルートン、日本代表で見せつける3−4−2−1への自信
REAL SPORTS / 2024年11月12日 2時41分
FIFAワールドカップ・アジア最終予選、現在3勝1分の日本代表は、11月15日にインドネシア、19日に中国とアウェイでの2連戦を迎える。この大事な場面で久しぶりに招集メンバーに名を連ねたのが橋岡大樹だ。今年1月にイングランド1部・プレミアリーグ所属のルートンへの移籍を果たし、リーグ戦10試合に出場するも、チームは18位で2部・チャンピオンシップに降格。迎えた新シーズンはケガで出遅れたものの、復帰後はスタメン出場を続けて好調を維持している。3−4−2−1のウイングバックとセンターバックを担える橋岡の日本代表での起用法も気になるところだ。初挑戦のチャンピオンシップ、そして日本代表復帰について、橋岡大樹がその胸中を明かした。
(文=田嶋コウスケ、写真=REX/アフロ)
「2部降格」「ケガでの出遅れ」は超えるべきハードル
ルートンの橋岡大樹が再スタートを切った。
所属先のルートンは昨季プレミアリーグを降格圏の18位で終え、橋岡も今季から戦いの場を2部のチャンピオンシップに移すことになった。チームメートと共に1年での「プレミア復帰」を目指している。
しかし気持ちを新たに迎えたプレシーズン期間に、橋岡をケガが襲った。7月16日に行われたウクライナのFKルフ・リヴィウとのプレシーズンマッチで左ふくらはぎを負傷。試合に復帰できたのは10月19日のワトフォード戦で、約3カ月の離脱を強いられた。
本人によるともう少し早いタイミングで復帰することもできたが、「ふくらはぎのケガは危ない。繰り返すかもしれないから」と用心し、チームドクターと相談しながら慎重に復帰の時期を見定めていたという。そして満を持してピッチに戻ってきた。
復帰試合の翌節から先発メンバーに戻り、11月9日のミドルスブラ戦まで5試合連続でスタメン出場を続けている。スタートこそ出遅れたが、橋岡のイングランド挑戦2年目がこうして始まった。
もちろん、本人も気持ちを高めている。「2部降格」「ケガでの出遅れ」といった障壁をモノともせず、超えなければならないハードルと前向きに捉えている。橋岡は力強く言う。
「昨シーズンが終わったときから、周りのみんなに『チャンピオンシップで結果を出す』と言っていて。『俺は絶対に結果を出すから』と。ここで結果を出せなかったら終わりぐらいの気持ちでやっています。悔しい気持ちをぶつけて活躍し、周りをギャフンと言わせたい」
「CBもできるし、WBはもっとできる」
11月1日に行われたWBA戦では、3−4−2−1の右ウイングバック(WB)として出場した。橋岡はこれまで3バック一角のセンターバック(CB)として出場することが多かったが、ルートンでの希望ポジションはこの右WBである。
同位置での出場は、チーム事情により急遽チャンスがまわってきた。左WBのレギュラー選手が累積警告で欠場となり、これまで右WBを務めていた選手が左サイドに移った。その空いた右WBに橋岡が入った格好だ。
このチャンスを逃すまいと、サムライ戦士はピッチを走りまわった。攻撃参加時は高い位置まで駆け上がり、守備時は最終ラインまで戻ってゴールを守った。試合後は、ロブ・エドワーズ監督からも褒められたという。
「これまでずっとCBで出ていたので、やっとWBでプレーできた。自分本来のプレーができたかなと。監督からも『よくやった』と言われました。
今日の試合でこのチャンスをつかめなかったら、またWBはやらせてもらえないと思う。結果として、『CBもできるし、WBはもっとできる』と思ってもらえたはず。ファーストチョイスはWBで、CBでもプレーできると」
1−1で迎えた試合終盤には、橋岡に決定的な得点チャンスが訪れた。左コーナーキックに日本代表がニアサイドに飛び込み、ドンピシャのタイミングで強烈なヘディングシュートを放った。しかしポストを直撃しゴールならず──。
決まっていれば決勝弾となってチームを勝利に導いていたが、試合はそのまま1−1のドローで終わった。「惜しかったですね?」と聞いてみると、橋岡は「そうですねぇ」と悔しそうな表情を見せる。「決まっていれば完璧でした。そこがまだちょっと足りないところ。ただ、あそこを毎回狙ってくれれば、自分は絶対に当てられる。もっと多くボールが欲しいですね」と続け、今後もセットプレーから果敢にゴールを狙いたいと意欲を示した。
「プレミアとチャンピオンシップは違う」
橋岡が身を置くチャンピオンシップは、2部リーグならではの厳しさがある。国内リーグ戦は、全24クラブからなるトータル46試合の長丁場。20クラブ、38試合制のプレミアリーグよりも試合数が多い。
2部の1〜2位がプレミアに自動昇格となり、3〜6位に入った4クラブが残りの1枠をかけて昇格プレーオフを戦う。経営規模の小さい僻地のクラブもあって、ホーム&アウェイの移動距離が長く、体力的にも精神的にも過酷なリーグである。
しかも、ルートンは現在21位で降格圏付近に低迷している。エドワーズ監督へのプレッシャーも高まっているが、橋岡は「一回波に乗ればいけるチーム。良い選手も結構いるので、そこはまだ大丈夫。あと30試合ぐらいありますから、まだまだいけると思っています」と語り、長丁場だからこそ昇格のチャンスはあると力を込めた。そして、今季の展望についてこう言葉を続ける。
「もちろん1位、2位に入りたいですけど、(プレーオフ出場権が入る)6位までに入れば、プレミアに上がるチャンスはある。ただ、プレーオフでシーズンが長くなるだけなので、やはり1位、2位を狙いたいです」
――チャンピオンシップの印象は? WBA戦も終盤はロングボールが目立ちました。
「レベルは高いと思いますが、やっぱりプレミアとチャンピオンシップは違う。ロングボールが多いですよね。今日の終盤もそうでした。肉弾戦みたいになるので、体がより大きくなる。この強度にも慣れると思います」
昨季に比べると、橋岡は体が一回り大きくなった。ユニホーム姿を見ると、特に上半身がパワーアップしているのが分かる。サムライ戦士は言う。
「みんなからも『体がデカくなったな』と言われますね。チームの筋トレが毎日のようにあって。こなしていたら自然とデカくなりました」
自分で意識して体を大きくしたわけではなく、チームで課せられた筋トレメニューをこなしているうちに体が大きく仕上がったという。そのおかげで、WBA戦でも空中戦で競り負けることはなかった。
今季のチャンピオンシップでは、リーズの田中碧やブリストルの平河悠、ブラックバーンの大橋祐紀、QPRの斉藤光毅など、日本人選手が数多くプレーするようになった。「また違った意味で刺激になっているのでは?」と聞いてみると、橋岡は次のように返す。
「主力でやってる人は意外と少ない。今、田中碧選手が主力になり始めたところですが、チームで絶対に欠かせない存在にならないといけない。『あの日本人いいな』というふうに思われるようになれば、他の日本人選手もここに来やすくなるはず。自分もここで力を示していきたいと思ってます」
日本代表でも輝く「ユーティリティ性」
橋岡は、FIFAワールドカップ・アジア最終予選を戦う日本代表の11月シリーズ招集メンバーに選ばれた。直近の2シリーズではケガにより選外となっただけに、今回の代表戦に懸ける思いは一際強い。
「これまでの2回は、ケガで呼ばれなかった。代表は、前回のオーストラリア戦で引き分けています。次は中国、インドネシアとの戦い。両方アウェイ戦になるので、絶対に厳しい戦いになると思います。そこで自分がチームの力になれるよう頑張りたい」
橋岡には、複数のポジションでプレーできる「ユーティリティ性」がある。森保一監督が採用する3−4−2−1の両WBには、三笘薫や堂安律、中村敬斗、伊東純也といった攻撃的な選手が起用されているが、橋岡はこのWBだけでなく最終ラインのCBとしてもプレーできる。本人は「自分は右WBもできるし、ルートンでは右CBと左CBもやっている。そこは臨機応変に対応できる」とし、ポリバレントな能力でチームに貢献したいと抱負を語った。
日本人初の道。橋岡のイングランド挑戦2年目
橋岡は、何事に対してもとにかく前向きだ。そして、イングランドで高く評価される資質の一つである「コンフィデンス(自信)」に満ちあふれている。
プレミアからの降格が決まった直後は「2部に落ちた。あぁ落ちるんだ」とひどく落胆したというが、今では気持ちをきっちり切り替えた。目標は当然、プレミア昇格。そして、プレーのクオリティを高めることだ。
「降格は、もう過ぎたこと。あの時は悔しかったですけど、今は気持ちを切り替えています。 自分の目標に向かってやっていくだけです。チャンピオンシップで自分のプレーを見せつけて、『あいつすげえいい選手だな』と思わせたい。ここで輝きたいです」
過去を振り返ると、稲本潤一がアーセナル、フラムでプレミアに在籍した後、WBAとカーディフで2部リーグを戦った。またアーセナルに在籍した宮市亮も、ボルトンとウィガンへのレンタル移籍を通して2部リーグで修行を積んだ。
橋岡のように、プレミアから降格して同一クラブで2部リーグを戦うのは、イングランドの日本人選手では初めてのケースとなる。「今季がダメなら、すべてが終わりぐらいの気持ちでいる」と強い覚悟を決め、橋岡のイングランド挑戦2年目が始まった。
<了>
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