三笘薫も「質が素晴らしい」と語る“スター候補”が躍動。なぜブライトンには優秀な若手選手が集まるのか?
REAL SPORTS / 2024年12月5日 3時9分
現在、上位陣より1試合消化が少ないなかプレミアリーグ5位と躍進続けるブライトン。2戦連続ゴール中の三笘薫の活躍は日本でも大きく取り上げられているが、20歳前後の若手選手たちの躍動がチームの好調を支えていることも間違いない。リーグ王者を撃破した第11節のマンチェスター・シティ戦後に三笘も「選手の質が素晴らしかった」と語った“未来のスター候補”たちの躍動とその理由を紐解く。
(文=田嶋コウスケ、写真=REX/アフロ)
「後半から途中交代で入った選手の質も素晴らしかった」
イングランドで取材を続けていると、記者冥利に尽きる好ゲームに出くわすことがある。11月9日に行われたブライトン対マンチェスター・シティ戦は、まさに手に汗握る一戦だった。
三笘薫を含めたブライトンの選手たちと、シティを率いるペップ・グアルディオラ監督。チームの状況を現すかのように、両者の表情は非常に対照的だった。
ブライトンのマット・オライリーが後半38分に逆転ゴールを奪うと、ブライトンの選手たちは喜びを爆発させた。一方、逆転を許したマンチェスター・Cのグアルディオラ監督は、思わず両手で顔を隠してうつむいてしまう。試合はそのまま2−1でブライトンが勝利。ブライトンが強豪シティを下し、グアルディオラ監督はキャリア初の公式戦4連敗を喫した(この後、シティはトッテナムにも敗れて5連敗となった)。
試合後、英BBC放送のサッカーダイジェスト番組『マッチ・オブ・ザ・デイ』の実況は、興奮気味にこう伝えた。
「ブライトンにとって、何と素晴らしい勝利なのだろう。この試合で、新しい歴史が作られた。ペップはキャリア初の4連敗。当然この歴史は、シティにとって望ましいものではない。一方のブライトンは、新戦力のオライリーが8月の負傷からプレミアリーグに復帰し、うっぷんを晴らす最高のゴールを決めた。間違いなく、今日はブライトンの日だ」
冒頭に記したように、両軍の一戦は好ゲームだった。
前半はシティが5本の枠内シュートに対し、ブライトンは0本。リーグ4連覇中のシティが圧倒した。特に、最後尾から少ないボールタッチで前へ前へと進み、2度にわたって決定機をもたらした一連の攻撃には、グアルディオラ体制の凄みが凝縮していた。
ところが後半に入ると、形勢が逆転してしまう。シティの枠内シュート0本に対し、ブライトンは4本。ブライトンは後半に2つのゴールを決め、2−1で逆転勝利をつかんだ。
元イングランド代表FWで現解説者のアラン・シアラー氏が「前半と後半でまったく違う試合になった。後半はすべてが変わった。前半のブライトンはシティをリスペクトしすぎていたが、後半はプレスの強度を上げ、シティを相手に押し込んだ。ブライトンこそ勝利にふさわしかった」と振り返ったように、ブライトンが見事な逆転勝利を収めた。
4−2−3−1の左MFとして先発した三笘は、試合を次のように振り返った。
「前半は相当苦しい戦いでしたけど、1点で抑えたのがよかった。後半から途中交代で入った選手の質も素晴らしかったので、それに押された形です。 もちろん前半の最初から(仕掛けて)いきたいですけど、あれだけ相手がうまいとハマらない。だが後半に入ると、相手がそこまでプレスに来なかったので、自分たちに余裕ができた。後半あれだけ押し込んで、後ろの選手たちがセカンドボールを拾ってくれたら、サポーターも後押ししてくれる。今日のような展開はホームならではと思います」
シティ戦で輝きを放った若き3選手
三笘が「交代で入った選手の質が素晴らしかった」と語ったように、ブライトンの交代策と、期待に応えた若手たちの活躍が勝因の一つになったのは間違いない。
後半開始時からセントラルMFとして入ったのは、20歳のカメルーン代表MFカルロス・バレバ。前出のシアラーが「バレバが試合を変えた。ブライトンはまったく違うチームに生まれ変わった。すべては彼の投入から始まった」と絶賛したように、中盤底の位置でボール奪取やプレスに走り、ブライトンを勢いづかせた。
もちろん、バレバだけではない。後半20分から出場した23歳のブラジル代表FWジョアン・ペドロも勝利に大きく貢献した一人。貴重な同点ゴールを挙げ、さらに決勝点もアシストした。
効果的だったのは、ペドロの位置取りだ。中央の位置から、三笘のいる左サイドに頻繁に流れ、同サイドで数的優位を作り出した。
ペドロが陣取ったのは「ハーフスペース」、つまりタッチライン側から見て、左サイド・中寄りのレーンだった。その結果、三笘が対峙していた相手サイドバックのカイル・ウォーカーのマークをペドロが引き付け、日本代表はタッチライン際でフリーでパスを受けられるようになった。
ブライトンの先制点は、三笘のクロスボールが起点だ。試合後、三笘は言う。「相手がディフェンスラインをコンパクトにしていたので、サイドが空いた。そこにボールが入れば前進できました」。
シティ戦の1週間後に行われたボーンマス戦でも、ペドロのスルーパスから、三笘が鮮やかにネットを揺らした。サムライ戦士は「ペドロがすごく動きまわる選手なので、彼の動きを見ながらやってます。また、対角のところにダニー・ウェルベックもいる。前線は良い距離感でプレーできていると思います」とし、攻撃陣の連係が向上していると話した。
もう一人、シティ戦でセントラルMFとして先発したジャック・ヒンシェルウッドも忘れてならない。下部組織出身の19歳。シーズン序盤は左右の両サイドバックを務め、最近はセントラルMFでプレーしているマルチロールプレーヤーである。地元紙『アーガス』でクラブ番を務めるブライアン・オーウェン記者をして「間違いなく、将来的にイングランド代表に入る逸材」と言わしめるヒンシェルウッドについて、三笘は次のように称賛する。 「戦術的に本当に高い能力を持っています。いろいろなところでプレーできる素質があるので、本当に素晴らしい選手だと思います。(彼は)僕がまだ大学生の時の年齢。イングランド代表でもアンダーの世代に入ってますし、ここからいろいろと吸収して、素晴らしい選手になっていくと思います。左サイドで一緒に組んだ時は、彼の良さを出しながらやっている。攻撃でも良いところにポジションを取ってくれる選手です」
ブライトンが誇る独自のスカウティング・システム
ブライトンは、独自のスカウティング・システムでクラブの強化を図っている。英国人オーナーのトニー・ブルームは、ポーカー・プレーヤーとして世界的に名を馳せたことのある元ギャンブラー。生粋のブライトンサポーターでもある彼は、数学とアルゴリズムに精通し、クラブでも選手スカウティングに活用している。ブルームが設立した『スターリザード社』は、膨大なスポーツデータを解析し、統計モデルを用いて試合結果を予測する企業で、同社で培われた高度な統計モデリングや解析手法が、ブライトンの補強戦略に活用されているのである。
具体的にはこうだ。世界中のサッカーリーグからデータを収集し、選手個々のパフォーマンスを包括的に分析。世界的に見て未発掘の市場にも目を向け、潜在的なタレントのリサーチに力を入れている。ここに、各地域に精通したスカウトによる評価を加えることで、独自のスカウティングシステムが機能している。スカウトの評価項目には、選手の性格やリーダーシップの有無、遅刻歴、試合で負けているときの態度なども含まれているという。
なおブライトンのアルゴリズムと分析モデルの詳細は、企業秘密により明らかにされておらず、英紙デーリー・テレグラフは「ケンタッキー・フライドチキンのスパイスに似ている」と表現する。「誰もが認める愛すべきスパイスだが、実際の中身は誰も知らない」との説明は的を射ているだろう。 こうしたスカウティング・システムにより発掘されたのが、エクアドル出身のモイセス・カイセド(現チェルシー)であり、アルゼンチンのアレクシス・マクアリステル(現リバプール)だ。ブライトン加入時はほぼ無名の存在だったが、カイセドは移籍金1億1500万ポンド(約220億円)、マクアリステルは4500万ポンド(約86億円)でそれぞれビッグクラブに売られた。無名選手を安価で獲得し、ビッグクラブに高値で売却するこうしたビジネスモデルが、ブライトン最大の武器と言っていい。
ペドロ、オライリー、バレバ……新進気鋭の若手の活躍
ブライトンが獲得したそんな若手たちが今、ピッチで躍動している。
シティ戦で同点弾を決めたペドロが23歳、逆転弾を決めたオライリーも24歳。オライリーは今季セルティックから即戦力としてやって来た若きデンマーク代表選手だ。その下の世代に目をやると、シティ戦でMVP級のインパクトを放ったバレバが20歳である。
さらに、下部組織出身のヒンシェルウッドが19歳、トップ下で存在感を示しているジョルジーニョ・リュテルも22歳と、世代交代の進まないシティに比べると、ブライトンは新進気鋭の若手の活躍が目立つ。
チーム在籍3年目で、現在27歳の三笘は、若手の多いブライトンで年齢的に上から数えたほうが早い「中堅」である。日本代表は「プレーで見せないといけないと思っている」と語り、自身の奮闘する姿を示すことで、20歳前後のヤングスターを引っ張っていくと力を込めている。
昨シーズンを11位で終えたブライトンは、現在5位の好位置につける。果たして、彼らはどこまで躍進できるか。三笘はもちろん、「未来のスター候補」がひしめくブライトンのこれからが楽しみでならない。
<了>
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