高校サッカー選手権で再確認した“プレミアリーグを戦う意義”。前橋育英、流経大柏、東福岡が見せた強さの源泉
REAL SPORTS / 2025年1月20日 7時57分
前橋育英の優勝で幕を閉じた高校サッカー選手権。PK戦の末に惜しくも敗れた流経大柏を含め、決勝で激戦を繰り広げた両校はどちらも高円宮杯 JFA U-18サッカープレミアリーグEASTに籍を置く。Jクラブとも肩を並べて毎週末のように強度の高い試合を繰り返して切磋琢磨し、流経大柏は12チーム中の4位、前橋育英は6位で今季のリーグ戦を終えている。調子を落とした時期もあった両校はいかにして高体連の頂上対決にたどり着いたのか。選手権を通して改めて感じられた“プレミアリーグを戦う意義”とともに振り返る。
(文=松尾祐希、写真=森田直樹/アフロスポーツ)
強豪校対決となった決勝。浮き彫りとなった選手権の難しさ
全国高校サッカー選手権大会が終わり、早1週間。前回王者の青森山田が初戦となった2回戦で高川学園に1−2で敗れ、今季の高円宮杯 JFA U-18サッカープレミアリーグ・ファイナル覇者の大津も3回戦で流経大柏に1−2で惜敗。優勝候補と目されていた2チームが早々に姿を消す一方、決勝の舞台まで上り詰めたのはプレミアリーグに籍を置く強豪校だった。
準決勝で東福岡に競り勝った前橋育英と、大津を撃破した流経大柏。
いずれも長きに渡って高校サッカー界を牽引してきた強豪校で、そんな両雄の対決を見ようと、1月13日に国立競技場で行われたファイナルには5万8347人の観衆が詰めかけた。過去最多を更新するファンが見守るなか、1−1で決着がつかずに迎えたPK戦は10本目までもつれる展開となるも、9−8で接戦を制した前橋育英が7年ぶり2度目の凱歌をあげた。
夏のインターハイで結果を残した昌平(優勝)、神村学園(準優勝)、帝京長岡(ベスト4)といったチームが都道府県予選で姿を消し、プレミアリーグ勢であっても簡単に勝ち抜けないことが実証されていた今大会。今予選ではプリンスリーグ勢や都道府県リーグ勢も創意工夫を凝らしながら切磋琢磨して全国行きの権利を手にした。
とはいえ近年の潮流としては、2011年にプレミアリーグが開幕し、そこから強豪校は毎週のように高強度の戦いを繰り広げ、トップカテゴリーに籍を置くチームが冬の選手権に出場し、結果を残す。近年はその流れが続いていた。
しかし、選手権本大会の難しさはまた異なる。
一発勝負のトーナメント戦。しかも、48チームが参加するため、どうしても1回戦がシードになるチームが16校出てしまう。そのため、準々決勝まで中1日の連戦をこなすレギュレーションでは、1試合少ない状態で80分ハーフのゲームに挑めるアドバンテージは大きい。実際に今大会中にも静岡学園の川口修監督が「(準々決勝を迎えるにあたって)これが4試合と(シード校の)3試合では、もう(コンディションの差が)すごく出てしまう」と課題を口にしており、実力通りに結果が出せるわけではない。また、首都圏開催のため、東京、千葉、埼玉、神奈川の出場校は序盤戦をホームで戦える“利”がある。そこに80分で決着がつかない場合は“即PK”という高校サッカー特有のルールが合わさるため、波乱が起こるケースも珍しくない。
夏場までチーム状態が悪かった3チームが躍進
そうした大前提を踏まえた上で今大会を振り返ると、最終的にベスト4まで勝ち上がったチームは4分の3がプレミアリーグ勢だった。
優勝した前橋育英と準優勝の流経大柏はプレミアリーグEASTに籍を置く。3大会ぶりの出場ながら9年ぶりにベスト4に入った東福岡はプレミアリーグWESTでしのぎを削る。しかし、3チームに共通しているのは夏場までチーム状態が良くなかったという点だ。
前橋育英は春先から苦戦。特に最終ラインのメンバーが定まらず、最適解を見つけられずにいた。昨年6月にはインターハイ予選の準決勝で敗北。リーグ戦でも下位に低迷。少なくとも昨夏までの状態を見る限り、選手権で日本一を獲れるような状況ではなかった。
一方の流経大柏は新チーム発足の時点で攻守にタレントが揃い、他校からの前評判も抜群。事実、昨年4月上旬に幕を開けたプレミアリーグでも順調に勝ち点を重ね、インターハイ予選などの影響で一時リーグ戦が中断する5月下旬の時点では首位を走っている。前線からのハイプレスとMF柚木創と亀田歩夢が牽引するショートカウンターには破壊力があり、Jクラブに対しても圧倒的な力を示していた。しかし、6月中旬にインターハイ県予選決勝で市立船橋に敗戦。そこからチームは調子を落とし、戦い方に迷いが生じてしまう。7月以降のリーグ戦でも勝ち点を拾えず、攻守のバランスが崩れた。
過去3度選手権を制している東福岡もそうだ。昨年1月下旬の県新人戦準決勝で福大若葉からゴールを奪えず、PK戦で敗戦。上位2チームが出場できる九州新人戦にたどり着けなかった。3月終わりに行われ、全国各地から強豪校やJクラブの有力チームが集う船橋招待サッカー大会でも苦戦。直後に開幕したプレミアリーグでは一昨年12月に新指揮官となった平岡道浩監督の下で磨いてきた堅守をベースになんとか勝ち点を拾ったものの、6月のインターハイ予選では準決勝で再び福大若葉に敗れた。押し込みながらも要所を締められずに3失点。ライバルに2度敗れたダメージは大きく、キャプテンのDF柴田陽仁も「最後に集中力が落ちてしまい、隙を見せる試合が多かった。それがうまくいかなかった原因」と状態が上向かなかった要因を口にしていた。
だが、この3校は夏を超えて大きく様変わりした。
守備の再構築、センターバックの選手台頭が“安定”のカギに
昨年夏以降、前橋育英はメンバーが定まり、最終ラインの軸も明確に。Bチームから駆け上がってきたDF鈴木陽と2年生DF久保遥夢がセンターバックで安定したプレーを見せ、守備の安定とともにチームの状態が向上。選手権予選前の3試合はプレミアリーグで3連勝を飾るなど、夏場までに見せていた脆さは微塵もなくなった。
流経大柏は戦い方を見直し、ベースとなる強度を再確認。DF奈須琉世とともにキャプテンを務める佐藤夢真がセンターバックでレギュラーポジションをつかむなど、プリンスリーグ関東2部で戦っているBチームからの選手の台頭で選手層も拡充された。
東福岡も夏場に守備を整備し、体の入れ方や競り合いのタイミングといった基礎的なところから徹底的に取り組んだ。プレミアリーグ残留が決まった10月以降は攻撃の再構築に着手し、位置取りや選手同士の距離感を修正。伝統のサイドアタックも蘇り、11月の選手権県予選は3試合で12得点・0失点という圧倒的な強さで頂点に駆け上がった。
再確認した“プレミアリーグを戦う意義”
巻き返しを図った3チームは結果として選手権で好成績を収めたが、いずれもプレミアリーグで毎週のようにトライ&エラーを繰り返し、課題と向き合い、高強度のなかで揉まれながら調整する場があった点が大きい。
Jクラブや高体連屈指の強豪校としのぎを削った経験値は唯一無二であり、地域リーグでは味わえない強度がチームにとって財産となった。今大会は準々決勝まで無失点を貫いた東福岡の平岡監督も“プレミア”で培った経験が大きかったと振り返る。
「プレミアリーグで鍛えていただいたのは大きい。Jクラブや強豪校は猛者ばっかりで、ボールを持たれる展開も多かった。なので、支配されても怖いとは思っていなかったので、(選手権では)守り切れる自信はあった」
一方で、そうした状況下でもプレミアリーグ勢に対抗するために創意工夫し、ショートカウンター戦術を中心に強豪校と戦うすべを身につけて力をつけてきたプリンスリーグ勢や県リーグ勢は多い。前橋育英、流経大柏にとってそのプリンスリーグ(関東2部)でBチームの選手たちが戦う意義も大きいだろう。その上で、プレミアリーグに在籍することでしか得られない経験値があることもまた事実だろう。
103大会目を迎えた選手権、そしてプレミアリーグが創設されて14年目のシーズンが終わった。
春先には“厳しい”と思わされても、最終的には大きな花を咲かせられる。Jクラブの育成環境が整い、昔のように高体連のチームに有望株が多くは流れなくなったが、Jクラブ勢とも切磋琢磨し、鍛えていけば上のステージを目指せる。今回の選手権では改めて、“プレミアリーグを戦う意義”を感じる場となった。
<了>
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