卓球・17歳の新王者が見せた圧巻の「捻じ伏せる強さ」。松島輝空は世界一を目指せる逸材か?
REAL SPORTS / 2025年1月30日 2時26分
2025年、全日本卓球選手権。男子シングルスは17歳の松島輝空が圧勝を連発し、衝撃的な優勝を飾った。かねてより注目を集めていた若き才能が、ついにこの舞台で爆発した形だ。強気な姿勢と圧倒的な攻撃力でファンを魅了するその戦いぶりに、今後、世界が釘づけとなることは間違いないだろう。そこで本稿では全日本選手権の熱戦を振り返るとともに、松島が世界一にたどり着く可能性を探る。
(文=本島修司、写真=松尾/アフロスポーツ)
実力者2人が完敗「捻じ伏せる強さ」
松島輝空にとって、この全日本選手権男子シングルスは、決して楽な組み合わせではなかった。6回戦では、元全日本チャンピオンの吉村真晴と激突。経験豊富なビッグネームであり、全日本選手権の「勝ち方を知る男」でもある。
しかし、今の松島の前ではあの吉村でも食い下がるだけで精一杯だった。2ゲーム目を落とすも、4-1で圧勝。危なっかしい場面は一度もなかった。台に近い位置で豪腕ドライブを打ち込む姿は破壊力満点だった。
準々決勝の相手は「猛者が集まってしまった“死のリーグ”」で大島裕哉を負かして勝ち上がってきた、曽根翔。ドイツのプロリーグでのプレー経験も持つ異色の22歳。
松島は1ゲーム目を3-11で落として観客を驚かせたが、2ゲーム目からは何事もなかったようにエンジンが全開に。こうなるともう手がつけられなく、またしても台の近くで火の出るように叩き込む破壊力のあるドライブを連発。さすがの曽根もなす術がなかった。
吉村と曽根。この実力者2人が「捻じ伏せるような強さ」の前に、完敗に近い形で敗れた。その光景は衝撃的でもあった。
そして、松島は日本のエース張本智和との大一番を迎える。
やはり決め手は17歳とは思えない“鋼のメンタル”
準決勝の相手は、日本が誇るエース・張本智和。今大会最も注目のカードといえるだろう。誰もが激しい大接戦になることを予測したが、その見立てがあっさりと覆されることになる。
1ゲーム目。1本目からバチバチのラリーで、打ち合いを展開。すぐに張本の雄叫びが響き渡る。張本も必死だ。この試合が正念場だと思っている様子が伝わってくる。
6-5から見せたのが、松島の王道パターン。サウスポーのチキータからの回り込みシュートドライブ。それを前陣で打つ。前陣で打つだけではなく、思い切り打つ。フルスイングだ。これによって相手も、見ている側も「まるで捻じ伏せられていく」感覚を植えつけられる。
7-7からもまたこのパターンでのシュートドライブ放った。これがあの張本を相手に“ノータッチ”で抜けていく。
張本も必死に食らいつく。松島を左右に振り、大きくフォアに動かしてからバックミートをバックへ叩き込む。「バック対バックでミートのラリーを長く打ち合えば有利」。そう言っているかのようなコース取りだ。確かにこの展開になると、張本が得点するシーンは目立った。
それでも、デュースにもつれながらも、最後はやはり張本のフォアへ強烈なシュートドライブを叩き込んだ松島が勝利した。
2ゲーム目はミドルへのつなぎも交えた張本が逆転勝ち。3ゲーム目はここではフォアクロスのコースに目いっぱいの剛速球ドライブを3本連続で叩き込んだ松島が制する。
勝負の分かれ目となったのは…
勝負の分かれ目となったのは、4ゲーム目だ。
先ほどまで届かなかった、張本のフォアへの揺さぶりに手が届くようになった。そうなるともう手がつけられない。
1-1からは衝撃的なボールもあった。張本のチキータを思い切り回り込んで、思い切り豪打。100%のフルスイング、いや、それ以上からもしれない。普通なら力が入りすぎたともとれる120%のような力。上から叩きつけるような豪打。中継の解説者は「ブン回している」と表現した目いっぱいのスイングは、ノータッチで張本を抜いた。
5-2からはロビングでバックドライブを放って、劣勢からの逆襲で得点。勢いがつきすぎて止められない。
張本もバックサーブに切り替えてなんとか打開策を探るが、デュースに持ち込んでも豪打が止まることなく烈火のごとくコートに突き刺さってくる。12-10で松島が奪取。
5ゲーム目。ロングサーブを多めに入る松島に対し、張本が即座にうまく対応。すると今度は小さなボールでストップの止め合いになるが、少しでも高さが甘いと見るや、飛び込んできて豪打一発。とても間に合わないようなボールにも無理矢理回り込んで体を倒し切ってまで豪打一発。 このゲームを象徴するような「無理矢理にでも豪打でくる一発」が、張本の想像やシミュレーションのすべてを超えてしまったかのような一発。11-7。松島が4-1で勝利した。
篠塚大登との決勝戦。17歳での初優勝
迎えた決勝戦。篠塚大登との一戦は、開始直後に篠塚が思い切って仕掛ける姿が目についた。
ポーカーフェイスの篠塚だが、先の松島VS張本の準決勝も見ていたはずで、先に攻めるしかないと決めてかかったような展開。
バックミートの打ち合いで1-1。もう1回バックミートの打ち合いで1-2。フォアもなるべく松島より先に打って出ていく。
静かに、叫ぶこともなく、篠塚らしさがよく出ている。篠塚もまた、準決勝では今大会絶好調で一気にブレイクした谷垣佑真を倒して勝ち上がってきた。
この決勝戦は、そんな静かな策士、篠塚からの仕掛けで4-1と篠塚がリードしながら幕を開けた。
しかし、状況が一変するのにあまり時間はかからなかった。
カウンタードライブが一発決まって4-3になると、ここから松島の闘争心に火がつく。またしてもフォアの豪打連発を開始。篠塚もロビングを台の下で拾いながら回転をかけて曲げてみるなどかなり工夫を凝らしたが、どんどん劣勢に。このゲームを落とした。
2ゲーム目、3ゲーム目も、同じような展開に。序盤は篠塚がリードするも、松島に火がつくと止められなくなる。豪打が連発される。篠塚は中盤も食らいつき、バックに回し、松島が一瞬、崩れかける場面もあった。だが、松島のサウスポーから繰り出されるロングサーブからの豪打一発。大事な場面では、ことごとくこれが決まった。
4ゲーム目。篠塚はまた策を練る。ロングサーブをミドルへ。それをバックで取らせて、バックミートの打ち合いへ持ち込む。5-1で開始だ。少し松島が苛ついたような姿を見せた。
篠塚が流れをつかみ8-5まで持ってくるが、ここでまた衝撃的なプレーが飛び出す。フォア前を松島がチキータ。これがまた、チキータ自体をフルスイングするような「一発抜き」。サウスポー対決で、特に浮いたわけでもないサーブでこんなプレーはなかなかお目にかかれない。このゲームは11-6で篠塚が制する。
5ゲーム目。松島のロングサーブを、今度は篠塚が一発抜き。この「時折、一発の抜き合い合戦になる」のが松島輝空の試合ぶりの特徴だろう。なんだかまるで、相手も松島の世界観に引きずり込まれているようだ。
第5ゲームでは松島のカーブドライブの曲がり方が尋常ではない領域に入った。もはや「破壊神」。そんなキャッチコピーが似合うほどの圧倒的な姿で勝ち切った松島が、17歳で初優勝を飾った。
松島輝空は、世界を獲るか?
卓球だけではなく、どのスポーツにおいても「攻撃は最大の防御」という言葉は当てはまるだろう。しかし、卓球という競技でここまで攻撃を「マックスのパワーで打ち込むこと」に特化した選手が、今まで日本の男子にいただろうか。これまでの日本人選手のスタイルに単純に置き換えることのできない新しいタイプの選手といえるだろう。
では、松島輝空が世界を獲る上での課題は何か。
現時点では篠塚との決勝戦の4ゲーム目で見せたような試合中に「フッと気持ちが切れる」瞬間があることが挙げられるだろう。このあたりは世界のトップと対戦する際に課題になってくるのかもしれない。しかし、最終的に今大会もしっかりと優勝を飾ったように「自分で気持ちを持ち直す力」も備わっている。
これから中国勢と戦う中で見えてくることもあるはずだが、現時点では次の世界戦、そしてロサンゼルス五輪でも「楽しみしかない」。
パリ五輪に関して大会後、「(リザーブとしては)二度と行きたくないと思った」と言ってのけ、そのパリ五輪出場組の張本、篠塚を立て続けに破ったことを「大舞台で自分が倒したいと思っていた」と振り返る強靭なメンタルと飽くなき向上心。彼が世界を獲る日は、そう遠くはないのではないか。
<了>
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