プロに即戦力を続々輩出。「日本が世界一になるために」藤枝順心高校が重視する「奪う力」
REAL SPORTS / 2025年2月10日 7時9分
全国優勝8回、プロを30人以上輩出――。高校女子サッカー界の強豪・藤枝順心高校は、夏のインターハイと冬の全日本高校女子サッカー選手権で5季連続の日本一に輝き、黄金期が続いている。年代別代表やWEリーグに即戦力を送り出してきた同校の中村翔監督が高校年代で重視するのは、「奪う」技術。それは、「なでしこジャパンが再び世界一になるために必要な力」でもあると同氏は考える。その指導哲学に迫った。
(インタビュー・構成=松原渓[REAL SPORTS編集部]、写真提供=藤枝順心高校)
「もう一度世界一になるために」育成年代で必要な「奪う力」
――将来的に代表入りを目指す志を持った選手たちを育てるために、育成年代でどのようなことを強化すべきだと考えていますか?
中村:一つは、いろいろな物事に対する状況判断力、対応力をつけるために「考える力」を鍛えることが必要だと常に思っています。日頃のトレーニングや試合の中で「今、どういうことを基準にして判断をしたの?」という問いかけをよく選手にするのですが、同時に「こういう選択肢もあるよね」と、可能性を広げてあげるようなコミュニケーションの取り方をすることで、判断の幅が広がって、考える力は少しずつ伸びていくと思います。
また、将来的になでしこジャパンがもう一度世界一になるためには「ボールを奪う力」が重要だと考えています。逆に、ブロックを作って引いて守ったら、勝つ可能性は低くなると思うんです。理想は、相手陣内の高い位置から相手に制限をかけてボールを奪い、素早くゴールにつなげることだと思うので、藤枝順心では低い位置でブロックを敷くサッカーはしません。そういう理念をもとに、前で積極的に奪って自分たちがゲームを握るサッカーを選んでいます。
――今年からU-17女子ワールドカップの出場国が拡大され、隔年開催から毎年開催に変更になりました。コンスタントに選手を送り出しているU-17日本女子代表の強化についてはどのようにご覧になっていますか?
中村:代表はクラブ、高校のチームと違って活動期間が限られている難しさがあります。その中で、選手がそれぞれの特徴を活かして互いを引き立てられる関係を作ることがすごく大事なことだと思いますが、過去には(代表の)人選がチームの方向性に合っていないなと思うこともありました。 チームコンセプトは大切だと思いますが、選手がいなければチームコンセプトは成立しません。私たちもベースとなるサッカーのスタイルはありますが、毎年、その年の選手たちの良さが出るようにアクセントや変化を加えています。その意味では、年代別代表でも、日本らしいプレーコンセプトの中でさらに個々の良さが引き出されるようになれば、ワールドカップでの成績もさらに上がるんじゃないかな、と思います。
「奪う」技術があればカウンターにも対応できる
――今年の3年生からは、藤原凛音選手(アルビレックス新潟レディース)、柘植沙羽選手(ちふれASエルフェン埼玉)、植本愛実選手(ジェフユナイテッド市原・千葉レディース)の3人がWEリーグに内定しています。毎年、WEリーグのクラブや強豪大学からも多くのスカウトがくると思いますが、選手たちの進路を考える上ではどんなことを大事にされていますか?
中村:WEリーグのチームでも、大学でも、すごく熱心に声をかけてくださるチームはありますし、本人が行きたいと考えているチームもあります。その中で、選手たちにはまずそのチームの練習を体験に行って、自身が肌で感じたことを、一番大切にしてほしいと思っています。私が「あのチームに行った方がいい」というようなことはまったく言わないです。もちろん、「このチームに行ったらこういうメリットやデメリットが考えられるね」という可能性は私の考えの中で伝えますけど、それも実際にやってみなければわからないことのほうが圧倒的に多いですから。最終的には、「自分がここで頑張りたい」と思えるチームに行くのが一番だよ、と伝えています。
――藤枝順心高校で3年間、前から奪ってゴールを目指す攻撃的なサッカーを目指してきた中で、守備的なスタイルのチームに進む場合は、どのようなアドバイスを送るのですか?
中村:うちは「前から奪いに行く」サッカーを志向していますが、「ボールを奪える」技術を身につけた選手は、引いて守るサッカーには対応できます。ただ、引いて守ることを教わってきた選手がボールを奪いに行くチームに入った時には、難しさを感じると思います。なぜなら、ボールは「奪う」ための理論や原理 ・原則を知らないと奪えないからです。
私はその「奪う」技術が一番身につくのが高校生年代までだと考えています。3年間の中でどんなサッカーにも対応できるIQや技術、フィジカルはトレーニングの中で積み重ねてきているので、守備的なチームに行っても対応できるものを選手たちは身につけていると思います。
――「ボールを奪う」スキルの原理・原則は、どのように落とし込んでいくのですか?
中村:選手によって守備の個人戦術や理解度に差があるので、その時々で教える段階は変えていますが、まずは1対1でどうやったら丸いボールが自分の前に転がるか、という原理を知ることや、対応の仕方は身につけておかなければいけない部分だと思います。目の前の相手がボールを持っていたとして、そこに足を出して奪いに行こうと思っても、相手はボールを動かして前に進もうとしているので、転がるボールにアプローチすることになります。そういう動きをシーンとして捉えられているか、捉えられていないかによっても、教えるステップが違ってきます。
――強度以前に、状況に応じてボールと相手との距離感や角度なども含めた守備の原理を理解しなければいけないですね。
中村:そうです。その概念がある選手とない選手だと、アプローチの仕方も変わってきます。その意味でも、まずは1対1の個人戦術を磨くことが一番大事な部分になります。
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新生なでしこジャパンへの期待
――なでしこジャパンは新たにニルス・ニールセン新監督の下で再スタートすることになりましたが、どのような期待をしていますか?
中村:昨年10月に、限定で佐々木則夫さん(日本サッカー協会女子委員長)がなでしこジャパンの親善試合で代行監督をした試合で、積極的に前からボールを奪いに行くゲームを見せてくれました。それを見た時に、「藤枝順心高校で取り組んできたことがこういうところにつながっていくんだな」と改めて思いました。そのスタイルが明確だからこそ、ニールセンさんが新監督に迎えられたと思いますし、1月の高校女子サッカー選手権の決勝戦を見に来てくださった際には、同じ方向性を高校サッカーで示せたと思います。その意味でも、なでしこジャパンが魅力的なサッカーで世界に挑戦してくれるのを楽しみにしています。
――代表は海外組が多くなりましたが、藤枝順心高校でも、卒業後に海外挑戦する選手も出てきました。こうした進路や、女子サッカー界の流れについてはどのようにご覧になっていますか?
中村:選手たちはいろいろな世界を見たほうがいいと思いますし、海外にチャレンジすることはすごくポジティブに捉えています。私が高校生だった時は前例が少なく、私自身も海外挑戦という考えには至らなかったのですが、そういう選択肢があるのとないのとでは全然違うと思いますから。今の選手たちは選択肢が広がって羨ましいですよね。
――欧米の女子サッカーが発展する中で、目指すチームの選択肢も増えていますよね。
中村:そうですね。今年の3年生も、卒業後に2人がアメリカ、2人がスペインのチームに加入することが決まっています。海外にもいろいろなサッカーがありますし、文化の違いをサッカーから学ぶこともすごく大事なことだと思います。
高校女子初の3冠へ「チャレンジできる境遇に感謝」
――全日本高校女子サッカー選手権では3連覇中ですが、新シーズンはどんな目標を持ってスタートしたのですか?
中村:インターハイと高校女子サッカー選手権では連覇を達成できましたが、JFA U-18女子サッカーファイナルズ(※)で優勝したことがありません。初めて出場権を得た2021年はコロナ禍で中止になり、2023年と24年は日テレ・東京ヴェルディメニーナに敗れています。メニーナは昨年、夏の日本クラブユース女子サッカー大会(U-18)、冬の全日本U-18女子サッカー選手権と合わせて3冠を達成しているので、次はうちがファイナルズを制して3冠を達成したいと思っています。
(※)クラブユースも含めたU-18年代の頂点を決める大会
――そうなれば、インターハイ3連覇と、高校女子サッカー選手権4連覇という記録更新も実現しますね。
中村:そうですね。難しいことだとは思いますが、その両大会の連覇にチャレンジできるチームは今はうちだけなので、その境遇で戦えるありがたさを感じながら、連覇への意欲がふつふつと湧いてきています。
【連載前編】前人未到の高校女子サッカー3連覇、藤枝順心高校・中村翔監督が明かす“常勝”の真髄
【連載中編】前人未到の高校女子サッカー3連覇、藤枝順心高校・中村翔監督が明かす“常勝”の真髄
<了>
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[PROFILE]
中村翔(なかむら・かける)
1988年11月12日生まれ、岩手県出身。藤枝順心高等学校サッカー部監督。盛岡商業高校3年時に全国優勝。国士舘大学を卒業後、藤枝明誠高校で教員採用され、サッカー部のコーチを務める。2017年に姉妹校の藤枝順心高へ異動してサッカー部コーチを務め、2021年から監督に。2025年1月の全日本高校女子サッカー選手権では過去最多の86名に上る部員をまとめ、39得点無失点で史上初の3連覇を達成。夏のインターハイと冬の選手権で5季連続の日本一に輝いた。1月26日の静岡県高校新人戦では21連覇を達成。保健体育、情報科教諭。妹はWEリーグ・サンフレッチェ広島レジーナ所属のDF中村楓。
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